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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第一章 イーゼンブルク公爵として

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救世主!?

 これからどうしようか。下町の真ん中で、途方に暮れてしまう。

 下町の人達に魔法薬を受け入れてもらえるのは難しいのか。

 なんて考えていたら、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

「あんた!! よかった、まだいた!!」

 それは先ほど別れた、花売りの女性だった。

「あの、どうかしましたか?」

「そうだよ! どうかしたんだよ!」

 女性は目を見開いて訴えてくる。

「あんたがくれた薬、効果てきめんだったんだ! ここ半月くらいずっと咳や熱で悩んでいたのに」

「それはよかったです!」

 もしかしたら飲んでくれないかもしれない、と思っていたが、きちんと服用してくれたようでホッと胸をなで下ろす。

「家族にも買ってあげたいんだが、その薬はいくらするんだ?」

「一瓶銅貨七枚です」

「七枚!? そんなするのか!?」

「え、ええ……」

 やはり、下町の人達にとって銅貨七枚は高価な部類に入るのだろう。

「おいくつ必要なのですか?」

「五つ。両親と祖母、妹、弟」

 家族全員分購入するとしたら、かなりの出費となるのだろう。

「あたしがみんなに風邪を移してしまったんだ。特に幼い弟と祖母ちゃんの症状が酷くて……」

 女性の表情がだんだんと暗くなる。

「あの、よろしかったらご家族分の薬を差し上げましょうか?」

「いや、あんたも商売をしているんだろう? 受け取れないよ」

 夜の仕事をし、お金を貯めて医者を呼ぶ予定だったらしい。けれども私の騒ぎのせいで、思っていた収入が得られなかったのだという。

「だから、先ほどはあのように怒っていらしたのですね」

「ああ……。みんな辛そうだから」

 きっと何を言っても、彼女は私から魔法薬を受け取らないだろう。

「労働には対価が必要なんだ。さっきみたいに、無償ただで貰うわけにはいかない」

 その言葉を聞いてピンと閃く。対価さえあれば、彼女は魔法薬を受け取ってくれるのだ。

 すぐに私は彼女にある依頼を提案してみる。

「でしたら、下町についていろいろ教えてくれませんか?」

「下町について? 知ってどうするんだ?」

「私はこれから、下町で魔法薬を売りたいんです。けれども何も知らなくって」

 どういった物事が人気だったり、好まれていたり、嫌われていたり。

 それらの情報はただただ歩き回っているだけでは知ることはできないだろう。

「簡単にできる仕事ではないと思うのですが、お薬と引き換えに引き受けていただけないでしょうか?」

「あんたは――いったい何者なんだ? 下町を拠点に商売しようだなんて、普通は考えないだろうが」

 ここで私は頭巾を外して彼女に顔を見せる。

「私はベアトリス・フォン・イーゼンブルクと申します」

「なっ、き、貴族様じゃないか! なおさら、どうして下町の奴らを相手に薬を売るんだ?」

「苦しんでいる人達を助けたいからです」

 これまで魔法薬は貴族のものだった。それを私は皆のものにしたい。

 ただそれを慈善活動にするつもりはなく、きちんと利益を生み出して、長く続けていけるようにしたいのだ。

「あの、あなたのお名前をお聞きしてもいいでしょうか?」

「……トリス。トリス・ストロース」

「トリスさんですね」

 手を差し伸べ、力を貸してくれないかと問う。

「あたしに協力を仰ぐなんて、本気なのか?」

「本気です」

 トリスはあっけに取られたような表情を浮かべながらも、遠慮がちに手を出してくれた。

 私はその手を掬いあげてぎゅっと握る。

「ありがとうございます。これからお願いしますね」

「あ、ああ」

 トリスとの契約が成立した瞬間であった。


 その後、トリスの実家に風邪ポーションを持っていった。

 彼女の家族も魔法薬を信じていないようだったが、症状が酷かった末の弟の症状がよくなるのを目の当たりにした途端、続けて飲んでくれたのだ。

 皆の風邪が完治すると、ご家族からも感謝される。

「この魔法薬とやらはすばらしいものだ」

「こんなお薬があったなんて」

「ありがとう。本当にありがとう」

 末の弟が高熱を出した晩、トリスが薬局に走って風邪薬を買ってきたのだが、まったく効果がなかったらしい。

 そのため魔法薬に対しても、どうせ効かないのだろう、と思っていたのだとか。

「リーフ薬店の婆さんは昔からインチキ薬師として有名だったんだが、まさか本当だったとはな」

 トリスが吐き捨てるように言うと、彼女のお婆さんから驚きの情報が提供される。

「あそこのお店は薬屋じゃなくて、情報屋なんだよ。売っている品は偽物ばかりだ」

「そ、そうだったのか!?」

「今の世代の子達は知らないんだねえ」

 たしかに売っている薬は効果がないでたらめな物ばかりだった。薬ではなく、情報を売るお店だったなんて。とんでもないお店が下町にはあるものだ、と思ってしまった。

「あの、下町にリーフ薬店以外の薬局はないのですか?」

「ないねえ」

「で、では、みなさん、具合が悪くなったときは、どうなさっているのですか?」

「ひたすら休むばかりだ」

「診療所の先生もヤブ医者だっていうからな」

「ええ」

 トリスはそれについても知らなかったようで、目を剥いていた。

「嘘だろう!? 先生もインチキなのか!?」

「お前、知らなかったのか?」

「常識だけれど」

「言っていなかったかねえ」

「あたし、先生にみんなを診てもらうために、春まで売ろうとしていたのに!!」

 それについては、ご家族は知らなかったようだ。

「お前、なっ、なんてことをしていたんだ!?」

「そんなことのために、春を売っていたなんて!!」

「そんな子に育てた覚えはないよ!!」

 トリスは慌てて未遂だと訴えていた。

「昨日、売るつもりだったんだけれど、美人の薬売りがいるって噂になって、誰も買ってくれなかったんだよ!」

「美人の薬売りというのは、こちらのイーゼンブルク様なのか?」

「そうだよ」

 皆の視線が私に集まり、トリスのご家族は深々と頭を下げた。

「あなたのおかげで、娘は助かったようです」

「本当に、なんと言っていいのか」

「ありがとうございます」

 知らないところで人助けをしていたようだ。昨日はなんの収穫もなくて落ち込んでいたのだが、下町まで足を運んだ意味はあったようだ。

「本当に、薬のお代は娘をお貸しするだけでいいのですか?」

「はい、もちろんです」

「ありがとうございます。娘が知らないことであれば、我々がお答えできることもあるかもしれませんので、いつでもご相談ください」

「助かります」

 下町での強力な仲間を得ることができたのだった。

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