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家を追放された魔法薬師は、薬獣や妖精に囲まれて秘密の薬草園で第二の人生を謳歌する(旧題:再婚したいと乞われましても困ります。どうか愛する人とお幸せに!)  作者: 江本マシメサ
第五章 お祖父様の謎を解明します!

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宴のはじまり

 ついに、クリスタル・エルフの始祖の生誕パーティー当日となった。

 私は蜜蜂のような黒と黄色の配色ドレスに、チュールレース付きのベレー帽を合わせた恰好で参加する。

 黒いチュールレースが顔を隠してくれるので、あまり目立たないだろう。

 久しぶりの参加なので、非常に助かる。

 クリスタル・エルフの始祖の生誕パーティーでのドレスコードが、まさか仮装だなんて夢にも思っていなかった。

 他の参加者がどんな恰好をしているのか、楽しみで仕方がない。


 エルツ様とは研究室で待ち合わせをする。

 約束していた時間には早いが、転移の魔法巻物でエルミタージュから移動した。

 すると、すでにエルツ様は研究室で待っていたようだ。


「早かったな」

「エルツ様も」


 養蜂家をテーマにした仮装をしたエルツ様が振り返る。

 全身白い装いで、トップハットから蜜蜂避けをイメージしたベールが垂れ下がっていて、エルツ様の神秘的な魅力が際立っているように見える。

 合わせたテールコートにはハニカム模様が銀糸で刺繍されていた。


「本物の蜜蜂のように愛らしいな」

「か、かわいらしいドレスを作っていただきました」


 背中には蜜蜂の羽根が刺繍されていて、本当に愛らしい一着となっている。

 褒めているのはドレスで私ではない、と心の中で何度も言い聞かせた。


「エルツ様も、養蜂家の装いがお似合いです」

「それを聞いて安心した」


 パーティーへ挑む前に、お茶の時間にしよう。


「大広間は少し冷えるというので、スパイスを利かせたお茶を持ってきました」


 紅茶にカルダモンとクローブ、シナモンにショウガ、フェンネル、コショウを加え、ピリッと仕上げてみた。

 保温効果がある魔法瓶に注いだお茶をカップに注ぐ。


「蜂蜜を入れますか?」


 その言葉を聞いたエルツ様は、ふっと微笑む。


「何か面白かったですか?」

「蜜蜂からの提案だと思って」

「そういうわけだったのですね」


 たしかに、蜜蜂の仮装をした者が蜂蜜を勧める様子、というのは面白いかもしれない。

 エルツ様は蜂蜜を所望されたので、ひとまずティースプーン一杯分だけスパイス紅茶に垂らしておく。


「ふむ、これは癖になるような味わいだな」

「ええ。最初に飲んだときは、なんだこれは!? と驚いたものですが、今では大好きなお茶なんです」


 飲んでいるうちに、体がポカポカと温まってくる。


 二杯目を注ごうかと立ち上がった瞬間、エルツ様がまさかの行動に出た。

 私の腰に腕を回し、そのまま引き寄せ、エルツ様の膝の上に座らせたのだ。


「なっ――いったいなぜ?」

「今日の私は養蜂家だからな」

「養蜂家のお仕事は、蜜蜂を捕まえることではありません」

「そうだったか?」


 あまりにも白々しくとぼけるので、最終的に笑ってしまった。

 エルツ様の顔を見ると、真剣な眼差しを向けているのに気付く。


「ひとつ、頼みがあるのだが」

「な、なんでしょうか?」

「今さっきみたいに、愛らしい笑みを毎日見せてほしい」

「善処いたします」


 エルツ様は返事をする代わりに、私をぎゅっと抱きしめてくれた。


 ◇◇◇


 ついに、クリスタル・エルフの始祖の生誕パーティーが始まった。

 会場には、不思議な装いをした人々が集まっている。

 包帯人間ミイラ、吸血鬼に猫娘など、仮装のクオリティはかなり高い。

 皆、仮面を装着するとか、動物の耳を付けるだけとか、体の一部にアイテムを身に着けるのみの仮装だと思っていたのに、思いのほか、気合いが入っていた。


「不完全な仮装をした者は、受付で止められ、入場できていないようだな」

「では、ここにいるのは、ドレスコードのチェックに合格した猛者もさだけだったのですね」

「そうみたいだ」


 参加者のほとんどはヴィンダールスト大公家の親族らしい。

 皆、水晶を思わせる美貌の持ち主ばかりで、非常に眼福だった。

 現在の当主であるエルツ様は、ベールを被っていたので、気付かれていない模様。


「親戚共にもみくちゃにされるものだと思っていたが、この装いのおかげで静かに過ごせている。養蜂家の仮装を思いついたビーのおかげだな」

「お役に立てたようで何よりです」


 途中、巨大なクマが目の前を横切る。

 よくよく見たら、クマの全身着ぐるみを着用したクルツさんだった。


「お前は、なんて恰好をしているのだ」

「ひっ、魔法医長の声がする!?」

「ここだ」

「わあ!」


 クルツさんもエルツ様に気付いていなかったらしい。

 戦々恐々とした様子で会釈する。


「あ、ブルームさんもご一緒で……蜜蜂と養蜂家なんだ!」


 パートナーと一緒の仮装を褒められる。


「俺も誰かとクマと猟師、みたいな仮装にすればよかったなー」

「誰かいるのか?」

「いや、いないかも」


 クマは蜂蜜が大好物なので、仲間に入れてくれないか、とクルツさんが懇願したものの、エルツ様はきっぱり断っていた。


「パートナーを探す努力をしろ」

「ごもっともで」


 クルツさんは飲食コーナーを発見したようで、スキップしながら去って行った。


「賑やかな男だ」

「おかげさまで、緊張が解れました」


 クリスタル・エルフの始祖はいったいどのような仮装でやってくるのか。


「広間の中心にある巨大な花のモニュメントが極めて怪しいな」

「ですね」


 国王夫妻が魔女と犬の使い魔の装いで登場すると、ついに生誕パーティーが始まった。

 犬の耳を装着した国王が両手を掲げ、声をあげる。


「今日はエルツ・フォン・ヴィンダールストの千五百歳のめでたい日――皆の者、心から楽しむように。そして、本日の主役、エルツ大魔法医長!!」


 そう口にした瞬間、モニュメントの花が開花する。

 中心から姿を現したのは、全身タイツに蝶の羽根を背負ったクリスタル・エルフの始祖の姿……。

 動く度に、頭の上にある触覚が右に、左にと揺れていた。


 容貌は驚くほどエルツ様そっくりだが、あの仮装はいったい……?


「あ、あの、エルツ様、クリスタル・エルフの始祖の仮装は、どのような意図が?」

「ふざけているとしか言いようがない。ビー、見るな。目が腐るから」


 クリスタル・エルフの始祖はかなり独特な感性の持ち主だったようだ。

 想定外の仮装で、皆、クリスタル・エルフの始祖から距離を取っている。

 クリスタル・エルフの始祖はにっこり微笑み、参加者に向かって声をかけた。


「みんなーーーー! 今日はありがとーーーー! 楽しんでいってねえーーー!」


 なんともシンプルなお言葉だった。 

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