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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
二部・第一章 イーゼンブルク公爵として

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思いがけない提案

 ここ一ヶ月ほど、イーゼンブルク公爵としての手続きや領地の管理などの書類仕事に追われていた。

 イーゼンブルク公爵時代のオイゲンは当主としての務めを家令に丸投げし、確認しなければならない重要な事項は放置されていたのだ。

 それが一段落したのでエルツ様をご招待し、報告をしようと思った次第である。

「エルツ様、最近はいかがお過ごしでしたか?」

「ビーがいなくて最悪だった」

 エルツ様の医局には一番弟子であり、副官でもあるクルツさんがいるのだが、相変わらずマイペースなご様子を見せていたらしい。

「あの男、私が何を言ってものらりくらりと言い訳をしおって」

「みなさん、お変わりなく、だったのですね」

「まあ、そうだな。ビーが送ってくれた茶や菓子、料理がなかったら、私は倒れていただろう」

 この一ヶ月間、エルツ様の私生活が疎かにならないよう、グリちゃんにお願いをして食料を送っていたのだ。

「夜は眠れていましたか?」

「いいや、あまり眠れなかった」

「何か心配事でもあったのですか?」

「ビーがいない明日を思えば、眠れるわけがなかろう」

 冗談だか本気だかわからないことを言ってくれる。ただ、私を必要としてくれるのは嬉しいことだった。

「エルツ様、少しお手をよろしいですか?」

 手を差しだすと、エルツ様はすぐに手のひらを重ねてくれた。

「手が冷えているみたいですね」

「ああ。春だというのに、未だに冷えを感じているのだ」

「もしかしたら、眠れない原因は冷えかもしれないですね」

「そうなのか?」

「ええ」

 人は眠るとき、活動神経から緊張を解す神経に切り替える。ただ体が冷えていると、防御本能が働いて活動神経が優位となって眠れなくなってしまうのだ。

「体を温める飲み物を伝授しますね」

「ああ、頼む」

 地面で跳ね回っていた綿埃妖精を肩に乗せ、セイブルと別れると家に戻った。

 家の中ではアライグマ妖精の姉妹が迎えてくれた。

『おかえりなさい!』

『わあ、クリスタル・エルフのエルツ様だ!』

『いらっしゃい!』

 ムクとモコ、モフがキラキラな瞳でエルツ様を迎えてくれた。

 彼女達にお菓子の準備をお願いし、私はエルツ様を伴って台所へ向かう。

「今日は牛乳を使って、体を温める飲み物をお作りしますね」

「ああ、頼む」

 まず鍋に牛乳を入れて、火にかけている間に黒糖の塊を乳鉢ですり潰す。

「ビー、その黒い塊はなんなのか?」

「黒いお砂糖です。黒糖はこのように、塊で売っているのですよ」

 黒糖と白砂糖はもともと同じ材料から作られている。

 黒糖はその材料をそのまま煮詰めて完成させたもので、白砂糖は純粋な甘さを追求して完成させたものと言えばいいのか。

「つまり、製法の違うだけで、二つとも大雑把に言えば同じ砂糖なのだな」

「はい。ただ黒糖のほうは甘み以外の風味を感じるかもしれません」

 黒糖には白い砂糖から取り除かれる栄養分も豊富で、体に嬉しい効果もあるのだ。

「こちらの黒糖には疲労回復、イライラ解消、集中力の向上なども期待できるようです」

「ふむ、今の私に必要なものばかりだな」

 温まってきた牛乳に黒糖を加え、しばし煮込んでいく。

 沸騰する前に火を消し、カップに注ぐ。仕上げに乾燥デーツを浮かべたら完成だ。

「ビー、このデーツにはどういう効果があるのだ?」

「デーツには体を内側から温める効能がありまして、精神を落ち着かせる効果もあるとか」

「なるほど」

 居間に戻ると、アライグマ妖精の姉妹が用意してくれたイチゴタルトが切り分けられた状態で置かれていた。

「いただきましょう」

「そうだな」

 まずはデーツと黒糖ミルクを飲んでホッと一息。

「ふむ。黒糖というのは香ばしいというか、砂糖とは異なる味わいがあるのだな」

「そうですね。デーツはコクのある甘さですので、黒糖と相性がいいと思います」

「そうだな。おいしい」

 お口に合ったようで何よりである。

「不思議だ。何をしてもキンキンだった指先が、ぽかぽか温まってきたようだ」

 エルツ様が触って確かめるように、と手を差し伸べてくる。そっと包み込むように握ると、たしかにぽかぽかだった。

「ふ、これはいいものだな」

「何がよろしいのですか?」

「確認と称して、ビーに触れてもらえるからな」

 エルツ様の話を聞いて、私はなんて大胆なことをしたのか、と手を離す。

 私は違う意味で顔がぽかぽかになってしまった。

 アライグマ妖精の姉妹が焼いてくれたイチゴタルトも絶品で、あっという間に平らげてしまった。

 その間、エルツ様とたわいもない会話をしていたのだが、本来の目的を思い出す。

 居住まいを正し、近況について報告した。

「一ヶ月ほどお休みをしていたのですが、ようやく作業に目処がつきまして」

 屋敷の荒れ具合については、ひとまず目を瞑っておこう。

 領地については遠い親戚となるが、責任ある人に管理を任せるという形で落ち着いている。

「以降は、特別大きな仕事もありませんので、王宮での仕事に復帰もできると思います」

 私の夢は街に薬局を開くことだが、資金がなければどうにもならない。

 しばらくはエルツ様の専属魔法薬師として、王宮勤めを続けようと思っている。

「その件だが、国王陛下に相談したところ、ビーの薬局を王宮に作ったらどうだろうか、という話が浮上した」

「私の薬局、ですか?」

「ああ、そうだ」

 その昔、王室典薬貴族の魔法薬師長だったお祖父様は、王宮に薬局を持っていた。

「ただ、今はその薬局は、現在の王室典薬貴族であるザルムホーファー魔法薬師長が使われているのではないのですか?」

「いや、そなたの祖父であるグレイが使っていた薬局は、少々古びた建物にあったゆえに、ザルムホーファー魔法薬師長に引き継がれなかったのだ」

 そのため、当時のそのままに薬局は残っているという。

「ビー、どうだろうか? 王宮に薬局を置いてみないか?」

 突然の提案に、胸がドキドキと高鳴った。

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