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第二十八話:セスの独壇場

 リントの殺気に怖気付いたサマエルは助けを呼ぼうといつも頼っている執事を呼ぶために使用人を呼びつけた。


「おい?! あいつはいつ戻ってくるんだ」


「申し訳ありません! 私達も探しているのですがどうにも」


「全く、あいつは何をしているんだ?!」


(……父上)


 半ギレのまま愚痴り余裕のない父親の様子に息子のヘンリーは焦りを感じていた。


(大丈夫、僕に両親から愛されているから大丈夫だ)


 まるで、自分に言い聞かせるように暗示をかけていたことが、すでにおかしくなっていたことにそれに気づく余裕がなかった。


 サマエルはとうとう我慢しきれなくなり、執事の名前を叫んだ。


「マーク! どこにいるんだ 主人の私が呼んでいるんだぞ」


 けれど返事は一向に返ってこなかった。代わりに一人の人物が声をあげた。


「僕なら知っていますよ」


 声の元を辿ると階段の上に一人の使用人の少年がいた。サマエルは執事の所在がわかり、少し安堵して彼に口を開く。


「どこにいるんだ?」


 彼は微笑みながら、何かを引きずりながらゆるりと階段を一つ一つ降りていく。苛立ちながらサマエルは緩慢な歩みに急ぐようにと言いかけたが、


「お前、もっと は…や……く」


 口が開いたまま叱責するのをやめたのは少年が『何か』を引きずっていることに気づく。


 ずるずると重いものを引きずっているのを見たサマエルは訝しむ。


「お前、何を……」


 それを『何か』を認識して瞬間目を開く。階段を降りてそれを何かを認識して、それを見ていた他の観衆達も何かを引きずっているのが分かってざわついた。


「あれ、人じゃない?」


 使用人の行為に周囲が動揺していてもお構いなしに、何事もないように微笑みながらグルグル巻きにした男のかを主人のサマエルに分かりやすいように見せる。


「お探しの使用人はこちらでしょうか?」



 そこにはぐったりと気を失っているマークがいた。呆然とする子爵は口元を慄かせながらセスに問いかける。


「お前がやったのか?……一体何をしたんだ?」


「うん? 単に眠ってもらっただけですよ あ〜もうすぐで目覚めると思いますが どうやってやられたかはこの人の沽券に関わるので言わない方がいいかもしれません」


 飄々と答えるセスに子爵は歯噛みする。


「おのれ……っ」


 思わぬ展開にヴィストリカはセスを見て一言。


「なんかあいつも一癖ありそうだな」


 クラリッサはこれ以上問題を増やさないでくれと頭を抱える。



 〇〇



 ホールがセシルもといセスの独壇場になっているとも知らず、オウガはヘンリーからもらった一室で横たわっていた。


 戦うことは好きだが、煌びやかなもの達が大勢いるところは苦手で人にじろじろと見られるのは性に合わなかった。


 欠伸を漏らしながら、オウガはふとヘンリーの策略にはまり、いまだ建物中に監禁されているリントのことを思い出した。


 最初は勝負を邪魔されて恨んでいたが、勝負に負けたら死んだも同然だ。


 オウガは幼い頃に父親をなくした。学園に入る前に母親は持病で病院に入っている。それから何とか父親の遺産や傭兵まがいの仕事で食いつぎながら生活をしていた。


『強くなって、もっと強くなって ーー俺は』


 ふと窓の方を見るホールから聞こえる音楽や客人達の話し声がピタリと止まったことに気づいた。


 そのことに違和感を感じたオウガはホールに向かった。


 

 〇〇



 ヘンリーはこれ以上ないほど焦りに駆られていた。頼みの綱である父親は息子が話しかけようとしても子爵の機嫌が収まる事はなかった。


「それで、お前はどうするんだ」


 ヘンリーはリントに話しかけられたことに返事をしたかった。無理をしているかけでもない。


自分が悪いことをしたのは分かり切っているから言葉が出てこないのだ。それよりも今の現状にどうするか怯えていた。


(どうする、どうすればいい こんな時に誰が……)


 それにはっとヘンリーは思い出した。そんな都合のいい者が一人いたことをーー


 エレナに危害を加えようとしたのは気に食わないが、何かの役に立つだろうと思っていた。ヘンリーは彼を呼んだ。


(オウガ……くん 聞こえるか 今どこにいる)


「うるせえな 聞こえているよ」


 ヘンリーは予想外に近くで聞こえたので驚いた。その声が何の前触れもなく現れたので周囲のもの達も驚く。


 オウガは欠伸を漏らしながら、階段から降りて行った。ヘンリーはオウガの出でたちに顔をしかめる。


「オウガくん、その格好は」


 彼の着ている服装は晩餐会に似つかわしくない格好だった。シャツをズボンの中に入れておらず先ほどまで寝ていためシワが寄っていた。


「俺がどの格好をしようが、お前には関係ないだろう」


 睨まれたヘンリーは口籠る。利益関係だけで、成り立っているオウガに彼の命令を聞く必要はない。


「それにしてもーーこれは一体どうなっているんだ」


 驚いたエレナはいきなり現れた目の前の知り合いである彼の名を告げた。


「オウガ・ローヴェン」


 聞き覚えのある声にオウガは気づき彼女を見る。


「エレナ・マリオット」


 エレナは思わぬ人物に眉をしかめる。


「どうしてあなたがここにいるのですか?」


 その言葉にオウガはぶっきらぼうに答える。


「どこにいようが、俺の勝手だろ」


 オウガはエレナの横にいる彼を見て瞠目し、そして面白そうに笑った。

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