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第三十話:リントvsオウガ


 ティルは見覚えのある建物の名前を口に出す。


「うん……? ああ、これ南街にあるコロシアムかな、外観しか見たことがないけど」


 その疑問に答えたのはセスだった。


「その通りです」


「セスさん」


 隣にいるセスにティルは気を失っているマークを心配そうに見つめた。


「その人は大丈夫ですか?」


「はい、()()()()()()()()()気を失っているだけです」


「へ〜、それはすごいな どうやったんだ」


「知りたいですか?」


 好奇心旺盛なリントにセスは面白そうに笑みを浮かべる。その笑みをみた瞬間考えが変わる。


「……い〜や、なんか分からんがやめとく」


 本能で察知したのか薮蛇になりかねないと思ったリントは聞くのをやめた。


「う……ゔ」


 すると丁度いいタイミングで気絶していたマークが目を覚ました。


「あ、おきましたね」


「ここは……」


 セスはマークを捕縛していた縄を解いた。


「まだしばらくは満足に動けないですから、無茶しない方がいいですよ」


 にっこりと微笑むセスを見たマークは肩を揺らした。


「ひい……」


 その怯える様子に一同は一体彼に何をしたんだとセスを恐ろしく思った。自分の体術と魔術に絶対の自信を持っていたマークのプライドは崩れ去ったのだ。


(こいつ、一体何なんだ 俺は仮にもCランクの腕前を持っているんだぞ、ただの学生に……)


 最後は完膚なきまでに叩きのめされてしまい仕舞いにはぐるぐる巻きにされ雇い主の前で醜態を晒された。


 そのことにプライドが高いマークは歯噛みしてぎっと睨む姿にセスは顔色変えずに見つめた。


(いずれ、貴様に勝ってやる)


 マークはセスにいずれ復讐すると心に誓った。


 それからリントとオウガ、そして審判となった団長を残して、ティル達は上から見渡せる観覧席に向かった。


「それでは、ルールを説明する まあ相手をのした方が勝ちだ」


 クラリッサは団長の雑な説明に頭を抱えた。どこから持ってきたのか拡声器を取り出し、クラリッサは持ち上げた。


「ざっくりしすぎですよ、ちゃんと説明してください」


「ルールは相手が負けを宣告、観覧席の危害も即失格そして審判が戦闘不能と判断したときは勝者となります」


「まあ、そんな感じだ」


 クラリッサの助言というかほぼ説明に刻々とうなづいた。どうせならクラリッサが審判をした方がいいのではないかと誰もがよぎったがまた話が長くなりそうなのでスルーした。


 ティルはその戦い方を見て懐かしい気持ちになる。


(”遊び”みたいだな)


 獣人族のドミニクと父が遊んでいたことを思い出した。ノアはティルの様子に何かを感じ取ったのか話しかける。


「ティルも戦ってみたいの?」


「え…戦う? 僕なんて彼らと戦ったら数秒も持たないよ それに戦い方がなんか「遊び」みたいだなって」


 ティルの何気ないその一言にノアは口をふくまらせる。


「そんなことないよ ティルだったら大丈夫だよ」


「……ありがとう、ノア」


 二人の甘い雰囲気にクラリッサは思わず咳払いをして質問をした。


「こほん、……ティルくん、「遊び」というのは獣人族特有の戦闘ですよね」


「はい」


「彼らの戦闘が自らの身体を強化して獣化しますので……」


 その時、他の人が声をあげたのが聞こえた。何に驚いているのかというとオウガが片手に大きな斧を持っていたからである。


(ほう〜、なかなかの大きさだな)


 それを間近でみたヴィストリカもオウガを見直した。あの坊ちゃんの用心棒だが知らないが、なかなかいい武器を持っていることに関心する。


 武器は自分の心の具現化とも言われている。精神が不安定だと武器も精製できないことに等しい。


「斧ということは、お前はシルフー風の精霊と相性がいいな」


「ああ」


 団長の一言にオウガは返事した。


 精霊は武器によって比例する。斧は切り裂く、寸断するものと言えば五大精霊に当てはまるものとして風の精霊にあたる。


「それじゃあ、俺は武器を出そうかな」


 リントが手に持ったのは、オウガと比べられない小さな武器だった。


「ナイフ二本」


「俺はこれが一番戦いやすいんだよ」


 斧とナイフ二本、端から見れば滑稽である。ヘンリー一家は失笑しそうになったが、その横にいた伯爵は釘をさした。


「あれで戦いになるのですか?」


「武器はその心の具現化ーーどちらが強いか勝敗が決まれば分かることです」


「っ……、ええ その通りです 伯爵」


 笑みを崩さないようにするのがサマエルには精一杯だった。




「それじゃあーお互いに武器は揃ったな カウントしたら始める」


 ヴィストリカは双方に確認する。


「ああ」


「いいぞ」


 確認をとり、カウントを告げた。


「3・2・1  ーーGO」


 団長が声を上げた途端、二つの戦いが始まった。


 まずはオウガが斧を振り上げて襲いかかってきた。衝撃波が辺りに突風を起こし、キンと金属がぶつかり合う音が響き渡る。


「何だと……」


 オウガは目を見開いた。自分の攻撃をたった二本のナイフで受け止めていた。彼の驚く様子にリントは不適に笑った。


「はは、驚いたか お前 俺を見くびっていたのか」


「ああ、そうだな それじゃあ今、撤回する」


「そ、そうか」


 いささか彼の切り替えの良い返事に驚きながら、斧を払い距離をとった。


 オウガは武器に魔力を込めて、斧が光り輝く様子に、クラリッサはどれだけ魔力を込められているのか相手の本気度を知る。


「あれは、彼のナイフじゃ、受け止められませんね」


「ーーえ」


 クラリッサの重々しい呟きにティルは急激に不安になる。


(リントくん……)




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