第二十九話:名案
邂逅するオウガとリント。
オウガはリントを見てニヤリと口元に笑みを浮かべ話しかけた。
「随分といい面構えになったな」
リントはオウガを見て少し驚いたが、誰が仕組んだのは分かりきったことなのでさほど動揺は少なかった。
「……ああ、そこの坊ちゃんのおかげでな」
坊ちゃんと呼ばれたヘンリーはわかりやすいくらいびくりと肩を揺らした。
その様子にオウガは薄々気づいていたが、リントがヘンリーをいじめていたなど真っ赤な嘘であることを確信した。
(まあ、嘘でもどうでもいい 金さえもらえればな)
「退屈だったんだ、ずっと 部屋で寝ていたからな ーーなあ、俺と戦わないか?」
「!」
エレナはその言葉を聞いて止めようとする。
「何を言ってーー!」
けれど、それを止めたのはリントだった。
「へえ〜、それは面白そうだな」
リントは愉快そうに笑いがこみ上げる。
「何を言って……」
エレナは抗議しようとし、二人の間に緊迫した空気が流れた時だった。
「ウヴ〜んと、ちょっといいですか? ギルドの者がいるのに私的戦闘を行うとするのは」
ギルドの副団長であるクラリッサ・メルが鎮静化を図ろうとするがーー中断される。
「いいじゃないか、拳と拳のぶつかり合い」
二人の私闘を進めたのは上司でありヴィストリカ・マッケンだった。あまりの身勝手な言い分にクラリッサは叱責する。
「何を言っているのですか? 我々はギルドの一員でもあるんですよ 私的な戦闘行為は認められない限り厳罰に処せられるべきでーー」
「それじゃあ公的なものにすればいいんだろ」
クラリッサの言葉を聞きながら、ヴィストリカは提案を出し、雇い主である伯爵に話しかける。
「なあ、公的な戦闘を容認するには貴族の推薦が必要なんだよな それはお前でも大丈夫なのか?」
「何を言っているんですか……?!」
彼の言い様に注意してもいうことを聞かないヴィストリカを止められるのは伯爵しかいないと願うしかなかった。
(あなただけが頼りなんです……!)
だが、その願いは叶わずーー
「……ええ、そうですね 私が推薦しても構わないでしょ」
ゴーサインを出した気前のいい伯爵に、クラリッサはがくりと肩を落とした。
「リントくん」
ふと自分を呼ぶ声にリントは反応し目と目があった。
「ティル、ありがとな お前のおかげで助かった」
感謝の言葉にティルはおもむろに首をふった。
「いえ、僕は何にも……君の姿が見えないことにおかしいなと思ったので……君と友達になりたいと思っていたから」
「何だ、それだけか いいぜ、お前となら当然、友達になっても」
「本当ですか」
嬉しそうなティルに隣にいるノアは喜んだ。
「ティル、ここに来て初めての友達ができてよかったわね」
「はい」
「初めての友達、それは聞き捨てなりませんね」
その言葉に意義を唱えたのはセスだった。
「私の方がティルくんと出会うのは早かったですし、友達になりたいのですがよろしいでしょうか?」
「はい、それはもちろん」
友達が増えたことにティルは満面の笑みになる。その頭をわしゃわしゃと撫でられてティルは少し驚いた。
「おお、よかったな〜 ティル」
振り向くとそこにヴィストリカが立っていた。
「あれ?! あなたは確かマッケンさん!」
「おお、俺のことを覚えてくれたのか」
ぐしゃぐしゃと頭をティルの頭を撫で回す。
「はい、覚えてます」
「おお、そうか」
嬉しそうな表情にさらに頭を撫でてやろうとした時、隣から叱責が飛ぶ。
「ちょっと団長、そんなに撫で回したら首を痛めますよっ!」
ティルはその声でクラリッサの存在に気づいた。
「あれ、あなたは」
「はい、あの日以来ですね、まさか彼を助けにきた人物がティルくんとノアさんだったとは思いませんでした」
「僕もまさかこんなところで再会するとは思いませんでした」
話はひと段落し、晩餐会はお開きとなり、客人達は使用人が返すことになりリントとオウガはデュエルルームで戦うことになった。
初めての単語にティルとノアは首を傾げる。そのことにクラリッサは説明した。
「デュエルルームとはその魔法陣の中に入ると転送されて闘技場に到着します」
オウガとヘンリー一家、リントとティル達も転送された。転送された瞬間ティルは思わず目を瞑った。
「ティルくん、目を開けていいですよ」
クラリッサは目を開けるとそこは全く違う場所だった。
ティルは思わず辺りをキョロキョとを見回してしまう。それはノアも同じだった。
その姿があまりにも可愛くてティルは笑いかけた。
「ノア、面白しそうだね ここは」
「そうね こんなところもあるのね」
「これってどこかで見たことがあるような……」




