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第二十二話:注目の的

ヘンリー視点からティル視点です。

 フッド子爵家の成り立ちは学園都市と呼ばれる前まで遡るほど歴史が古い。商人としての才能があったフッドは交易などで財を築き上げて、その才能は子孫へと受け継がれることも稀ではない。


 親から子へと手ほどきを教えて貰えば、当然身につく者であり現当主のサマエル・フッドもまた父から商人として才に一つ抜きんでいたものがあり、貴族として名を馳せている。


 貴族としてのネームバリューがあるものから招待状が来たら、名誉なことで豪華絢爛な晩餐会へと招かれる。


 そして、今宵盛大に行われる晩餐会にはフッド子爵が自分の息子を喜ばせるために所縁のあるもの達も招待した。


 ヘンリーは両親の計らいにとても喜んだ。


「お父様、お母様 こんなに呼んでいただいてありがとうございます」


「ふふ、久方ぶりね ヘンリーのお願いだものね、あなた」


 妻、フランシスは夫のサマエルに話しかける。


「ああ、ヘンリーがもっと甘えてもいいんだぞ」


「そんな?! これだけで十分満足です」


 ヘンリーは慌てて嬉しそうに答えた。


 子爵家は貿易に盛んな商人の家にため、商人の娘達も競って、みな着飾り、子爵の地位を持つフッド家の嫁になりたい女の子は少なくなかった。


「ヘンリー様はどなたか意中の相手はいますか?」


「どんなタイプがお好みですか?」



「僕はーー」



 と言いかけた時だった。周りの人々が一気にざわつきだした。なんだと思い玄関の方を見ると待ちわびていた人物が到着したことにヘンリーはその美しさに我を忘れる。


「ーー! 少し失礼…っ」


「え? ヘンリー様?!」


 立ち去るヘンリーを女の子達は呼び止めようとするが彼はもう彼女しか視界に入らなかった。女の子達は現れた自分よりも容姿端麗な姫君に呆然とする。


「あれ誰よ」


「悔しいけどすごく綺麗?!」


 女の子達は悔しがりながらも彼女の美しさを称賛する。いつもは結んでいない金髪を高く結んでいる。


 服装は普段は露出をしない服装をきっちりと着込んでいるのが、スリットから見える足元のセクシーさと他は露出は控えめなのが、それが逆に上品さを醸し出しているエレナはヘンリーに気づいて会釈をした。


 ヘンリーはそれが嬉しくてエレナに声をかけた。


「エレナさん」


 注目の的だった美姫にフッド子爵の息子が一声かけたことにざわついた。


「あれは、一体どこの令嬢かしら?」


「なんて綺麗なお嬢さんかしら」


「ヘンリー様とどうゆう御関係なのだ?」


 皆が褒めちぎるのを聞き耳を立てながら、ヘンリーは歩くのを弾むように近寄った。エレナはお辞儀をした。


「ヘンリーさん、今宵はこのような場にお招きいただいてありがとうございます」


「来ていただいて、嬉しいです 今日は楽しんでください」


 ヘンリーは手の甲にキスをする仕草にエレナは口元に笑みを浮かべた返事をした。


「はい、あの今日は私の友達も連れてきたのですが、よろしかったでしょうか」


「ええ、もちろんいいですよ」




 今まで注目されていたのはエレナだったが、彼女が呼び物陰から二人の人物が現れて注目を受ける。


 二人のうち一人は亜麻色の髪の少年だった。メガネをかけてやや頼りげそうに見えるが、もう一人いる可憐な女の子をエスコートする姿は妙に様になっており、商人の娘達は少し騒いだ。


 女の子はふんわりとした長い黒髪を二つに結び。エレナが黒いマーメイドドレスなら、ノアはは白いフリルのついた可愛らしいドレス姿である。


 エレナはヘンリーに二人を紹介した。


「少年の方が、ティルくんで女の子の方がノアさんです……あと一人くるのですが、ちょっと用事があるみたいで遅れるそうです」


「そうですか、分かりました」


 紹介がひと段落終わった絶妙なタイミングで話しかけてきたのはヘンリーの両親だった。


「ヘンリー、どこに行ったかと思えば、あら? 可愛らしいお嬢様だこと」


 目があった夫人はエレナに挨拶をする。


「ヘンリーさんにお招きしていただいたエレナと申します」


「まあ、ヘンリーが」


 嬉しそうにフランシスは顔を綻ばせる。


「ふふ、息子も隅に置けないわね」


 旦那のサマエルは喜しそうに口を開いた。


「こんなにも綺麗なお嬢さんを招待するのだからちゃんとエスコートしなさい」


「はい、父さん」



 〇〇



 それから時が流れ晩餐会は舞踏会へと変貌する。


 ホールには男女で踊る人たちが続々と現れて素敵な音楽を楽しみながら、また誰と踊ろうかと観察する者もいる。意中の女性を狙い男性達がこぞって争うもの達もいた。


 ノアはそんな光景を見ながら口を開く。


「は〜、なんだかすごい世界ね」


「はは、まあ こんなものだよ」


 的をいた一言にティルは苦笑いしながら肯定するとノアが手を引いた。


「折角だし、踊ろう」


「うん、そうだね」


 ティルはノアの手を引いて、ホールに出た。


「そういえば私、踊りとかやったことがないんだった」


 ホールに出て今更すぎる言葉にティルは微笑んだ。


「ふふ、僕が少し踊りを教えてもらったことがあるから」


「そうなの? それじゃまかせる」


 ティルはカリーナの家に居候していた時家庭教師から教えてもらったことがある。それと自分がカストールと呼ばれていた頃、ダンスも身に付けていた。


「とにかく僕の言ったことを真似てみて


「1・2・3」


「1・2・3」


「2のリズムでしっかりとステップを踏むんだ」


 その時に少しゆっくりめに意識をしながら上にしっかりと引き上げつつ、ステップを踏んでいく。


 何回か同じステップを踏んでいくと少し華やかな音楽へと曲調が変わる。


「ノア、楽しい?」


「うん、楽しいわ」



 ティルとノアはお互いを見つめながら、軽やかに笑い合う。あまりにも二人が楽しそうに踊る姿に観客達は魅了される。


「なんて可愛らしい二人なのかしら」


「女の子は踊りが苦手そうだけど、彼がちゃんとリードしているのね」


 踊っている人たちも二人の魅力に惹き込まれチラチラと見る者も少なくない。踊り終えたティルとノアはホールから自然と掃けて行き、一旦休憩することにした。


「少し、水分補給しようか」


「うん」


 ティルが飲み物を取りにいこうとした時だった。


「あの…お飲み物をどうぞ」


 そこには花柄のドレスを着た一人の少女が立っていた。その子は飲み物が入った二つのグラスを差し出した。


「えっと、僕たち二人に?」


 ティルが話しかけると少女は恥ずかしそうにうなづいた。折角の好意にティルは二つグラスを受け取った。


「ありがとう」


「お二人とも、すごく素敵でした。……あの、なので……私と」


 そこでようやく、女の子が近づいたのか気づいたノアは気を利かせようとするが、ティルは何を行っているのかわからない女の子に首を傾げている。


(もう、鈍いんだがら)


 ノアはティルの袖を引いて小声でささやく。


「その子、ティルと踊りたいんじゃない」


 遠回しに言っても気付かなさそうなので、率直に話た。


「え、そうなんですか ……えと、僕でよかったら」


 ティルは女の子に手を差し伸べると、女の子は恥ずかしそうに手をとりホールに向かった。


 そして手持ち無沙汰になったノアも男性から声をかけられて少し付き合うことにした。


(まあ、セスがリントを探すまでだしね)


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