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魔法世界の少年ティルの物語 ~魔力ゼロで元魔王な少年は第二の人生を気ままに生きていきます  作者: yume
第三章:モルジア諸島編・魔性の歌姫と海の底に棲まう者
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序章:その名は

 魔法世界随一の広大な面積を持つカイヤ海に浮かぶ島国があった。


 中央に本島があり八つの小島は指輪のように陸繋島(りくけいとう)となっており、二十五の環礁(かんしょう)が含まれており、透き通る海はこのサンゴ礁の作用のおかげでもある。


 昼は色鮮やかなピンク色で、夜は月の光で神秘的に発光して幻想的な風景がある島なのだが、日のあるうちは爽快な青い海が広がるのだが、暮れると町の中心街以外は街灯があまりないので不気味なくらい暗くなる。


 島の民達は夜は視界が悪くなるので漁には出れないが、島を守るために見回りをする。海を荒らす海賊や魔物などを蠢いているからだ。


 けれど、このモルジア諸島は襲われたことがなかった。


 それはサンゴの能力のおかげだった。島全体に結界が張りめぐられており、島の民達もサンゴの生態系を壊さないように配慮している。


 八つの小島の一つであるアイラック島で二人一組で小舟を出し巡回をしていた。


「なあ、今日は巡回が終わったらちょっと飲まねえか」


「お、いいね お前の奢りか」


 一人はラック、もう一人の名前はパキラと青年。二人は同い年で小さい頃からの幼なじみで気心が知れており、この仕事にしたのも給料が割高だったからだ。


 少し危険は隣合わせだが、仕事が数年となれば最初はビクビクとしていたが、慣れていけばそうでもなくなる。


 こんなふうにベラベラと喋るくらいに気楽な仕事である。


「は、何を言っているんだ? この前俺が奢っただろう 今日はお前の番だろ」


「そうだったか?」


 飄々と返す青年に彼は釘を刺すように口調を強めた。


「そうだ!忘れんなよ」


 そして二人は小舟に乗り中盤に差し掛かった時だった。今まで何の異常もなかったのに白い霧に覆われた。


 二人は特に慌てることもなく白い霧の中を進んでいった。珍しいことではなかったからだ。


 そしてラックは最近巷で有名な三歌姫のことを話し出した。


「ああ、今度あの三歌姫が本島の方で歌うんだってな」


 三歌姫とは流浪の踊り子の存在であった。そしてその三歌姫は三姉妹であった。


「長女と次女には酒を注いでもらいたいな」


「三歌姫って末っ子っているだろ?」


「末っ子はまだチビだからな お前にやるよ」


「俺はガキに興味はねえよ」


「まあ、もうちょっと成長すればな 美人になること間違いねえな なんせセイレーンの種族だし」


「おい、セイレーンは船人を歌声でおびき寄せ、船の底に沈める種族じゃねえか」


 縁起でもねえと口元がひきつりながらパキラは答えた。


「おまえ あんな美女になら誘惑されて海の底に沈められても俺は何回でも這い上がって見せるぜ」


 女好きの幼なじみに白けた目で見つめた。


「そうか お前は気楽でいいな」


「お前も少しは女の楽しみを覚えた方がいいぞ」


 偉そうにいうラックにパキラは口を挟む。


「そういやお前 この前酒屋の前で女にはっ倒されてなかったか」


「それはいうんじゃねえ」


 段々と機嫌が悪くなったのをみた幼なじみにパキラは話を切り替える。今度は彼の方から話を始めた。


「そういえばこんな話を知っているか?」


「ああ、なんだよ?」


「俺の爺さんから聞いたんだけどよ 昔白い霧の中で化け物を見たって話」


「ああ、その話か」


「お前、信じちゃいねえな」


 パキラは自分の話を信じない幼なじみを訝しむ目で見つめた。


「見たこともないものを信じられるわけないだろ」


「まあ、そうだけど すげえ大きかったって言ってたけどな」





 その瞬間、さやけく波と風の自然な音がかき消された。


 異常を感じ周囲を伺った時だった。目の前のラックの様子がおかしいことに気づいた。自分をいや自分よりも視線を上の方を見て凝視していた。口元を慄かせながら喋った。



「お…い、その化け物ってーーこ…れくらいか?」



「うん? 何を言って」


 何を言っているんだとラックの言葉が気になったパキラは後ろを振り返った瞬間全身が凍りついた。周りには何もいなかったはずなのにそこには白い霧の中から巨大な黒い影が出現していたのだ。




「何なんだ、これは……っ」


 そして、二人は逃げ出すことできず自分よりもはるかに大きい化け物が襲いかかる。




「ぎゃあああああああ」




 二人は断末魔の叫び声を上げながら、恐怖のあまりその場で失神した。いつまでも見回りから帰ってこないので他の見回りは心配し捜索するとすぐに見つかった。


 二人は抱き合うように気絶していたがパチリと目を覚ました。


「おいおい…」


 最初はからかいまじりに見ていた他の見回り兵だが何か言っていることに気づいた。


 小さな声で話すので耳を澄ますと、


「化け物が…」


 目を覚ましたが茫然自失の二人に兵達もどうしたものかと困惑した。その様子を見ていた見回り兵を仕切るリーダーの彼は言い知れない緊張感が走る。


「兵長 これは只事ではなさそうです」


「ああ、これが俺たちには手に負えなさそうだ、二人を医務室に!」


「はい」


「それとギルドに連絡を取ってくれ 俺は本島の首長に知らせる」


「かしこまりました」


 すぐさま副官は依頼書を書き上げ、光の魔法で作られた伝書鳥で調査するようギルドに転送した。





「畏怖」「戦慄」「権化」を体現した海の底に棲みつく魔物がいた。


 海を荒らすお尋ね者の海賊や蹂躙する捕食者の怪物、戦闘能力の高い魔族やましてや不老不死の神々でさえもその姿の片鱗を見るだけで身体を震え上がらせ精神をおかしくさせた。


 その魔物の名は…


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