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魔法世界の少年ティルの物語 ~魔力ゼロで元魔王な少年は第二の人生を気ままに生きていきます  作者: yume
第三章:モルジア諸島編・魔性の歌姫と海の底に棲まう者
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第十六話:悪逆非道の海賊



 威勢よく啖呵を切ったものの現れたやせ男は驚くこともなく、どこ吹く風で面白がっているようにも見える。


 エドワードはこの男の厄介さを知っているため油断する暇もないので前を向きながらレーネスに呼びかける。


「おい」


「……え、あ はい」


「お前、すぐに逃げろ」


「逃げろってあなたはっ」


「俺なら大丈夫だから」


「で、でも……」


 言い籠るレーネスの返事にエドは痺れを切らした。


「さっさと逃げろ、お前がいたら邪魔なだけだ」


 いきなり怒鳴られたレーネスはびくりと肩を揺らした。


「おお、怖い 怖い 怒鳴ることはないんじゃないか ねえ、お嬢ちゃん」


 優しい言葉を語りかける男にエドワードは苦虫を潰したような顔をする。


「黙れ、ロロノワ」


「おい、そこはさん付けだろう 俺の方が先輩なんだから」


「……二人はお知り合いなんですか」


 レーネスはさっきから気になっていることを質問をした。


「お〜、自己紹介か まだだったね 私はピエール・ロロノワ 悪名高き黒ひげ海賊の副船長を務めています」


「海賊?!」


 レーネスは声を上げて驚き、エドワードはシワを寄せる。


「何回も言うが、俺はお前達海賊の仲間になったつもりはない こんなものが無ければ…っ」


 エドは自分の首輪を触り、忌々しそうに呟いた。そのことに面白そうにロロノワは目を細めた。


「その可愛らしい首輪が何なのか気になるようだね、お嬢さん」


 図星を突かれたことにレーネスは目を見開き、恐る恐るコクリとうなづいた。


「ふふーーそれはね」


「おい、言うーー」



 知られたくなったエドワードは止めようとしたが、ロロノワの口を制止する事はできなかった。


「これは奴隷の首輪なんだ」


「奴隷の首輪?」


「そう 奴隷ってわかる? そのまんまの意味だよ」


 奴隷はかつて大昔にあった制度だが、今は自由を認められないのはあまりにも不平等としギルド連合でも見つけ次第、厳重に罰せられるのだが、何でもないことのように話すロロノワは異質であった。


「…どうして、そんなことを」


 あまりの非道にレーネスは言葉を失う。普通はエドに聞くべきなのだが面と向かって聞くのは幅かれた。


「そんなの、船長の気まぐれさ こいつの父親は貿易船の船長だったんだけどな 俺らが殺してそいつは運よく生き残ったんだ」



『お前ら、よくも父さんと母さんを殺してやるっ』



「元気だけは良かったからな奴隷にしたと言うわけだ」


 エドワードの凄惨な過去にレーネスは絶句した。


「お前が知る必要はない」


 か細く呟くエドワードにレーネスは自分の弱さをかみしめた。


(今、私よりも苦しんでいるのは 私じゃなくて)



「なら、私はここを離れるべきじゃありません」


「……はあ?」


 さっきまで涙目にしていた少女はどこへやら、心なしか目が据わっていた。


「何言って、さっさと逃げろって」


「いやです」


「いやですじゃねえだろ?!」


 二人の言い合いにロロノワは可笑しそうに笑う。


「いいんじゃないか、別に それに僕は君にも用事があるんだ」




「………え?」




「セイレーンの血の色ってやっぱり赤い色なのかな それとも違う色?ああ、もう我慢できない ーー切った方が早いよね」


 一瞬の風がふわりとした時、レーネスはエドワードに庇われていたと言うより抱きつかれていた。


 あまりにも密着する体勢にレーネスは赤面するが、彼の背中に触れた時にヌメリとした感触と鉄の臭いがした。


 自分の掌にあるそれを見て、手を震わせた。



「血…どうして」




 もちろん、自分の血ではない。それはエドの血だった。


「ああっ、反射神経いいんだよな エドくんって 魔力を封じて無ければ相手してもらいたいんだけど あまり時間が経つと面倒なことになるんですよね」


 ロロノワが手を叩いた瞬間、林から続々と人が現れる。


「ロロノワさん、終わりましたか」


「ああ、お前ら 彼女とエドくんを運べ」


「分かりやした」


 まさかロロノワ以外いるとは思ってなかったのでレーネスは傷ついて気を失ったエドを守るように抱きしめる。




「来ないでください!!」




 レーネスの必死な叫びに男達は冷やかしまじりに嘲笑する。


「『来ないでください』だってよ。ひひっ そんなに嫌がられるともっと泣かせたくなるね」


 下品な笑い声をあげる男達にレーネスは叫んだ。


「誰かーー助けて!!  誰か!!」


 男の手がレーネスのわずかな希望を踏みにじろうとしたその時だった。





「おいおい、女の子を泣かす悪い男にはきつ〜いお仕置きだぞ」


 いつもは飄々として口調はふざけているが目は笑っていないリントは男達に怒りをあらわにした。


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