第二十六話:来客
ヘンリー視点です。
ヘンリーはエレナが来るのを待っている間にメイドに部屋をセッティングしてもらい、今か今かと待ち構えていた。
そして待ちきれなくなったヘンリーは執事のマークを呼ぶように使用人に呼びかけて数分後戻ってきた。
「申し訳ありません、探しているのですがどこにも…」
「姿を見ていないとは、どういうことだ」
シワを寄せ待つのが退屈になったヘンリーは部屋から出て、いまだ客人たちがいるホールに戻ることにした。
(全くうちの執事はどこをほっつき歩いているのか)
胸中で愚痴りながらホールを歩くと人だかりができていた。なんだと思い見ると人々は注目になっている二人のワルツに見惚れて、次々とはけていきそして二人だけの舞踏会となっていた。
踊っている女性の姿を見たヘンリーは目を開く。
そこにはさっきまで待っていたエレナがいたからだ。彼女がいたことは嬉しくて呼びかけそうになったが、しかし、その相手の顔を見て一変する。
何故ならそこにいたらおかしい人物がいたからだ。
(どうして、……何でお前がーー!?)
独房の中に監禁されているはずのリントがいた。エレナの踊りの巧さと美しさに男性たちは頬を染めた。そして女性たちはーー
「ねえ、あの素敵な男性は誰かしら?」
「一緒に踊りたいわ」
リントに魅了されるお嬢様たちがヒソヒソと話し合う。そんな二人の姿を見たヘンリーは黙って見ていることなんてできなかった。
音楽が終わり、パチパチと拍手をする音がホールに反響する。その音を出したものが主催者の息子だと分かり、ヘンリーの邪魔にならないように道を開けた。
「いや〜、素敵な踊りだった」
ヘンリーが近づいてきたことにエレナは気づいて会釈をする。
「けれど、どうして君がいるんだい?」
ヘンリーはリントの方に視線を向けた。不愉快そうに見る彼にリントは目を細めた。
「どうしてとは、面白いことを言うな お前に監禁されていたことか? それとも卑怯なやり方で土地を買収したことか?」
その言葉は集まっていた周囲の人たちにも耳に届いていた。あまりにも不可解な言葉に困惑して動揺が走る。
「監禁ってどういうこと?」
「土地を買収って……?」
いきなり暴露されたヘンリーも動揺が走るがーー
(いや、まだ大丈夫だ、彼らは知らない)
そのことで冷静さを取り戻した。
「何を言うのかと思えば、そんな戯言、君は元気じゃないか?」
ヘンリーの反論に客人たちも耳を傾けるが、
「ああ、だけど、俺の記憶を【査問官】が見たら何て言うかな?」
「!」
査問官、そのものは不正や悪行を取り調べる専門のスペシャリストでもある。リントの説得力ある言葉に客人たちも気づき出してヘンリーの挙動を見つめる。
「ふ、何を言って……」
観衆に懐疑的な目で見られていることにヘンリーはドキリと焦りに駆られた時だった。
「おい、どうして音楽が止まっているんだ」
その声にヘンリーは嬉しそうに声を上げる。
「父上!」
主催者に気づき客人たちは道を開けた。
「うん? ヘンリーどうしたんだ? 元気のない表情をして」
「聞いてくださいっ…… あの少年が僕が監禁したと土地を買収したと嘘をいうんです」
「何…?!」
サマエル・フッドはリントを見て微かに目を見開いて驚きに満ちていた。サマエルがリントを監禁するように執事に指示をしたからだ。
(どういうことだ、リントは離れの独房の中にいたはずだ)
マークは何をしているんだと内心激昂するが、動揺を悟られないように声をあげた。
「そんなことを言うとはけしからん、使用人 彼を狼藉者を捕らえよ!」
命令された使用人たちはリントを捉えるために近寄ってきて、周囲を固めたその時だった。
使用人の一人がサマエルに近づいた。
「旦那様、急な来客が」
「今は忙しい! 後にして」
サマエルはイラつかせながら喋るが、使用人の焦る様子に訝しむ。
「それが、ご来客がヴィーノ・アルベール伯爵らしく……」
「!」
無視できないその名前にサマエルは口を閉じ逡巡する。
(ヴィーノ・アルベール伯爵)
フッド子爵家よりも爵位が高く学園長とも懇意にしている。交流を深めるには絶好の機会だと招待するように言った。
客人たちもその名前を聞いて浮き足立った時、話題の人物が現れ、三人の人物に驚いた。
黒髪に7:3分けした男性はサマエルの前まで進み出る。
「突然で申し訳ありません、家で退屈していたところ今日はフッド家でパーティーを催していることを聞いて参加させていただきましたがよろしかったでしょうか?
「いえいえ、驚きましたが、あなたなら喜んで光栄です」
ニコニコと笑いながらゴマをするような仕草にそばで見ていたエレナとリントは睥睨した。
ヴィーノの後ろに控えていた大柄な男が声を上げる。
「お〜い、ヴィーノ 酒ってどこにあるんだ?」
「ちょっと団長、主人に向かってなんて口の聞き方を」
「固いな、クラリッサは」
伯爵の登場にも驚いたが、客人たちは彼らの姿にも驚いた。そこにはクランの騎士の鉄拳の団長ヴィストリカ・マッケンと副団長のクラリッサ・メルがいた。




