回文
もちろん本当に雷に撃たれたわけではない。
雷に打たれたのと同じくらい衝撃を受ける気づきがあったんだ。
ゴーカート乗り場には十人くらいの順番待ちの列ができていた。
多分ここの遊具の中では一番人気…
俺達の前には小学生三人組が並んでた。
変な歌歌いながら。
「新聞紙〜逆さに読んでも新聞紙〜
まさこさま〜逆さに読んでもまさこさま〜」
和子さんはその様子を見て
「ああ、回文。懐かしいね。
小学校のとき宿題に出たな」
と言った。
そして佳祐が
「ああ、出た出た。
それにしても小学生って何でも節つけて歌いたがるよな」って言った。
いや、お前は今でも歌っているぞ。
なんにでも節つけて…
小学生は何が面白いのかゲラゲラ笑いながら歌い続けている。
こんなことでこんなに笑えるんだから小学生って幸せ…
「新聞紙〜逆さに読んでも新聞紙〜
まさこさま〜逆さに読んでもまさこさま〜」
ふふ、他にないのかよ。
…ん?
ん?ん?
まさこさま逆さに読んでもまさこさま…
まさこさま逆さに読んでも…
「あっ!あっ!!」
俺の脳天に雷が落ちた。
その衝撃で思わず大声で叫んでしまった。
前にいた小学生はびっくりして振り返ったし、佳祐と和子さんは身を寄せ合って俺を見た。
「秀人…どうした?
お前最近奇声を上げるな。
大丈夫か?」
思いついた!!
ククさんの名前を逆さに呼ぶ方法。
…そうか、だからあの時ククさんはあんな顔をしたんだ。
多分、これで祓える!
思いついた。
思い、ついてしまった…
佳祐や和子さんがなんだかんだ言っているけど俺は対応する気になれず「俺、帰るわ。後は若いお二人で」と言ってその場を離れた。
去り際「いや、同い年だからっ」って佳祐のつっこむ声が聞こえた。
薬は手に入れた。
そして祓う方法も思いついた。
後は…
実行するか、しないか。
自分の心しだいだ。
何…迷ってんだ。
本人は否定しているけど、貧乏神だぞ。
あの人。
正確に言うと貧乏な疫病神。
払った方がいいに決まってるじゃないか。
ずっとなんとかして払わなきゃなきゃと思っていたのに、いざその方法を思いつてしまったら心に迷いが生じた。
見えないけどきっと今も俺の背にもたれかかって自転車に乗っているであろうククさんを思って。
ずっと秀人と一緒にいたいと言ったククさんを思って。




