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海の家「曙」その4

「いらっしゃいませー! かき氷はいかがでしょうか!?」


 お店の外で軽快に声を出す私の店の店員。 それに誘われてやってきた者達に、キンキンに冷えたかき氷を提供する。


 もちろんただの氷ではない。 一度削ったものをお客に提供する前まで巨大な冷凍庫に入れておくことで、手渡した瞬間から器すら冷えているかき氷が手に入るのだ。


 熱で氷が溶けるのならば、簡単に溶けないようにすればいい。 そうすることで店内に火照った空間を最小限にして、より客を呼び寄せれるように出来る一石二鳥な事をしているのだ。


「我ながら良いアイデアだ。 暑い時に熱いものなんか食えるものか。 お客の現実的な思考に乗っとるのが、商売としては一番だろう。」


 ギャップや逆転の発想など必要ない。 人間も元を辿れば動物。 無意識的本能には逆らえん。


「店長! 氷のストック、追加お願いいたします。」

「うむ。 こちらでやっておこう。 数はまだあるな?」

「冷凍庫下2段目までは残ってます。」


 それくらいなら製氷機をフルに使えばあっという間に戻せるだろう。 私は氷を作るために奥に行こうとした時、ふと視界の端に、うちから出たわけでない客が、なにかを持っていることを確認したが、関係の無い事だったので、そのまま奥へと進んだ。


 ―――――――――――――――――――


「まぁ、実際そう言うことだよね。」


 岬が「熱々のピタパンをどう持ち帰るか」の解決策を出したのだが、結局は「少し冷ます」、もしくは「アルミで包む」というシンプルな答えだった。


「一番単純だけど、一番分かりやすいやり方。」


 腕を組んでしてやったり顔をしている岬とは対称的に、同じ様に腕を組んで苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


「いや、確かに灯台もと暗しみたいな事に対して言い訳はしないけどさ・・・」

「けど?」

「僕個人としてはゴミをなるべく出さないようにしたかった。 というよりもお持ち帰りとして使う紙とかを・・・ね。」


 真面目としての理想は「お店の中だけで全て完結させる」だったため、ゴミを出すこと無く、清楚なままで行きたかったのだが、想像以上のピタパンの熱さと持ち帰りは出来てもリサイクルまでは出来ないので、小さいアルミでも抵抗があったのだが、持ち歩き出来ない問題を直面してはそうも言ってられなくなったのだった。


「売り上げを伸ばすための必要経費。 お客さんが休むだけの店にしないための戦略も必要。」

「・・・まあ料理を頼んでこうならなかったのは僕の落ち度もあるから、反省はするよ。」

「それがいい。 それに今はお店の掃除も最小限になってるから、パンを焼いたり焼きそばをやったりする方が忙しいかも。」


 現在の「曙」は会計で女将さんと岬、調理で大将と和奏、真面目が入っており、そして受け渡しが刃真里と下が担っている。 この二人が受け渡しな理由は


「お待たせ致しました。 熱いので気を付けてお待ちください。」


 刃真里の綺麗な笑顔で女子だけでなく、女性の心を鷲掴みにしており、黄色い声援が聞こえてきている。


「ねぇねぇ。 君は作らないの?」

「ぼくは作る担当じゃないかな。 でも料理は絶品だよ。 是非食べていってね。」


 下も下でお客さんへの対応がかなり出来ており、言い方が失礼担ってしまうが、無愛想なメンバーの中でも一際輝いていた。


 もちろん彼ら2人だけの頑張りだけではない。 調理をカウンター越しから見えるようになっているお陰で、大将が作っているのを確認できることで、しっかりとした調理をしているので安心感がお客さんの中で生まれている。


 そして真面目も大将同じ様に作っており、クオリティもほとんど変わらないので、これも安心できる要因だろう。 真面目のグラマラスな風貌にも目を惹かれている人も少なからずはいるわけだが。


 そんな二人に挟まれた和奏は右往左往しているのだが、その姿に「頑張って」と応援を送りたくなる人と、「頑張ってるなぁ」と癒しを感じている人の2パターンで見守られていた。

 和奏も見た目が小柄な男子であるのだが、その前に元々が女子なので、頑張ってお手伝いしている子供にしか見えないのだ。 実際にそうであるため強くは否定出来ないが。


 最後にレジ係。 女将さんの「ありがとう」の言葉と特有の笑顔で接客をし、岬のレジ打ちスピードが迅速なお陰で、お会計で詰まること無くスムーズに流れている。


 お昼はお客の波も来ていたこともあって少しだけてんてこ舞いだった店内も、今の時間帯は海の家らしい雰囲気に生まれ変わっていた。


 そして料理自体も店内でのイートインスタイルからテイクアウト中心のスタイルにしたことによって、売る商品がより区別化出来たのもお店がよく回っている要因の1つだ。


 そんなお店の中で真面目はイカ焼きをしている傍らでピタパンを焼き、焼けたタイミングでピタパンの真ん中を切り、焼きそばを入れやすくする作業を淡々と繰り返していた。 もちろんソフトクリームパンになってもそれは変わらない。 イカ焼きは注文をされたのでやっているだけに過ぎない。


「僕はこれ受け渡し係にはなれないかな?」

「君は料理をしている姿の方が様になってるみたいだよ。 注文もぼく達でやっておくから、大将さんと一緒に頑張って。」


 下がそう答えたので、真面目も先ほどから焼きそばばかりをせっせか作っている大将の隣に身を置く。


「俺のところには寄りすぎるなよ? 鉄板もフライ返しも熱いからよ、火傷したら大変だ。」

「お気遣いありがとうございます。 大将も倒れる前にちゃんと休んでください。」


 お互いに熱された鉄板で作業をするため、鼓舞したり気を遣い合わなければ、気力も体力も失ってしまう。 一番の忍耐力勝負とも言えるだろう。


 少しずつお店の中に落ち着きが戻ってきた頃に、外の様子を見てみることにした真面目は、ずっと鉄板の前にいたものだからか、汗をかいてピッタリとくっついたシャツを少しだけ広げて、空気の通り道を作った。 気休めではあるものの、本の少しだけ楽になる。


 太陽が西に沈み始めてはいるものの、まだまだ海水浴客は衰えを知らなかった。


「いやぁ、やっぱりずっと同じ場所にいるのは堪えるねぇ。」

「鉄板の前なら仕方ない。 少しでも涼しくしないと。」


 真面目が外で休憩をしていると、岬が後ろから声をかけてきた。 手にはピタパンを持っていた。


「一ノ瀬君はヨーグルト味が良かったでしょ?」

「え? いや、それでいいけど・・・わざわざ持ってきたの?」

「まだ夜があるからって、大将の奢りだって。」

「奢りって・・・まあいいや。」


 そう言われて岬からソフトクリームパンを貰う。 流石に熱々ではないがそれでも温かさは残っている。


 そして一口食べて、ヨーグルトの風味が広がっていく。 その後にソフトクリームの冷たさが伝わってくる。


「うーん。 やっぱり口の中にいっぱい冷たさが広がるのはいいんだけど、味はあんまり変わらないかもしれない。」

「なんで?」

「だって中に入れて熱で溶けちゃってるからさ、薄まっちゃうんだよね。 ・・・うわっ・・・!」


 真面目は強く握ったせいか、溶けたソフトクリームの中身が飛び出して顔やシャツにかかってしまった。


「うー、この辺りも考えものかなぁ? でもこれ以上中身無くすと溶けるのも早いんだよねぇ。」

「そんなこと無いと思うよ? この後はまた料理変わるし。」

「夜かぁ。 この後はどうなるんだろうねぇ?」


 そうして休憩を終えて、中に入る事になったのだった。



 真面目達が戻った数分の間だけソフトクリームパンが売れたのは、別のお話

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