海の家「曙」 下準備
「うわぁ! 凄い綺麗な海だねぇ。」
下が真面目と同じ様に外を見ていて、率直な感想が漏れていた。
「降りて感動してるところ申し訳無いが、積み荷を運ぶのをまた手伝ってくれ。」
大将の言葉に真面目と下は「おっと」と口が漏れる。 あくまでも「来た」だけであって、色々とやることは多いのだ。 休むのはその後になるだろう。
今回使用されるテナントも、キッチンの見える開放的な空間で、カウンターまあれば、その場所に相応しいテーブルと椅子も用意されている。 素材は燃えにくい素材を使っているのだとか。
「小麦粉はどこに置きましょうか?」
「休憩室の端っこにでも置いてくれ。 そこじゃなきゃ涼しい部屋での保存は無理だ。」
そう言われて小麦粉を山のように積み上げてたら、ようやくお休み状態になった。 またお昼なのだが物をいっぱい運んだので、身体を休めることにする人と海を見る人に分かれた。
真面目と下は目の前の海を見て堪能をすることにした。
「いやぁ、ぼくって海ってあんまり行ったこと無かったんだよね。」
「それは分かるかも。 よっぽどの理由がないと行かないよね。」
「それに日差しが強いから肌が焼けちゃうよ。」
お互いに海に行かなかった理由を述べながら見ていると、隣の真面目達の借りているテナントよりも大きなお店に人が入っていくのが見えた。 海の家と言うにはあまりにも黄色く、派手な装飾で彩られていた。 その他にもあちこちにテナントがあり、そこでも色んなお店が出ていた。
「みんなライバルなんだろうね。」
「そうなんだろうね。 でも何て言うか、競い合おうとは思わないけどね。」
「一ノ瀬君。 日賀君。 試作も予てお昼にしようって。」
周りを見ていると岬が中から声をかけられたので、2人は休憩室に入った。
「これまた凄い量を作りましたね。」
目の前のテーブルに収まりきらない位の料理が陳列しており、大量に作ったためか、人数分以上にあるように感じた。
「うちの自慢の料理だからな! 客に出せるかも見定めて貰わねぇといけねぇ。 鉄板の焼き具合もまあまあだったしな。 それと真面目のあんちゃんよ。」
「なんでしょうか?」
「お前さんはうちの味を知っている。 だからこそうちの新作を見てほしい。」
そう言って休憩室の扉が開かれると、そこにはなにかの料理の乗ったお皿を持ってきた女将さんが現れて、そしてテーブルが余っていないであろうと思ったのか、真面目の手にそのお皿を乗せる。
「これって・・・」
「まずは味の感想だよ。 うまく出来ているかの確認のためにね。」
お皿に盛られていたのはパン。 しかも焼きそばパンに、もう一つ真面目の考えた創作パンである。「ソフトクリームパン」である。
焼きそばパンは2種類あり、キャベツと紅しょうがの入っているソース味と、細かく刻まれたイカと貝が入った海鮮塩焼きそばが挟まっている。
これらはどちらも普通に出す焼きそばのアレンジで、細かく刻んであることによって、どこを食べても具材がないという状態になっている。
そしてソフトクリームパンは焼きそばパンと同じ様に真ん中に切れ目をいれて、そこにソフトクリームを入れるという、シンプルながらも手間隙をかけるパンである。 上にはフルーツのソースがかかっているのだが、実は側面にも同じソースを塗っており、味がしっかりと付くようになっている。
「一ノ瀬君、なに貰ったの?」
既にお好み焼き(海鮮)を食べている岬がそう問いかける。 他のみんなも思い思いに鉄板料理を味わっていた。
「僕がプロデュースした料理が出来たからその試作だってさ。 みんなもお腹に余裕が出来たら食べてみてよ。」
そう言って真面目はソース味の焼きそばパンを手にとって食べる。
スーパーで売られているようなコッペパンに挟むタイプではなく、中に具材を入れれるように空洞を作るピタパンタイプにしていた。
どうやらオーブンで作らないやり方で尚且つ鉄板で出来るとなったらこの形になったらしい。 作り方は熱した鉄板の上にボールを反対にしてボールにも熱を伝わらせてからそこに生地を入れる手法によって、オーブンと同じ事が出来たらしい。
焼きそばパンは二等分でそれぞれ焼きそばを入れているが、ソフトクリームの方は逆に真ん中を切り、豪快にソフトクリームを入れていた。
まず口の中に届いたのは焼かれたパン生地。 カリカリに焼かれているのに後からくる焼きそばの味を伝えてくれる。 そしてソース焼きそばに使われている千切りになっている焼きそばと紅しょうがが噛む度に味わいを持たせている。 真面目はソースはこのくらいでも良さそうだが、相手はお客さん。 賄いではないので他のみんなの感想も必要だ。
次に手に取ったのはソフトクリームパン。 分割されていないので焼きそばパンよりは大きいが噛んだ瞬間にパンの熱さとソフトクリームの冷たさが同時に押し寄せてくる。 かけてあるソースはイチゴ味だが、他にもオレンジやブルーベリー、ヨーグルトも展開していく予定だ。
「どうだい? いけそうかい?」
「はい。 これならいけますよ。 女将さん、パンを作ってくださりありがとうございました。」
「いいんだよ、あたしにとってもいい刺激になったからね。 パンづくりなんて本当に初めてだったから、焼くのにすら苦労したよ。」
「でもそのパンどうするの?」
「最初は焼きたてで提供しようかなって思ったんだけど、それをすると流石に間に合わないかなって思ったから、最初にパンを作り置きして、注文が出たらパンに焼き目を付けていく形を取ろうって事にしたんだ。 ソフトクリームパンはともかく、焼きそばパンはパンも熱い方がいいだろうしね。 熱々過ぎると持てなくなっちゃうけど。」
「その辺りはあたしが教えるから大丈夫だよ。」
そう言いながら他のメンバーも手にとって着々と試作品が減っていく。 そうしている間に先にお腹がいっぱいになっていた岬や和奏は、女将さんと一緒になって、提供価格や宣伝方法などを模索していた。
初の試みであり、明日が1番の勝負所になる。 お客の心を1人でも多く掴めるようにしなければお店として経営できない。
お昼を食べ終えた(刃真里が食べるのに奮闘したが、結局は真面目の頑張りによって完食した)みんなは次は装飾面を頑張ることになった。 表看板自体は大きくなくとも既に「曙」と書かれているため問題はない。 内装は真っ白なテナント状態なので、雰囲気を出せるように木の看板で料理名を書いて食堂風にしたり、外に予備として使っていた暖簾をかけて、最後に提灯を付ければ、海の家「曙」の完成である。
お昼が少し遅かったこともあり、外を見ればすっかり夕方になっており、海の色も青からオレンジに変わっていた。
「お客さん来てくれるかな?」
「それは明日にならないと分からないよ。 夜でも営業出来るように提灯で雰囲気も出しているしね。」
柱にかけられた提灯は実はLEDライトなので、夜になったら電飾代わりに利用するのだ。
「後の事は俺達が仕込んでおくから、お前さん達は暗くなる前に帰りな。 バスも待ってるからよ。」
「私達まだやれるよ? 手伝いなら頑張れる。」
「頑固者の話は聞いておくもんだ。 その代わり明日からは夜も頑張って貰うからよ。 今日のところは帰って休んでくれ。」
そう言われては仕方ないと用意されていた送迎バスに乗り込み、(他のお店の人達も乗っている。)真面目達家の近くの最寄り駅で降りて、みんなとまた明日と約束を交わして、真面目は家に帰って英気を養うのだった。
手作りパンについては本当ならばコッペパンにする予定でしたが、オーブンで作れない以上難しいと判断したのと、フライパン=鉄板と言う考えのもとでピタパンにしたので、それで出来ないと言うのなら、こちらの知識不足と言うことで目を瞑って貰えると、作者としても安心できます




