第二十三話:意外な一面
少し時間は遡る。
セス・ラヴァートはティルとノアの別行動をすることになり、舞踏会で着るような服ではなく使用人が着るような服装に身を包んでいる。
黒のチョッキとズボンとネクタイを着込んだのは屋敷をうろうろしていても、目立たないようにするためである。
そして後から来るようにと決めたのは観衆の目を欺くためでもある。わざわざ目につく行動をしたら作戦が台無しになるからである
エレナに雇われた使用人としてやってきたセスは屋敷で執事を担当している男性に挨拶をする。
「はじめまして、マークと申します 今日はよろしくお願いします」
「はい、セシルと申します ご迷惑にならないように頑張ります」
セシルは手を差し出して、握手を求めた。そしてマークは手を受け取り、手を握り返した。
その時セシル、ーーセスはマークから感じていた違和感が確信に変わる。
(やっぱり、そうだ)
それはセスが少し前に能力で見た映像だった。
手紙から読み取った時の声のマイケルに酷似をしている、あるいは一致していることを、握手した時に重なった。
まさか相手も握手をした時に情報を抜き取られていることを思わないだろう。
わずか数秒でここ数日の記憶をみたセスは屋敷の全体図とどこに警備されたスタッフを配置しているのか把握した。
屋敷の雑用を取り仕切る執事のマークから色々と知っていたので手間が省けた。
(リントは別棟の地下一階に捕まっているのか)
リントの居場所が判明したセスは新しい情報を待っているエレナの元に向かった。
〇〇
一方、エレナは退屈していた。
笑みを絶やさずにヘンリーとヘンリーの両親と話をしていた。主にサマエルとフランシスが矢継ぎ早に質問される。
「住まいはどこかなのか?」
「父親と母親はどんな人物か」
興味津々な目つきにエレナは口元が引きつりそうになったが、グッと堪えた。
(いつまでも笑っているのは疲れる)
思いっきりため息をつきたいところだが、そばにヘンリーがいるため休む暇などなく気持ちを切り替えるために質問に答えた。
「…私の父は村長で母は普通の平民で、実家は農家でここよりずっと田舎です。後から来る使用人も幼なじみの関係です」
「あら、そうなの」
エレナからそういうと、素っ気なく態度に表し期待していたフランシスは扇で口元を隠し、残念そうに眉を下げた。
「でもお金がなくてもうちには金があるから問題ないわね」
夫のサマエルに相槌をうったフランシスだが、
「うん…? ああ そうだな」
ヘンリーは父親に話しかける。
「父上ーー彼女を屋敷の中を案内しようと思うのですが」
「ああいいぞ、ちゃんと案内しなさい」
「はい」
元気よく返事をしたヘンリーはエレナを連れて行った。その二人の姿にフランシスは微笑ましく見ていた。
「ふふ、なかなかお似合いね 親が貴族じゃないのは残念だけど、あれだけの美貌を持っていたらーーあなた、聞いている?」
「うん、ああ?」
さっきから生返事ばかりなのでフランシスは訝しんだ。
「何か気になることでもあるの?」
「うむ、あのエレナって娘 どこかで見たことがあるような……」
心許なくサマエルは呟き、結局どこで見たか思い出せなかった。
エレナはヘンリーに連れられて屋敷まで歩いて行った。ここに来るまでに他愛ない話、聞いてもいないフッド子爵家の歴史や自分の自慢話にエレナは辟易していた。
適当な相槌を打ちながら、それを限界を迎えていた時だった。
一人の使用人の格好をした男性が声をかけてきた。
「お話中に申し訳ありません」
「セ……シル、どうしました?」
「エレナさん、彼は?」
初めて見る使用人に目を開く。
「彼が先ほど行った私の幼なじみのセシルです。どうぞ、よろしくお願いします」
セシルは一例して挨拶をした。
「セシルと申します、よろしくお願いいたします ヘンリー様」
丁寧に挨拶されてヘンリーは心よくうなづいた。そしてエレナはセシルに話しかけた。
「どうしてここに?」
「二人の友人がエレナさんを探しているみたいで」
「ティルくんとノアさんが、 わかりました …すみません、少し戻ってもいいですか?」
「はい、わかりました 僕は奥の方で待っていますね」
エレナはヘンリーに一礼して、セシルはそれに習い元きた道を戻っていった。彼女は隣の幼なじみという設定の少年に声をかけた。
「セシルさん、 用事は済ませましたか?」
「はい、エレナお嬢様」
その呼び方にエレナは立ち止まる。
「そのお嬢様というのはやめてくれませんか」
違和感ある呼ばれ方にエレナは止めさせようとするが、セスは小声で話した。
「どこで誰が聞いているか分かりませんからね、表にいるときはこの呼び方の方がいいでしょう」
「確かに……」
(こうゆうことに慣れている…?)
エレナはセスと出会ってまださほど時間が経っていない。外見では真面目そうな服装だが、大胆な計画を企てたことに驚いた。ランクは低いが油断ならない相手だと感じた。
「それに」
今度は何をするんだと身構えたが、
「やるなら完璧にやりたいですし、一度お嬢様って言ってみたかったんですよね」
抑揚の無いセスの予想外の言葉にエレナはガクリと力が抜けた。
本当にそれがしたかったのか、本気で疑う。けれど今から決行することになり気が抜けている場合ではないとエレナは気持ちを切り替えた。




