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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第一章 イーゼンブルク公爵として

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資金繰りについての提案

 しばらくのんびりした時間を過ごしていたのだが、エルツ様から質問が投げかけられる。「下町で魔法薬を手売りしていた、という話をギルドの者がしていたようだが」

「はい。魔法薬を一般市民に普及させるために、行ったのですが失敗でした」

「そうか。薬文化は主に貴族を中心に広まったものだからな。下町の者達はそもそも薬を頼っていないゆえに、難しいのかもしれぬ」

 エルツ様は薬の文化についてしっかり把握していたようだ。

 何も調べずに下町へ魔法薬を売りにいった自分自身を恥ずかしく思う。

「下町の者達に魔法薬を、か。それが慈善活動であれば成立するが、利益を出す商売とするとなれば、とてつもなく困難な道になるであろう」

「私もその辺を悩んでいたところなんです」

 ただその前に、魔法薬の実用性を伝えることが先決であった。

「最初は利益がなくとも、魔法薬を広げることを目的に何ができたらいいな、と思っている次第でして」

「ふむ。では、それを実行するための予算が必要になるわけだな」

「はい」

「投資をしたいのだが、それはビーが許さないのであろう?」

「う……はい」

 返せる見込みもないのに、エルツ様から支援を受けるわけにはいかない。

 将来的に大きな利益は生まれないだろうから、自分の力でせっせと進めたいのだ。

「では、助言だけさせていただこう。資金作りについて、これに参加してはどうだろうか?」

 エルツ様が出しだしたのは一枚の羊皮紙。そこには謝肉祭の期間中に開催される、露店商を募集するものが印刷されていた。

「謝肉祭には観光客から貴族、商人に至るまで、大勢の人達が集まる。ヴィーの魔法薬の効果を広められる上に、資金も得られるのでうってつけの場ではないか?」

 羊皮紙には出店料は無償だと書かれている。なんでもこれは国の重鎮に配布されるもので、人通りの多い特別な場所に出店できるものらしい。

「それで申し込むとよい」

「私がいただいてもよろしいのですか?」

「ああ。毎年申込書を貰っているのだが売る品がないゆえ、一度も参加したことがない」

 おそらく来年には、王宮に薬局を構える私にも配布されるものだろう、とエルツ様は言う。

「今年は私の申込書で我慢してくれ」

 とてもありがたい申し出だった。ただこれを無償でいただいていいものではない。

 そう思って対価を提案してみる。

「では、売り上げの一部をエルツ様へお渡ししますね」

「必要ない」

「しかし、無条件に使わせていただくのは申し訳ないです」

 私の訴えにエルツ様はため息を返す。

「ビーほど真面目で極めて義理堅い者を知らない」

 褒め言葉というよりは、少し呆れた気持ちがこもった発言である。

 自分自身でも、こういうときに相手の厚意に甘えられる人が好かれるんだろうな、というのはわかっていた。それができないのが私という人間なのだろう。

「申し訳ありません」

「いや、責めているのではない。ビーの申し出を快く受け入れることができない私が狭量なだけなのだろう」

 この問題に関してはお互い様なのだろう。

 私だって、エルツ様が何かしてあげたいという気持ちをわかっていながら、素直に受け止めることができていないのだから。

 ここはお互いに譲歩したほうがよさそうだ。

「ビー、折中案をだそうか」

「私もそうしたいと思っておりました」

 エルツ様の厚意に何かお返ししたい私と、私の頑張りを無条件に応援したいエルツ様。

 双方の気持ちを叶える手段について話し合う。

「ふと思いついたのだが、売り上げの一部を児童養護施設に寄付したらどうだろうか?」

「いいかもしれません!」

 エルツ様は二人の名義で寄付しよう、と提案してくれた。

 その案を採用し、魔法薬の売り上げの一部を児童養護施設に渡すことに決めたのだった。

「エルツ様、ありがとうございます」

「いいや、礼を言いたいのは私のほうだ。ビーへ何かしたいと強く考えるあまり、ビーの気持ちをわかっていなかった」

 そんなことはないと首を横に振る。

「――と、こういうのがよくなかったのだな。私とビーはお互いに頑固だった、ということにしておこうか」

「そうですね」

 エルツ様と私が同じ気持ちを持つがゆえにぶつかってしまった、お互いに一歩引こうという落とし所であれば、後腐れがなくなるのだろう。今後もそういう考えを胸に、相手への気持ちを尊重しなければならない、と改めて思ったのだった。

「して、謝肉祭ではどのような品を販売しようと考えているのだ?」

「魔法医の処方箋が必要ない、低位の風邪ポーションを作ってみたのですが、それをメインに売ろうかな、と考えております」

「なるほど。たしかに謝肉祭のシーズンは風邪の患者が増える期間だな」

「そうなんです」

 さまざまな地域から大勢の人達が集まるのと、季節の変わり目でもあるので、体調を崩す人が多くなるのだろう。

「ここ数年、特に増えているような気がする」

「そういえば、神父様もここ三年くらいで症状が酷くなった、みたいな話をしていました」

「謝肉祭が原因かもしれぬな。慣れない場所ではしゃぎ回っていると疲れて、その結果体の抵抗力が低下し、風邪に感染しやすくなる。神父は謝肉祭に行った子ども達から風邪が移っているのだろうな」

「ええ」

 一瞬、神父様も謝肉祭を楽しむあまり、はしゃぎ回ったのかと考えたが、そうではなく、感染源は子どもからだったようだ。

「ただ、子どもはなかなか苦みが強い魔法薬を飲みたがらないだろう」

「そうなんです」

 ある程度大人で魔法薬の効果をわかっていたら我慢して飲む。けれども効果をあまり理解できない子どもには飲みにくいものだろう。

 新たな問題が浮上し、私は心の中で頭を抱える。

 どうしたら子どもに魔法薬を飲んでもらえるのか。難しい問題である。

「ビー、その悩みは幼い者だけのものではないぞ。大人もだ」

 なんでも貴族の中には魔法薬が苦すぎる、と問診のさいに文句を訴える者がいるらしい。

「そういう患者さんがいらっしゃったとき、エルツ様はなんとお答えしているのですか?」

「何、簡単だ。たった一言〝つべこべ言わずに飲め!!〟と言うだけだ」

「な、なるほど」

 エルツ様が本気で言うと、患者さんはしょんぼりしながら頷くらしい。

 ただ子ども相手に同じことはできないだろう。

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