思いがけない販売方法
エルツ様が帰ったあと、アライグマ妖精の姉妹とモモは家の中でも歌いながら踊り始めた。
もしも謝肉祭で披露したら、とんでもない集客ができるだろう。
だって、最高に愛らしいから。
一段落ついたところで、明日の謝肉祭への同行について説明した。
「ムクとモコ、モフ、それからモモ、明日は謝肉祭についてきてくれる?」
もちろんだ、とばかりにみんな頷いてくれた。
明日は彼女達がいるので、不安な気持ちも和らぐだろう。
二日目が出店最終日となるので、頑張らなければ。
魔法プリンの売り方については何も思い浮かばないまま。
今日は貴族相手にしか商売できなかったので、一般客に望みをかけるしかないのだ。
◇◇◇
翌日――ぐっすり眠れた朝は気持ちがいい。
昨晩は自分で思っていたよりも疲れていたのか、布団に潜り込んだのと同時に眠ってしまったのだ。
五分以内の入眠は気絶も同然、なんて話を聞いた覚えもあるので、寝付きがよすぎるのもいいことではないようだが。
ぐーーっと背筋を伸ばしていると、モモがやってくる。
『おはようございまちゅう』
「おはよう、モモ」
エルツ様に隠者の隠れ家での滞在を許可されたからか、モモはどことなく嬉しそうだった。尻尾を左右に揺らしつつ、軽いステップを踏みながらドレスを見繕ってくれる。
今日はアザーブルーのドレスを選んでくれた。一緒に接客中に服を汚さないためのエプロンも添えてくれる。
朝食はムクが淹れてくれた新鮮な薬草を使ったお茶に、モコが作ってくれたハムサンド、それからモフが剝いてくれたリンゴをいただく。
お腹いっぱいになったので、少しお腹を休ませてから出発した。
グリちゃんの荷鞍に取り付けたかごにムクとモコ、モフを乗せ、モモは鞍に同乗する。
「ではグリちゃん、お願いします」
『ぴい!』
凜々しく返事をしたグリちゃんは、大きな翼をはためかせて飛び立つ。
今日は曇り空で、上空は少し寒い。モモの温もりで暖を取ってしまった。
モモは髭をピンと立てて、ぽつりと呟く。
『今日は雨が降りそうでちゅう』
「わかるのですか?」
『少し、雨のにおいがしまちゅので』
「そうなのですね」
もしも雨が降ったら、エルツ様の研究室に避難させていただこう。
止みそうになかったら、そのまま転移の魔法巻物を使って隠者の隠れ家に帰ればいい。
その計画について、グリちゃんに伝えておく。
「グリちゃん、今日は雨が降るかもしれないようで、待機は必要ありません。エルツ様からいただいた転移の魔法巻物で帰宅します」
『ぴーいっ!』
賢いグリちゃんは雨事情について正しく理解してくれたようだ。
噴水広場に下ろしてもらい、グリちゃんと別れる。
今日もウッド氏がきていたので、挨拶をした。
「おはようございます」
「ああ、イーゼンブルク公爵閣下、おはようございます」
「今日もよろしくお願いします」
「こちらのほうこそ」
逆方向のお隣さんは今日もいなかった。ウッド氏曰く、参加申し込みを提出しているのに、出店をすっぽかす人達は珍しくないらしい。
「もったいないですよねえ」
「本当に」
なんて話をしている間に、モモは無駄のない動きで準備を始めていた。
かごから取りだしたテーブルクロスを、ばさっとかける。
美しい薔薇が刺繍されたそれは、ここ最近モモがせっせと刺していたものだった。
「モモの刺繍、とても美しいです!」
『ありがとうございますでちゅう』
クールな様子で言葉を返していたのだが、尻尾はぶんぶんと嬉しそうに揺れていた。
テーブルクロスを広げた上に薬草クッキーのジャーや薬草キャンディの瓶を並べたところ、驚くほど商品が映える。
たった少しの工夫で、商品の見え方が大きく変わるようだ。
ムク、モコ、モフも商品を並べてくれたので、あっという間に陳列が終了した。
昨日からみんなにお手伝いしてもらえばよかった、と強く思った瞬間であった。
謝肉祭の始まりの空砲が鳴った。それと同時に、たくさんの人達が押しかける。
一般客もいたが、ほとんどは貴族だった。さらに大半が男性である。
彼らがいっせいにこちらに駆けてきたので、びっくりしてしまった。
一番に到着した男性が、必死の形相で叫んだ。
「魔法スープをくれ!!」
「は、はい」
カップに魔法スープを注ぎ入れ、蓋を閉める。モモがお代を受け取っていたので、そのまま差しだした。
「ありがとうございます」
「こちらのほうこそ!」
一杯の魔法スープを販売する間に、お店の前には行列ができていた。
皆、魔法スープの噂を聞きつけてやってきたようだ。
ありがたいものの、他の商品が売れないので切ない気持ちになる。
魔法スープは一時間ほどで完売となった。
それからは昨日と同じく、客足は遠のいていった。
客層は貴族が三割、それ以外の一般客が七割といったところか。
客への声かけをしようか迷ったものの、昨日怒られてしまったことを思い出して、なかなか声に出すことができなかった。
どうしたものか、と考えていたら、モフが私の上着を引きつつ話しかけてきた。
『お客さん、呼びたいの?』
「ええ、できたらいいのですが」
『だったら、私達に任せて!』
アライグマ妖精の姉妹とモモは顔を見合わせ、こくりと頷く。
店の前に出て、声かけでもしてくれるのか。
貴族の人達にはしないようにと言おうとしたところ、アライグマ妖精の姉妹の歌に合わせてモモが踊り始める。
『おいしいお薬~♪』
『おかしのお薬~♪』
『甘いプリンにクッキーあるよ~♪』
歌声とモモの踊りは周囲の人々の注目を集め、あっという間に人だかりができる。
最後まで踊って揃って会釈すると、ワッと歓声が沸き上がった。
『魔法プリン、発売中!』
『早い者勝ちだよ!』
『みんな買ってねえ!』
そんな宣伝を聞くや否や、魔法プリンが飛ぶように売れる。
完売後は薬草クッキーや薬草キャンディも売れた。
彼女達のパフォーマンスのおかげで、商品は完売。
雨が降る前に売り切ることができたのだ。
「みんな、ありがとうございます」
ムクとモコ、モフ、モモをぎゅっと抱きしめ、喜びを分かち合う。
商売というのは工夫の一つで、売れたり売れなかったりするのだ、と学んだのだった。




