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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第三章 奇跡の力を揮う者?

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真なる聖女

 春雷風邪の魔法薬の噂については、下町からどんどん広がっていった。

 感染症についての噂の出所も下町だったので、情報網がどれだけ広いかというのは実証済みである。

「おい、謝肉祭のときに流行った病気、イーゼンブルク公爵が作った魔法薬で治るらしいぞ」

「なんでもイーゼンブルク公爵は国に認められた魔法薬師らしい」

「下町で感染者が外に放り出されているのを発見したイーゼンブルク公爵は、自分の家に患者を招いて看病してくれたそうだ!」

 魔法薬師の家系であるイーゼンブルク公爵家の名前を使えば、魔法薬の信憑性が増すだろう。そんなエルツ様の言葉を信じ、下町の人達にはなるべく私の名前を出して噂を広めてもらった。

 ただそれが、思いがけない方向に転がるとは夢にも思っていなかった。

「なんでもイーゼンブルク公爵は魔法薬を無償で配布しているらしい」

「体調が悪ければ、イーゼンブルク公爵家の屋敷で休ませてくれるそうだ」

「それらも金は取らずに、後日、元気になってから労働で返せばいいようだ」

 間違った情報は広まっていない。

 けれども私の呼び名が、だんだんとイーゼンブルク公爵ではなくなっていったのだ。

「イーゼンブルク公爵こそ、真なる聖女様だ!」

「慈悲深い、聖女様で間違いないだろう!」

「俺は聖女様に命を救ってもらったんだ!」

 どうしてか人々は私を聖女だと奉り挙げる。

 聖女ではない、誤解だと否定しても、誰も聞く耳は持たなかったのである。

 なぜこのような事態に……と考えていたら、ふと、エルツ様の言葉が蘇ってくる。

 ――目には目を歯には歯を、という異国の格言があるように、聖女には聖女を立てる必要があるのだ。

 今になって気づく。

 エルツ様が言っていた聖女は、きっと私のことだったのだろう。

 そんな目論みになんてまったく気づかなかった私は、まんまとエルツ様の策略に乗っかっていたようだ。

 すぐにエルツ様に抗議をしたものの、何か間違いでも? とばかりに小首を傾げるばかりだった。

「人を区別、差別せず、等しく命を救う者――聖女の定義にビーはぴったり当てはまるのだと思うのだが」

「私は聖女のように奇跡の力はふるえません」

「謙遜するでない。なりふり構わず、たくさんの人々を救おうと奔走する姿は、聖女と言っても過言ではないだろう。この私が保証する」

 エルツ様にそう言われてしまったら、何も返せなくなる。

「ビーが嫌がることは想定済みだったが、偽物聖女を討つためには、真なる聖女が必要だったのだ」

 その偽物聖女を討つ準備は着実に進んでいった。

 人々の心は春雷風邪の魔法薬を作った私のほうにある。

 聖女の奇跡が暴かれるのも時間の問題だろう。

 今日、ヒーディは奇跡のパフォーマンスを行うと宣言している。

 春雷風邪の魔法薬が普及しつつある今、いったい何をするつもりなのか。

「さあ、ビー、行こうか」

「はい」

 エルツ様と共に、ヒーディのパフォーマンスを見に行くことにした。


 広場にはすでにたくさんの人達が集まっていた。

 ヒーディを熱心に信仰していた人達も、寄付と引き換えに奇跡の力をふるう聖女に疑問を感じていたようだ。

 今日のパフォーマンスを見て、信じるのを止めるか否か、決めるつもりなのだろう。

 現場では二人の聖女の話で持ちきりだったわけである。

「どっちが本物の聖女なんだろうか?」

「ヒーディ様は新しい聖女様よりも先に我々に救いの手を差し伸べてくださったのだ」

「いいや、しかし奇跡は金と引き換えだったという噂を耳にしている」

「イーゼンブルク公爵のほうが、金品を要求している、なんて話も聞くぞ」

 私が魔法薬を売っているという話も出回っているようだ。きっと春雷風邪の魔法薬についての噂が出回って、ココロト商会側が焦って打ち消すような作り話を広めたのだろう。

「まあ、ヒーディがもう一度奇跡を見せてくれたら、信じよう」

「そうだな」

「何もかも疑ってかかるのはよくない」

 ざわざわと騒がしくなる。どうやらヒーディが登場したらしい。

 広場に用意された舞台の上に現れたヒーディだったが、シスターとブラザーに抱えられた状態でいたのだ。

 いったいどうして憔悴しきったような様子でいるのか。何か辛いことがあったのだろう、と皆、同情的な視線を向けている。

「悲しい出来事があり、上手く奇跡の力を使えず、申し訳なかったわ」

 ヒーディは顔にハンカチを当てて、嗚咽を堪えるようにしながら話を続ける。

「私はこれまで以上にたくさんの人達を救おうと、努力を続けてきたの。でも、その成果を盗まれてしまった」

 ヒーディが突然掲げたのは、春雷風邪の魔法薬。

「これは謝肉祭で広がった病気を治す魔法薬――」

 ヒーディは手にした魔法薬について、とんでもない証言を言い始める。

「この魔法薬は私が考案したものなの! それを、イーゼンブルク公爵に盗まれたのよ!」

 人々の戸惑いや絶望の声が辺りに広がっていく。

 ヒーディはまたしても、私から魔法薬を盗むつもりらしい。

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