第十三話:アイナとセリカ
「おい、ちょっと遊ぶくらいいいじゃねえか 減るもんじゃねえしよ」
ふざけた声で女性にかける男はニタニタとほくそ笑んでいた。女はいうことを聞くと思っている男に対し、声をかけられた女性は苛立ち混じりな声で男性を罵る。
「はあ〜ふざけないで あんたと遊ぶくらいなら死んだ方がマシよ ね?セリカ」
「ええ、せっかくいい気分だったのに台無しね ホテルに帰りましょうか、姉さん」
「そうね」
女性達二人はすぐに立ち去ろうとすると一人の女性が腕を掴まれて悲鳴をあげた。
「っ痛?! 何するのよ」
腹を立てる女性に言われたことに頭に血が上る。
「優しくしたらつけ上がりやがってっ! 女は男の言うことを聞けばいいんだよ」
男が腕を振り上げ女性を殴ろうとした時だった。
「おい、何やっているんだよ!!」
男の拳は受け止められびくりとも動かなかった。衝撃の備え目を瞑っていた女性は目を開けて驚いた。
「あなたは…」
「お、大丈夫か?」
ニカっと笑う少年のリントの笑顔に女性は思わず頬を赤く染める。
「は、はい」
「そうか、よかった」
男はリントが自分の存在を無視して話し合う様子に最初に邪魔してきて驚いていたが、興奮しながら声を上げる。
「てめえ、邪魔すんじゃねえ!」
男は抑えられている腕に力を込めてもリントはびくりとも動かない。ならばもう一本の腕で反撃しようとした時、リントは二人の女性に話しかけた。
「ちょっとお嬢さん達、危ないから下がってな」
「は、はい」
二人の女性はや助けてくれたリントの邪魔にならないように距離を取る。それを確認したリントは男の拳を掌で抑えこんだ。
「ぐっ?!」
加速で身体を強化して、どんなに力を込めてもびくりとも動かないリントに焦りを募らせる。
「てめえ、一体何者だ?!」
「俺か、俺はただの学生だーーっ」
リントは動揺する男を背負い投げすると地面に当たった衝撃で気絶した。その時、ようやく駆けつけたティル達は辿りついた。
「リントくん、大丈夫でしたか?!」
「おう、大丈夫だったぜ」
女性達二人はリントに駆け寄った。
「あの助けて頂いてありがとうございます 私はアイナと申します」
アイナという女性は波打った髪に赤い瞳を持つ綺麗な女性だった。
「私はセリカと申します 姉を助けて頂いてありがとうございました」
もう一人の女性はストレートの黒髪で青い瞳が印象的な美女である。
「俺はリントっていうんだ」
どうしてこんなところにいたんだと聞くとアイナはそのわけを説明した。
「この裏路地にある雑貨屋の行った帰りだったんです」
「それで本通りに出ようとしたときにあの酔っ払いに絡まれちゃって、治安がいいと思っていたのですが これじゃあの子が心配に…」
「あの子?」
気になった言葉にティルはアイナに聞いた。
「私たちの末っ子です。 名前はレーネスという女の子です」
「三姉妹なんですね」
「はい、私たちはこの島に仕事のために来たのですが、人が来ないためなかなか仕事ができずにいるんです」
「妹さんがどこにいるか知らないんですか?」
「はい、あの子は買い物をするよりも海岸で散歩をしたりするのが好きなので」
「リオ先生」
「はい、妹さんのことが心配ですね」
先生と言われたリオにアイナとセリカは驚いた表情をしていた。
「え、あなた先生なの こんなに小さいのに」
「へ、あ あの?!」
アイナとセリカは小柄なリオが先生というギャップにテンションが上がり、間に挟まれた彼はもみくちゃにされる。
「姉さん この子肌がすべすべよ」
「あら 本当ね しかも髪の毛も艶々だし」
美人二人に言い寄られている分には悪くないのだが、とうの本人は困っているのを見てティルは助け舟を出した。
「あの、早く妹さんを探しに行った方が」
妹という言葉を聞いたアイナとセリカは名残惜しそうにリオの髪の毛と肌から離れていった。
「ウヴ〜、大変な目に遭いました」
「はは」
目を回すリオにティルは苦笑する。
「いや〜、よかったな 二人の美女に囲まれて」
茶化してくるリントに涙目になりながらリオは反論する。
「もう、冗談じゃないですよ」
「まあまあ、リオ先生 落ち着いて」
ティルはリオを宥めながら 二人の妹を探すことに切り替えた。
「とりあえず海岸の方に向かって見ましょう」




