第四話:ティル、ジョンと友達になる
ティルは幼い頃、いや生まれる前からノアの世話をしたこともあったので、どうゆう時にどんな表情をするのか知っていた。
(これは……)
「あの、ノアさん どうして怒っているの?」
「…別に怒ってないわよ」
そっぽを向きながらいじけた姿はティルではなくても他人でも分かると思うのだが……そしてノア以外にもいやそれ以上に精神的なダメージを負っていた男がいた。
ジョン・エバンスは伯爵の屋敷に駐屯している直属のギルトに属している。そしてギルド連合に行ったらまずやることはミルカに挨拶することだった。
ジョンは声をかけようとする暇もなく、目の前の光景に唖然と口を開いていた。
(ミルカさんが、頬を赤らめながら片言ではなく、一方的ではなく離しているっ しかも誰が話しかけても無表情でなおかつクールビューティーなのに……っ)
我が目を疑い、真偽を確認するために副団長に話しかける。
「ふ、副団長 あそこにいるのはミルカさんで合っていますよね」
なんとか絞り出しながらジョンは声を出した。間違いで合って欲しいと思いながらその思いは一瞬で打ち砕かれる。
「はい、そうですけど 何か?……ジョン?」
挙動がおかしいジョンの様子に同じ団員としてクラリッサは心配する。
「俺の知っているミルカさんじゃない?」
「はい?」
何を言っているんだとこいつはとクラリッサは早くも白い目を向けた。
「だってミルカさんはいつもクールで『仕事中ですので』とか『申し訳ありません』とかあんまりしつこいと追い出されたこともありますし」
そこまでやっていたのかとクラリッサは遠い目になった。
「それはあなたの自業自得です」
「ミルカさんはどうして」
そして、ジョンはある事に気づく。ミルカが誰に視線を送っているのか、その先の一人の少年を凝視した。
(あの野郎がミルカさんの瞳を独り占めしてーー)
ジョンは彼が誰なのかクラリッサに聞いた。
「うん? ああ あの少年は最近入学してきた少年でって……」
クラリッサの話を聞き終わる間も無く、ジョンはいても経ってもいられずすぐに行動に移した。
「おい、お前!」
「え、あ はい 僕ですか?」
いきなり声をかけられたティルは思わず返事をして振り返ると一人の少年が立っていた。何故かいきりたっている様子に疑問を抱く暇もなく、指を指して叫んできた。
「お前、俺と勝負しろ!」
「えっと、どちら様ですか?」
いきなりの申し出に驚いたもののそれよりも誰なのだと疑問をティルはぶつけると自己紹介された。
「俺は『騎士の鉄拳』の団員のジョン・エバンズだ!」
「はあ、そうなんですか 僕はティル・レイヴァントと言います」
深々と頭を下げられたジョンは咄嗟に頭を下げたのはクラリッサの教育の賜物なのか、ティルの闘争心を削ぐほんわかとした雰囲気に充てられた。
「それで、勝負ってなんのことですか?」
何のために声を上げたのかとジョンは気を取り直して声を上げる。
「(こんなぽやっとした奴に……っ)レイヴァント……ミルカさんとは一体どうゆう関係なんだ」
「え、ミルカさんとですか?」
変なことを聞かれたティルは困惑しながらも口に出した。
「どういうって知り合いですが…」
答えたのにも関わらず、その答えに納得できないジョンは声を荒げる。
「ただの知り合いがどうしてそんなに仲がいい?!」
「えっと……仲がいいのか分かりませんが……別に普通なので」
何気なくティルは自分の思ったことを話しただけなのだが、それに対しジョンの雰囲気は異様に悪くなるばかりであった。
ティルは思わず後退りするとガシリとジョンに両肩を掴まれ叫んできた。
「俺はーー俺はその普通のこともできていないんだよ!!?」
今にも泣き出しそうになり、口元を噛み締める様子に動揺したがそれを聞いたティルは考えてピンと来た。
(どうしてこんなに怒っているんだろう? 普通のことができないというのはーー!)
彼の雰囲気を見て、かつての幼なじみオリバーのことを思い出した。それであることを思い出す。
(あ〜なるほど オリバーはカリーナのことが好きでしたが、彼はミルカさんが好きなんですね だから僕と話し合っているのを見てヤキモチを…)
理解したティルはジョンの肩にポンと手を載せた。
「エバンズさん、安心してください ミルカさんとはなんの関係もありませんので」
「え……そ、そうなのか……?!」
喜びに溢れたジョンの声とは一転、その瞬間、場が凍りついたのに気づいたのはティルとジョン【以外】のものだった。
「そうか、そうだったのか! 悪いな 変に突っかかって」
「ふふ、別にいいですよ」
「お前、いい奴だな」
ジョンは気軽にティルの肩に腕を回して笑いあう光景は微笑ましいものだがーー【それに】に気づいていたリントは場に広がる冷たいものに冷や汗をかきながら、呑気に笑い合う二人に話しかける。
「えっと、そろそろお二人さん やめた方がいいんじゃないかな?」
「へ?」
「うん?」
何を言っているんだとティルとジョンはよく分からなかったが、リントの目線の先を見て分かった。
そこには凍りつくような冷気を纏ったミルカがいた。
ジョン・エバンス
ギルド「騎士の鉄拳」の団員の少年。ミルカが好き。




