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2人の初公演のために

「一ノ瀬君、砂城さん。 お二人には文化祭の余興の1つである、開会式の催しの舞をやってもらう事にした。」


 二ノ宮から真面目と沙羅にそう告げたのだった。


「文化祭の、ですか。」

「文化祭は2日に分けて行われるのですが、1日目は生徒内で楽しみ、2日目は保護者を含めた外部の人間を入れての文化祭となります。 そしてその余興の開会式にて、宣言の後に2、3種類程催しをするのですが、我々日本舞踏クラブもその催しを行うのです。」

「そこが私達、というよりも、新人の初お披露目ということになるということですか。」


 皇の説明に沙羅が納得したように頷く。 真面目も出し物としてやることは理解した。


「今までの練習や見学はここに通じるためにあったのさ。 勿論公演日程まで徹底的にやることに変わりはないから、しっかりついて来るように。」

「はい。」

「よろしくお願いいたします!」


 二ノ宮の宣言に真面目も沙羅も気合いを入れ直し、すぐにと言わんばかりに練習を始めるのだった。


「それでは今日はここまでにしましょう。 二人ともお疲れ様でした。」


 そして最終下校時間が迫ってきているタイミングで、皇の一言でね練習が打ち切られた。 真面目と沙羅は練習での疲労がそのまま身体に現れて、文字通り倒れているのだった。


「ゼハー・・・ゼハー・・・」

「砂城さんもよく頑張ったよ。 今までよりもハードにはしていたけれど、よくついてきていましたね。」

「あ・・・ありがとうございます・・・ ったく、一ノ瀬はなんで倒れてるんだよ。 あんた、あたしより動きは楽な筈だろ?」


 そう言う沙羅に対して、真面目は手を出していた。 その手に力が入っておらず、痙攣を起こしたかのようにブルブルと震えていた。


「ずっと指に神経を廻らせていたからまともに動かせないし、正座の姿勢だったから足も痺れてるこの状態に対して本当に楽だったとでも?」


 そう訴えかける真面目の瞳を見て、沙羅は言葉を詰まらせて、「すまん」と一言謝ったのだった。


「それでも二人はよくついてきてくれているよ。 特に一ノ瀬君は生徒会での仕事もあるなかでの琴の練習。 指のケアだけはしっかりとね。」

「・・・はい・・・」


 二ノ宮から励ましとアドバイスをもらっているものの、真面目はそこまで頭は回ってはいなかった。


「お二人とも、少しはお休みは取れましたか?」


 皇がそう言った事に対して、真面目も沙羅も少しだけ警戒をした。


「そう警戒なさらなくてもこれ以上は練習はしませんから。 それよりも気持ちをリラックスしていただけませんか。」

「今の彼らにそのような余裕はありませんよ。 とはいえ最終下校時間も近付いているからあまりゆっくりも出来ないですか。 2人とも立てるかい?」


 二ノ宮がそう質問を投げると、2人は頷いて立ち上がり、部屋を出る。 本当の事を言えばまだ立ち上がるのにも無理があるのだが、最終下校時間ということもあって、四の五のは言ってられなくなったのだった。 そんな様子を見ながら皇は真面目達に


「2人とも、これからお時間はありますでしょうか?」


 そんな質問を飛ばしたのだった。 真面目も沙羅も顔を合わせたが、予定は2人ともなかったので2人は皇にむかって頷いたのだった。


「それなら正門で少しだけ待っていただけますか。 二ノ宮君も一緒にね。」


 そう言われたので4人で正門に立って待つ。 そして正門で待っていると一台の黒のワゴン車が目の前に止まる。 そしてなにもしていないのに扉が開かれた。


「お待たせして申し訳ありませんでした。 すぐに使える車がリムジン以外で探すのに苦労をしましたよ。」

「リムジンで来なかっただけ偉いですよ。 さぁ乗ってください。」


 皇に促されて真面目達はワゴン車に乗るのだった。


「今回はどちらまで案内しますか?」

「いつもの場所で構いませんよ。 今日は私の気分で行くわけではありませんので。」

「ではこれなどはいかがでしょうか?」

「・・・丁度言いかもしれません。 ここにしましょう。」


 そのやり取りだけで、皇がどんな人物なのかが理解できるようだった。


「それにしても一体どこに行くんですか? わざわざ私達の予定まで聞いて。」


 これから出掛けると言うことなら確かに予定の確認は必要だろうが、なにをしに行くか聞かされていない真面目と沙羅にとっては訳が分から無かった。 同じ様に座っている二ノ宮は知っている風貌ではあるものの、教える姿勢ではなさそうだった。


「これから2人には「楽日」をみてもらおうと思います。」

「「楽日?」」


 聞き慣れない言葉が出てきて2人は首をかしげる。 そんな時に説明をしてくれたのは別の声だった。


「千秋楽公演の最終日の事を略して「楽日」というのですが、この場合に限っては長らく続いていた公演の最終日、と思ってくれて構わないですよ。」


 声を出したのは運転手。 中性的であることと、帽子を被っているため、目元がよく見えない。 男性か女性かもはっきりは分からない。


「でもなんだって最終日なんですか? そう言った公演なら普通の日程でもあるんじゃないんですか?」


 沙羅の意見ももっともだと言うように真面目も頷く。 見るのなら別にそんなギリギリの公演を見なくても普通にやっているのを、それこそみんなが帰った後の時間帯の公演などではなく、それこそ休日にやっているものを見に行くのが通例だと思っている。


 だがそんな2人の思いを汲み取ったのか、皇は話を進めた。


「最終日の方が「感極まる」からですよ。 それは見れば分かるのではないかと思います。」


 皇の言っている意味が理解できない様で、真面目も沙羅も更に首をかしげるのだった。


 そんな最終日の最後の公演だと言う演劇を見た4人は、他の見に来ていたお客と共に拍手喝采を送っていた。 真面目も沙羅も理解したのだ。 一回限りの公演の意味を。


「こんなにも全力で挑める事が出来るのですね。」

「最初で最後というのは、どれだけ過程を踏んでもやりきらなければ意味がない。 そういうものなのですよ。 頑張りどころを知れば、それは例え汎用な内容だろうとその人たちの全力を出しきった劇になりますから。」

「私も最初は驚きましたよ。 いきなり連れていかれるんですから。」


 劇を見終えた帰り道。 談笑をしているなかで唯一沙羅だけは、なにかを考えるような素振りで後ろを歩いていた。


「砂城さん。 あまり考え事をしながら歩かない方が良いですよ。 夜も遅いので道が暗くなっていますから。」

「・・・もっと、練習しなきゃ・・・」

「うん?」

「あれっぽっちのことで疲れてるようじゃ駄目だ! 最高の演技には、最高の過程があるんだから!」


 なにかを諭したかのように喋る沙羅に、二ノ宮は告げる。


「それなら明日からも練習は頑張っていこうね。 本番までは近からず遠くないから。」

「よろしくお願いいたします!」


 沙羅と二ノ宮の師弟関係を見ながら、皇も真面目の肩を軽く叩いて、我々もと意思表示をする。


 2人にとって得られるものがあそこにはあったと、皇は行かせて良かったと、心の奥底では安心していた。 そしてお開きになって、それぞれの想いはそれぞれの家へと持ち帰ることになったのだった。

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