夏は楽しみがいっぱいで
6月も終わりかけの時期、蒸し暑さと太陽の照らし合わせで、バテそうになっている生徒に追い討ちをかけるように行われている期末試験。 今日はその最終日であり、試験の最後のチャイムが教室に鳴り響いた。
「では答案用紙を後ろから前に持ってくるように。 間違っても答えを見ることが無いように。」
後ろの生徒から順に前へと渡されて、最終的には先生のいる教壇の上に渡される。
「ではこれにて期末試験を終了とする。 部活に行くのならそれでもいいし、帰るなら学生であることを志して、正しくありながら帰ること。 お疲れだった。」
そうして先生が去ると同時に、一気に緊張が解かれた。
「終わったー! 期末試験!」
「マジで疲れた・・・もう頭使いたくねぇ・・・」
「これで部活に専念できる。 っとと、お昼買ってから部活に行かないと。」
B組の面々もあちらこちらで喜びの声が上がっている。 勿論その中には真面目も入っていた。 真面目は終わって背伸びをして、身体にこびりついていた緊張を解していた。
「お疲れ様一ノ瀬君。 どうだったかな?」
「それは明後日に結果として出るんじゃない? 一応赤点は無いだろうけど。」
「君程優秀な生徒が赤点なんて想像もつかないよ。」
「そういう鎧塚さんだって、あんまり心配ないように見えるけど?」
「ボクだって赤点は取りたくないもの。 勉強はそれなりにしているよ。」
そんな会話をしている真面目だったが、不意に思い出した事があった。
「あ、そうだ。 今日は水泳部に行くんだった。 急がないと。」
「生徒会の仕事は大丈夫なのかい?」
「庶務の仕事は多くはないからね。 それに1学期の分は大半終わってるから、少し時間に余裕があるんだ。」
体育祭も終わり試験期間でも生徒会の仕事は止まるわけではない。 勿論その間に終わらせられるだけの技量が無ければ意味はないのだが、それでも生徒会として真面目は食らい付いて、全体的に仕事量を減らすことに成功したのだ。
「それにそろそろこっちの方も考え直しが必要だし。」
「なにか言ったかい?」
「ううん、こっちの話。 それじゃあ僕は行くよ。」
「頑張ってよ。」
そうして教室を離れて真面目は部室棟へと向かうのだった。
「我々もその事については考えていたのだよ。」
部活についてまだ誰もいないことを気に、駿河と目黒に真面目が相談をしたのだ。 その内容と言うのが「生徒会の仕事があるため部活に集中することが出来ないため、退部したい」というものだった。
「言いたいことは分かるから、私達からは止めるつもりはないよ。 というか止める権利なんて無いのだけどね。」
その言葉に真面目はホッとした。 ホッとしたのだが、それも束の間の話だった。
「但し! 夏休みに入ってすぐの、高校生のみで行われる地域大会だけには参加してもらうからな。 本格的に退部届けを出すのは、2学期に入ってからだ! いいね!?」
「う、うすっ!」
特に圧をかけられたわけでもないのに、声を出してしまう真面目。 そして駿河は話し終えたと思えばすぐに部活動の準備を始める。 それを見計らってか、目黒がこっそりと真面目に近づく。
「駿河はああ言ってるけど、本当は君を水泳部に置いておくのは気が引けてたんだよ。」
「気が引けるって?」
「わさわざ身を費やすほどでも無いからねここは。 そういう意味合いじゃ、駿河も君の生徒会一員として応援をしてあげたいんだよ。 勿論、それは私もだけどな。」
そう言われて真面目は、気を遣わせたような気がしたのだった。
そして水泳部の部活動は屋外プールを使用することになった。 元々水泳部と言う名目上、プールは貸切状態になることは多いものの、ちゃんと他の生徒が使えるようにと配慮も行っている。
「今日は試験で疲れていることもあるだろうから、レーンを使って、各々泳ぐようにしてくれ。 それと、今日は水温が低めだから、早めに切り上げるようにするから、理解してくれよ。」
そう言ってプールに入り、部員達は泳ぎを極めるためにさまざまな泳ぎ方をしている。 勿論真面目も退部が確定前提になってはいるものの、手を抜くことはまずしないので、一緒になって練習している。
しかし先程の駿河の言うように、水温が低いからか、身体を冷やし気味になってきたので、早めの切り上げでプールを去り、着替え直してそのまま解散の流れになった。
「プールもあるんだから、今年の夏は大変そうだなぁ。」
帰り道、真面目は今年の夏の事を何だかんだで考えていた。 去年までの真面目はとにかくどこかに行くという行為はしてこなかったし、親戚参りというほど両親に親戚もおらず、お盆休みでも多忙な2人のために、特に出掛けたいと駄々を捏ねなかったのもあってか、かなりインドアな夏休みを過ごしていたのだが、今年はそういうわけでも無くなりそうで、自分でも驚くくらいにワクワクしていたりする真面目であった。
そうしながら歩いていると、町の掲示板のような場所に、お祭りの開催やら、読書感想文の事を書かれた図書館のポスターが入っていた。
「こうしてみると、本当に時期なんだなぁ。」
そんなことを思いつつ真面目は家に帰る。 両親は夕方に帰ってくるので、それまでは真面目は家に1人である。 小学校の頃から両親は共働きで夕方から夜にかけて帰ってくることは当然あったし、家に片方が帰ってこないことも普通なので、違和感は持っていない。
部屋の蒸し暑さを無くすために、真面目はまず自分の着替えを洗濯かごに入れ、自分はシャワーを浴びる。 そして上がると同時にリビングの大型扇風機を一気に強くして、窓との温度を入れ換える。
「折角の早上がりだから、勉強はおやすみかな。 明日になったらまた再開するということで。」
そうしてテレビをつけると、まだお昼のワイドショーの何かのコーナーをやっており、タレントがそれぞれの夏休みに生きたい場所を紹介していた。
かたや「夏と言えば海! もうすぐ海開きです!」と広大な海を見せるところもあれば「山の自然を楽しめるのは今だけ!」とキャンプ場からの中継をしているタレントもいた。
そしてそれが終われば今度は去年やっていたであろうお祭りの雰囲気が放映される。 とことん夏についてを語っていた。
「こういったところは大体混むんだろうなぁ。 海も山もかき入れ時なんだろうね。」
そんなどうでも言い感想を抱きつつも、真面目も今年の夏のレジャーについて調べ始める。
「海や山も悪くはないけど、僕にとっては、やっぱりこっちなのかもね。」
そう言って真面目がスマホで調べ始めたのは「ビーステッドハンティング」の最新情報についてだ。 作品の中でも久しぶりの新作に、真面目自身も胸を踊らせながら、キッチンへと立つ。 今日は暑くなりはじめたので、食欲自体は落ちると思い、喉を通りやすいスパゲッティ、しかも体力をつけてもらうためにペペロンチーノにしようと真面目は考えていた。
「今年の夏は色々と変わるかもね。」
そんなことをスパゲッティの麺を茹でながら、それでも膨らんでいく楽しみは、誰にも止めることなどは出来ないのだった。




