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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第一章 イーゼンブルク公爵として

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下町で風邪ポーションを売ろう!

 王都で商売する場合は、ギルドなどで許可を取る必要がある。

 登録をするためにギルドに向かったところ、下町で商売する場合は必要ないと言われてしまった。

 大きな体をした熊獣人の受付係が詳しい話を尋ねてくる。

「お嬢さん、下町で何を販売するつもりなんだ?」

「魔法薬を販売しに行こうと思っているのですが」

「下町の路上で魔法薬を売るだって!?」

 熊獣人の受付係は目を極限まで丸くし、信じがたいという表情で私を見つめる。

「いったいどんな魔法薬を売るって言うんだ?」

「こちらです」

「どれどれ」

 熊獣人の受付係は眼鏡を取り出してかける。あれは眼鏡を通して鑑定魔法を展開させる魔技巧品だろう。

「おお、低位の風邪ポーションじゃないか。原価もかなり抑えられていて、すばらしいクオリティだ」

 原価までわかるとは。私の鑑定魔法より精度がいいようだ。

 いちいち魔法を展開せずとも眼鏡をかけるだけで情報がわかるので、便利な品だと羨ましくなってしまう。

「これはいくらで販売するんだ?」

「銅貨七枚です」

「いやいや、安すぎる! 千紙幣五枚でも安いくらいだ」

 魔法薬は安売りしないほうがいい、と言われてしまう。

「お嬢さん、悪いことは言わないよ。この風邪ポーションは下町で販売するより、貴族街にある魔法薬局店で買い取ってもらったほうが金になる」

 たしかに彼の言うことは正しい。けれど千紙幣五枚で風邪ポーションを販売したら、貴族しか買えなくなってしまうだろう。

「ギルドで買い取ることもできる。このクオリティであれば、千紙幣六枚出そう」

 親切で言ってくれたのだろうが、風邪ポーションを作った目的はお金稼ぎではない。一人でも多くの患者に魔法薬が行き渡ることだ。

「その、ありがとうございます。では、風邪ポーションは五本だけ買い取っていただけますか?」

 ここまでいろいろ教えてもらったので、何もせずにギルドをあとにするわけにはいかない。そんなわけで風邪ポーションを少しだけ買い取ってもらうことにした。

「残りは下町で売るのか?」

「はい」

「そこまで意志が固いのならば、これ以上止めやしないが」

 最後に熊獣人の受付係は忠告してくれた。

「下町は治安が悪いから、金に余裕があるのならば護衛を付けたほうがいい」

「ありがとうございます、大丈夫です」

 なぜならば、私には綿埃妖精という力強い仲間がいるから。

 綿埃妖精は私の肩に飛び乗ると、ピンと伸ばした毛を棘のように鋭くさせていた。

「ああ、なるほど。騎士を連れていたんだな」

「はい」

 ただそれでも気をつけるように、という言葉と共に見送ってもらった。

 私は綿埃妖精と共に下町へ向かう。


 下町は奥に行けば行くほど治安が悪くなるというので、なるべく人通りが多い商店がある並びで風邪ポーションを販売することにした。

 下町の商店街は荷車に商品を広げていたり、地面に敷物を広げて置いていたり、と中央街や貴族街の商店とは違って簡易的な店が多い。

 かごに花やお菓子、野菜などを入れて販売する売り子もちらほら見かけた。

 私もそんな商人達に紛れて、風邪ポーションを販売しよう。

 夕方となり、人の通りはそこそこ多くなる。

 ちょうど近くを二十代半ばくらいの女性が通りかかったので、声をかけてみた。

「風邪ポーションはいかがですか?」

 女性は私のほうを一瞥すると、無言で通り過ぎていく。

 忙しい時間帯だったのかもしれない。 

 それから道行く人達に声をかけるも、反応してくれた人はいなかった。

 なんというか、心がポッキリ折れそうになる。

 これまで魔法薬師として必要とされてばかりだったので、下町の人々の様子は衝撃的だった。

 新たに四十代半ばくらいの中年男性が通りかかる。ちょうど咳き込んでいたので、声をかけてみた。

「あの、風邪に効く魔法薬はいかがですか? 一本銅貨七枚です」

「銅貨七枚~~?」

 始めて反応してもらえた。嬉しくって大きく頷く。

「姉ちゃんよお、銅貨七枚もあれば、酒が七本買えるじゃねえかよ」

「え?」

「禁酒してまで、風邪を治したいとは思えねえなあ」

 中年男性がぐっと接近してきた瞬間、お酒の臭いがした。きっと酔っているのだろう。慌てて後ずさったら、頭巾が取れてしまった。

「へえ、あんた、この辺では見かけない美人じゃないか」

「いえ、その……」

 中年男性はニヤリと笑いながら話しかけてくる。

「その魔法薬とやらを買ったら、お姉さんがイイコトでもしてくれるのか?」

「い、いいこと、ですか?」

「ああ、そうだ。こっちにきたら詳しく教えてやろう」

 中年男性が手を伸ばした瞬間、綿埃妖精が鋭く尖らせた毛を手の甲へと刺した。

「い、いてえ!!」

 その隙に私はこの場から逃げる。

「おい、待て!!」

 中年男性が追いかけてくるので、慌ててグリちゃんを呼んだ。

「グ、グリちゃん!!」

 助けてくれと言うまでもなく、グリちゃんはやってきて私と中年男性の間に下りたった。「な、なんだあ、こいつ!!」

『ぴ~~~~~~いっ!!!!』

「ヒッ!!」

 グリちゃんの威嚇を聞いた中年男性は、回れ右をしていなくなった。

 ふと気づけば辺りは真っ暗。酒瓶を手にした酔っ払いの姿も多くなる。

「帰ったほうがよさそうですね」

『ぴい……』

 グリちゃんは私を励ますような優しい声で鳴いてくれた。

 

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