第十五話:首輪の少年・エドワード
少年は様子のおかしいレーネスのおでこに手をかざした。
「あち?!」
これは当分歩けないと思った少年は放り出すこともせず、レーネスの身体を負担がかからないようにおぶさり移動した。
少し奥で川のせせらぎを聞いた彼はそこを目指した。
数分後、レーネスを探していた男達は追っていた少女がいきなり見えなくなり焦りを募らせて声を荒げる。
「ちくしょうっ、いなくなっちまった」
「おいおい、いなくなったじゃ、すまねえだろ」
「こんなのお頭にバレたらどう言い訳が…」
困り果てている男達に睨み合っている中、他の男たちよりもひ弱で痩せ型の男が別の方を細い目で一点に凝視をしていた。
そこに何かいるわけでもないのだが、微動だに動かない様子にただただ不気味であった。
何かを見つけたかのように口元をにやつかせた瞬間を運悪く見てしまった仲間の男が震えながら話しかける。
「ピエールさん、何かをつけましたか?」
「ああ、匂うね 獲物の匂いが 切り刻みたいね〜」
物騒な言葉を聞いてしまった男達は青白くなる。男達はいう通りに林の奥に向かった。
ひんやりとした心地よい冷たさに昂っていた温度を覚ましてくれた。その気持ちよさにレーネスは目を覚ました。
「う…ん」
頭のおでこにあるものを手に取ると濡れた手拭いだということに気づいた。
(どうして、私は)
ぼんやりとする頭で考えていると声がした。
「まだ、ゆっくりしていろ」
「……え」
視線をずらすとそこには青色の髪の少年が座っていた。
「あなたは…?」
「俺はエドワード」
「エドワードさん? 私はレーネスと申します あの私はどうして」
エドワードは混乱するレーネスに落ち着かせるように説明した。
「お前は奴らに追いかけられて、捕まりそうになったんだ」
「追いかけられていた……あ」
フラッシュバックしそうになったが、彼に手を握られたことで恐怖心が和らいだ。
「大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます あなたが助けていただいたんですね」
「ああ、その後お前が気を失って」
「……へ、 すみません! 私助けていただいたのに」
レーネスは慌てて立ち上がろうとした瞬間、立ちくらみで倒れそうになったがエドワードが支えた。
「おい! 急に立ち上がるな」
「うゔ、すみません」
「どうして、あんなところに一人でいたんだ」
「それは……」
言いづらかったのだが、ここまで助けてもらった恩人に何も話さないのは恩知らずだと思ったレーネスは少しずつ話し始めた。
「……私には二人のお姉さん達がいて歌を歌う仕事があるんですけど、今はちょっと…歌えなくて、気晴らしをするために散歩をしていたんです」
「歌えない?」
「はい、歌う前にお客さんに言われたんです 子供は引っ込んでいろって そしたら私、歌うのが怖くて 今は姉さん達二人に歌ってもらっているんです それなのに、私は……」
「お前、自分を責めても何も変わらないぞ」
「えっ」
レーネスはエドの強い視線に囚われる。
「いつまでも、そう考えてもな」
その時、エドワードは首輪に触れた。苦しそうに眉間にシワを寄せる姿にレーネスは話を切り替えた。
「あの、そういえば あの男達は何者なんですか?」
「ああ、あいつらはーー」
その時だった。いびつに歪んだ声が周囲に響き渡る。
「ああ、におう 匂うぞ 裏切り者の匂いが」
「!」
いきなり現れた人影にレーネスとエドワードは硬直する。
「お前はーー!!」
どうやらエドは知り合いのようだ。
現れた男は痩せ型で猫背で弱々しいのだが、どこか底知れない不気味さにレーネスの背筋に悪寒が走る。
「全く、いけないね エドくん こんな所にきてお頭が許しても僕はゆるさないよ」
言っていることがよく分からないレーネスは口を開く。
「この人たちは一体?」
「この男は奴らの仲間ーーそして」
次の言葉を発そうとした時に痩せた男の方が口を開いた。
「そして君は僕たちの仲間」
「え??!」
予想外の答えにレーネスは驚愕した。しかし、彼の発した言葉にエドワードは反論する。
「ふざけんじゃねえ 誰がてめえらの仲間にになるもんか……っ」
血反吐を吐くようなエドワードの声にレーネスは胸が苦しくなった。




