第十話:出発
モルジア諸島に向かう出発日となった。ティルとノアは準備をして、家の鍵を閉めて集合となるゲートの前に向かった。
集合場所は一際多い人だかりの中からリントを見つけ、彼もティルに来たことに気づいた。
「よっ、お二人さん」
「おはよう、リント」
「おう、おはよう」
ティルは学園に来る前も驚いていたが、真下から見上げるゲートには迫力がありその大きさにいつも驚かされる。
「ここから行くんですよね」
「おう」
「皆さん、きましたか?」
人だかりの中からやってきたリオはティル達に駆け寄ってきた。
「おはようございます、リオ先生」
「おはようございます、ティルくんとノアさんとリントくん」
挨拶を終え、リオからゲートの通行許可証をもらった。
「これが通行証なので無くさないように」
「はい、わかりました」
無くさないように手提げの中に入れた。するとどこからか言い合う声が近くで聞こえ、ティル達は何だと思い見ると二人の先生が両者に睨み合ってしまう。
「ちょっと、私のファッションにケチをつけないでくれる フィズカルト先生」
「ケチではありません、そんなひらひらした服を着て遊びに行くわけじゃないんですよ」
「言われなくても分かっています このほうが動きやすいからいいんです」
「だったらもう少しーー」
朝から言い合う光景にティルは「あ〜、またやっている」と慣れつつあった。リオは二人の言い争いを止めるために悠然と立ち向かった。
「フィズカルト先生、リスティリア先生 喧嘩はやめてくださいっ」
駆け寄ってきたリオにテレサにある名案を思いつく。
「リオ先生、あ、それじゃ 彼にも見てもらおうかしら」
一体何をいいんだすんだとルイズは彼女に訝しむ。
「リオ先生 私のファッションどう思います」
「ふへ?」
いきなりの質問にリオは戸惑いを見せる。
テレサのファッションは太ももが見えるくらいスカート丈が短く、布の面積が少ない。確かにルイズが言っていることは一理ある。
「えっと、とても似合っていますけど……でもちょっと」
と言い出したのが、モゴモゴと言い切るまでにテレサは口を開いた。
「ほらね、リオ先生もやっぱり可愛い方がいいよね」
「え、あ は〜」
テレサのニヤついた表情にルイズはとうとう堪忍袋の緒が切れた。
「ここで今、あなたを全力で…」
「いいわよ、受けて立つわ」
「ちょっと、やめてください」
止めようとしたのに火に油を注ぐことになったリオは涙目になり懇願した時だった。
『次の方、どうぞ』
アナウンスが流れゲートを通る番になった。
「ふ〜、この決闘はいずれ」
「ええ、今はね」
二人はすぐさま切り替え、行く前にどっと疲れたリオの肩にティルは手を優しく置いた。
「ティルくん」
涙目の彼にティルは苦笑する。
「大変でしたね あんなに仲が悪いとは」
「二人の仲は犬猿の仲って有名なんですよ」
「そうなんですか」
今の声はリントではない。ティルは久しぶりに聞く声にぱっと振り返るとそこには見覚えのある少年が立っていた。
「セスさん!」
「おはようございます、ティルくん」
「セスさんもモルジアに?」
「はい! ちょっと野暮用で説明会を受けられなかったのですが 何とかギリギリに 僕はヴィザードクラスなのでそれでは」
「うん、また」
セスはクラス担当のルイズに書簡を渡し、クラスに参列した。
「それでは、ヴィザードクラスの者は逸れないように私についてきてください」
「はい」
先生の声に生徒達は声を上げて返事をし、光の中をくぐり消えていった。そして次はナイトクラスの教師であるテレサが口を開いた。
「は〜い、それじゃ 私についてきてね」
生徒も同じように返事をして次々と光に包まれていった。いよいよリオ達も出発する番となる。
ティルは後ろを振り返りながら学園がある方を見た。光に包まれる瞬間、ティルは少し寂しい気持ちになった。
「学園とは少しお別れですね」
寂しい声にノアは不安を消すようにティルの手をギュッと握りしめた。
「また、すぐに帰ってこれるわよ」
「うん、そうだね」
先導を歩くリオとリントの後を追いながらついていき、ティルはノアと共に光に包まれゲートを通過した。




