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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第三章 奇跡の力を揮う者?

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ヒーディの奇跡

 先ほどまでどちらを信じればいいのかと話していた人々だったが、あっさりとヒーディを信じてしまったらしい。

 四方八方から罵声が飛び交う。

「イーゼンブルク公爵のことを信じていたのに!」

「酷いわ!」

「イーゼンブルク公爵のほうが、聖女とかたっていたのか」

 私はヒーディのように聖女を自称したわけではないのだが。

 皆、自分が都合のいいように、勝手に噂をねじ曲げているようだ。

「イーゼンブルク公爵め、次に会ったときはただじゃおかねえぞ!」

「ヒーディ様のために、あのインチキ聖女を引きずり出してくれようか!」

「偽物の聖女は騎士隊が捕まえるべきだ!」

 皆、ヒーディの演技に騙され、私はすっかり悪者である。

 そんな人々の反応を見たヒーディは、手応えがあったとばかりの笑みを浮かべていた。

 それにしても、ここまであっさり形勢が逆転するなんて。

 念のため、頭巾を深く被っていてよかった。私がイーゼンブルク公爵だと気づく者はいない。

 そんな中、エルツ様は私の肩を引き寄せて周囲を見回している。

 もしものときのために警戒してくれているのだろう。

「エルツ様、ありがとうございます」

「当たり前のことをしているまでだ」

 その言葉は心にじんわり染み入るようだった。

 エルツ様はきっと、たとえ世界中の人達が敵に回っても、私を信じて味方をしてくれるのだろう。

 彼という存在に、心から感謝してしまった。

 ヒーディを応援するような歓声が収まると、一人の男性が舞台上に連れてこられる。

 酷く咳き込み辛そうだった。おそらく春雷風邪の患者なのだろう。

「今から私が作った魔法薬で、彼を癒やしてみせるわ!」

 そう言って、春雷風邪の魔法薬を高々と掲げる。

「魔法薬は即効性で、飲んだ瞬間に症状を癒やすわ。だからもう、苦しまなくてもいいの」

「聖女様……げっほ、げっほ! あ、ありがとうございます!」

 ヒーディは魔法薬を男性に手渡す。

「げっほ、げっほ! せ、聖女様、ば、万歳!!」

 皆が固唾を呑むように見守る中、男性は苦しげな表情を浮かべつつ、魔法薬を飲み干した。

「――っ!?」

 男性はハッと肩をふるわせ、目をカッと見開く。

「これが、本物の聖女の奇跡なの――」

 ヒーディの言葉を制するように、男性は激しく咳き込む。

「げっほ! げっほ! げっほ! げっほ!」

 男性は苦しげな様子で舞台上に両手を突く。

 春雷風邪の魔法薬を飲んでも、いっこうに症状はよくならない。

 ヒーディは表情を歪ませながら、男性に声をかける。

「ねえ、あなた、冗談よね? 今から効果が出てくるんでしょう?」

 返事代わりに、男性は激しく咳き込み始めた。まったく症状はよくなっていない。

「もう少し待つのかしら? どうだったかしら?」

 ヒーディはシスターとブラザーを振り返り、言葉を待っているように思える。

 彼女の取り巻きの顔色も悪くなっているように見えた。

 それからしばらく経っても、魔法薬は効いていない。

 それも無理はないだろう。

 ヒーディが持っていた春雷風邪の魔法薬は、着色剤で色を付けただけのただの水だから。

「まるで茶番だな」

「自業自得でもあります」

 遡ること数日前――ココロト商会の者達が春雷風邪の魔法薬を手に入れるために躍起になっている、という話を聞いた。

 悪用することは目に見えていたので、絶対に渡してはいけないと思った。

 春雷風邪の魔法薬はエルツ様が認可した魔法医の診察と処方箋が必要となる。

 さらにイーゼンブルク公爵家に属する魔法薬師の前で魔法薬を飲むことを義務づけていたのだ。

 無償提供する代わりに、悪用されないよう厳しい条件を掲げていたのだ。

 そのため、ココロト商会の者達は魔法薬を入手できないでいた。

 そんな中、エルツ様がココロト商会の目論みを推測する。

 もしかしたらヒーディが、春雷風邪の魔法薬を利用して奇跡だと言い出すのではないか、と。

 そうだとしたら、余計に渡すわけにはいかない。そう思っていたのに、エルツ様は渡そうと言い出したのだ。

 なぜそのようなことをするのかと思ったのだが、エルツ様の目的は別にあった。

 魔法薬が入った瓶に水を入れて、渡そうと言うのだ。

 もしもヒーディが偽物の魔法薬を使ってパフォーマンスをしたら、大勢の前で偽物だと自称することになる。

 こちらが何もせずとも、ヒーディは偽聖女の証明をすることとなるのだ。

 そんな作戦が功を奏し、大成功を収める。

「さてと、止めを刺そうか」

 エルツ様が手を挙げて合図を出すと、大衆の中にいた一人が叫んだ。

「その女は聖女ではない!! 偽物聖女だ!!」

 叫ばれた言葉に、次々と続く者が現れる。

「寄付と称して水で薄めた魔法薬を売りさばく詐欺師なんだ!!」

「それだけじゃない!! 俺は寄付をしたあと意識を朦朧とさせられ、人身売買を行う商人に売られそうになったんだ!!」

 場の雰囲気が変わっていく。ヒーディを支持するような空気が一気に引いていった。

 スズラン教会に寄付をした者達が次々と被害を訴える。

 彼らは巨大スライムに襲われているところをエルツ様が助けた人々だ。

 あのあと、エルツ様は国王陛下の近衛部隊と魔法師団に通報し、人身売買について調査させた。

 その結果、ココロト商会が働いた数々の悪事が明らかとなったのだ。

 すでに関係者数名は拘束され、知らぬのはスズラン教会の関係者だけだったのである。

 彼らはココロト商会の本部から見捨てられていたため、危機的状況にいると気づいていなかったのだろう。

 混乱の中、私はエルツ様と共に舞台上に上がる。

「あ、あんた!! あんたが仕組んだことなのね!!」

 ヒーディがこちらへ拳を上げ、殴りかかってきそうになったものの、騎士に拘束される。

 私は春雷風邪の患者の前にしゃがみ込み、魔法薬を飲ませた。

「これは本物ですので、ご安心を。少し苦いですが、よく効きますので、飲んでください」

 頭巾を被っていたので怪しい人物に見えたのか。魔法薬を受け取ってもらえなかった。仕方がないと思い、頭巾を外す。エルツ様も私に続いて頭巾を外してくれた。

「あ、あれは魔法医のエルツ・フォン・ヴィンダールスト大公と、春雷風邪の魔法薬を作った魔法薬師ベアトリス・フォン・イーゼンブルク公爵だあ!」

 その声を聞いて安心したのか、患者の男性は魔法薬を受け取り、飲み干してくれた。

「あ――喉の痛みが消えた! もう辛くない!」

 たしかな効果はあったようだ。

 患者の男性に手を差し伸べ、一緒に立ち上がった。その様子を見た誰かが叫ぶ。

「真なる聖女様だ!」

「イーゼンブルク公爵こそ聖女様だったんだ!」

「イーゼンブルク公爵閣下、万歳!!」

 思いがけない歓声を浴びる。

 騒動はすべて解決した。胸をなで下ろしたのは言うまでもない。

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