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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第一章 イーゼンブルク公爵として

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再度下町へ

 隠者の隠れ家エルミタージュに戻り、アライグマ妖精の姉妹の出迎えを受ける。

『お帰りなさい!』

『待ってた!』

『夕食、できているよ!』

 無邪気な様子の彼女達を見たら、膝の力が抜けてしまう。

 その場に崩れ落ちてしまった。

『わあ!』

『どうしたの?』

『大変なことあった?』

 駆け寄っていたムクとモコ、モフをぎゅっと抱きしめると、恐怖心が少しだけ薄くなっていったような気がした。


 その後、アライグマ妖精特製の野兎のシチューとパンを食べ、あつあつの薬湯に浸かる。すると冷静な心を取り戻すことができた。

 まさか下町で風邪ポーションが一本も売れないとは想像もしていなかった。

 あっという間に売り切れるとは思っていなかったものの、最低でも半分は売り切ってしまうだろうと想定していたから。

 最後に言葉を交わした中年男性の言葉を思い出す。彼は銅貨七枚あれば酒を七本買えると言っていたのだ。

 下町の物価はかなり低いらしい。そういえば神父様も風邪は薬で治さず、ひたすら療養するばかりだと言っていた。

 おそらく下町の人達は薬をめったに購入しないのだろう。

 以前行った下町のリーフ薬店も、店自体が寂れていて流行っている感じはしなかった。

 なんてことなのか、と頭を抱えてしまう。

 普通に販売するだけでは、魔法薬に興味すら持ってもらえないのだろう。

 ひとまず、もっと下町について学ぶ必要がありそうだ。


 ◇◇◇


 翌日も下町に向かった。今日は昼前に行ってみる。昨日みたいにお酒に酔っている男性に絡まれたら大変だ。この時間帯であれば、いないだろう。

 私は下町の物価も知らずに風邪ポーションを販売しようとしていた。今日はどんな品物がいくらで販売されているのか調査するのだ。

 今の時間帯は野菜や魚、肉、パンなど、食材や食べ物を販売する店が多く並んでいた。

 タマネギは五つで銅貨一枚、肉は塊で銅貨二枚、パンは一個半銅貨で販売されている。

 それらの価格は中央街に開かれる市場の三分の一以下だ。

 銅貨三枚もあれば、三食分は賄えるほどの物価である。

 このような価格帯の中で暮らしていたら、銅貨七枚の風邪ポーションなんて売れるわけがないのだ。

 がっくりと項垂れてしまう。

 風邪ポーションは銅貨七枚以下では販売できない。

 下町で魔法薬を販売することは不可能に近いのだろうか。

 考え事をしながら歩いていたら、背後から声がかかる。

「あんた! 昨日、この辺りで薬を売っていた女じゃないのか!?」

「え。はい、そうですが」

 振り返った先にいたのは、二十代後半くらいの女性である。

「なんてことをしてくれたんだ!」

 女性は私をキッと睨み付けながら言ってくる。

 その顔に覚えはない。今日が初対面だろう。

「あの、申し訳ありません。私が何かしたのでしょうか?」

「ああ、やってくれたんだよ!! あんたのせいで、昨日は客取りができなかったんだ!!」

「客取り、ですか?」

 意味がわからず小首を傾げてしまう。

「あ――もしかしたら、お薬を販売していたのですか?」

 風邪ポーションは一本も売れていないが、あとから買いたいと望んでいた者がいたのかもしれない。そんな推測を口にしたところ、違うと否定された。

「あたしは薬屋じゃないよ。花を売っているんだ」

「お花、ですか」

 そういえば、花をかごに入れて売る女性も数人いた。あんな時間帯に売れるのか疑問だったのだが……。

「客取りができなかった、というのはどういう意味なのですか?」

「そのままの意味だ! あたしが売っているのは花だけではなかったんだよ。春を売っているんだ!」

 春を売る、と聞いてピンとくる。

 どうやら夜にあの辺りをうろついていた女性は、かごの中身を売るお店ではなかったようだ。

 そういえば、私も昨晩、中年男性からいいことがどうこうと話を持ちかけられた。

 どうやら私も春を売っているのだと勘違いされたのだろう。

「常連のおっさんが酒場で、どえらい美人がいたって話をしていたんだ。それで、男達が血眼であんたを探していたんだよ」

 その話を聞いてゾッとしてしまう。

 あのあとグリちゃんに乗って帰っていなければ、春を売ってくれという男性達が殺到するところだったのだ。

「その……ごめんなさい」

「謝って済む問題じゃ――げっほ、げっほ!!」

 女性は突然、激しく咳き込み始める。

「くそ、忌々しい!」

「あの、よろしかったらこのお薬を飲んでみてください」

 商売の邪魔をしてしまったお詫びとして、風邪ポーションを差しだす。

「なんだ、これは?」

「風邪を治すお薬です」

「薬を飲むのは軟弱者だけだ!」

 まさかそんなイメージが薬にあるなんて驚きである。

「げっほ、げっほ!! 謝肉祭前の仕事がなければ、あたしも風邪なんて引いてないのに!」

 謝肉祭というのは、年に一度行われる家畜に感謝する日だ。

 街では出店が出たり、家畜に扮したパレードが行われたり、家畜の仮面を被ってダンスをしたりと、さまざまな催しがある。

 私はこれまで一度も参加していなかったのだが、毎年盛況だと聞いていた。

「なんのお仕事をされているのですか?」

「牧草を刈り取っているんだよ」

 家畜に感謝する祭りというのは名ばかりで、当日は串焼き肉や肉のサンドイッチなどが大人気で、名物にもなっているようだ。

 その家畜のために、王都の郊外に広大な牧草園があるのだとか。

 今のシーズンは人を雇い、牧草刈りを行っているのだという。

「毎日早朝からやるんだ。春とはいえ、朝は冷え込むんだよ」

「大変だったのですね」

 ついつい話し込んでしまった。女性も同じことを思ったのか、ハッとなる。

「げっほ!! げっほ!!」

 だんだん涙目にもなってきたので気の毒になる。

「症状がよくなりますので、どうぞ」

「そこまで言うんだったら、貰ってやるよ!!」

 女性は私から奪うように風邪ポーションを受け取ると、そのままいなくなってしまった。

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