第十八話:孤軍奮闘
リント視点が続きます。
その果たし状はすぐにマイケルーーマークの元に届いた。
主人であるサマエル・フッドに伝えると『完膚なきまでに叩きのめすよに』と言われ、マークは主人の命令のもと実行した。待ち合わせ時間をと場所を指定し、手紙を送り返した。
リントは手紙を受け取り、時間と場所を見てそれまでは怪しまれないために普段通りに過ごした。
場所は地下の貸し切りができる闘技場で時間は夜中になっていた。明らかに罠である可能性が高いとわかっていた、けれど逃げるわけにはいかない。
リントは覚悟を胸に寮を抜け出して闘技場に赴いた。
学園都市はいろんな建物で埋め尽くされているので大きなスペースがない。なので地下に作ることは少なくなかった。その内の一つをマークは貸し切ることは容易だった。
地下の入り口から、入ると広い空間にポツリと一人の男性が立っていた。
マクベスの証言通り、その男はスーツ姿を着ていたのでこの男がマイケルかとリントかと察した。
「あんたが、マイケルさん?」
「…はい、その通りです こんな所にわざわざお越し頂いて申し訳ありません」
わざとらしい所作と薄気味悪い笑みと口調にリントは寒々しさを感じた。
「それで、私にデュエルを申し込みたいとのことですが、それは私じゃなくても大丈夫でしょうか?」
「うん? ……ああ、いいよ 条件を守ってくれたらね」
「条件…私の方が負けたら、あの医院から手を引くということですね」
「ああ、分かりやすいだろ?」
リントの挑発する物言いに、マイケルは口元に笑みを浮かべた。
「はい……では、早速始めましょう」
その言葉とともに物陰から隠れていた者たちが現れる。五人の一人が前に出てマイケルに話しかけた。
「マイケル様、あの小僧をボコボコにすれば報酬をたんまりともらえるんですよね」
「ええ、あなた達が勝てば」
「分かりました、こんな小僧には人生の厳しさを教えてやるぞ」
マイケルと同業者とは思えない乱暴な口調に武装された姿と金を欲しがることにリントは彼らの正体を推測する。
「お前たち、傭兵か?」
「ああ、そうさ 俺たち傭兵は金さえあれば何でもするぜ…かわいそうだが、俺たちもこれで生きているからな 悪いな」
建前とは言え、敵に情けをかけられるとは予想外で勢いを削がれたリントは吹き出した。
「は……ははは」
傭兵たちはリントが緊張が切れて気が触れたのかと思った。
「おいおい、坊や大丈夫かよ」
「ふふ、かわいいわね」
「可哀想にな」
二人は笑っていたが、一人は笑っていなかった。誰も前に出ないことに焦れた一人の男が出て、リントに決闘を申し込んだ。
「俺がさっさと片付けて終わらせてやるよ」
慣れた手つきで自分の武器を掴み取り、ナイフ使いはリントに突進した。傭兵の内二人はリントがナイフによって切り裂かれる想像をした。
しかし、ナイフ使いはリントを切り刻むこともなく気を失い地面を伏せたのだ。
急転直下。
何が起こったのか分からないくらい誰もが口を聞けずに静寂に包まれた。
最初に口を開いたのは女性の傭兵だった。
「ちょっと、一体何をやったのよ あんた?!」
「何って、眠ってもらっただけだ」
平然と宣うリントに女性は一瞬怖気ついたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「へ、へえ、やるじゃないかっ 今度は私が相手をしてあげる。何をしたか分からないけど、どうやらあんたは接近戦が上手いようね それじゃあ、これならどう?」
「!」
女性のローブに隠れていた武器を取り出した。彼女は鞭を手にとった。
「これで、あんたをいたぶってあげるわ」
女は鞭をしなやかに操り伸びていった。
「あたしの鞭は伸縮自在よ」
オホホと高笑いしながら、リントを追い詰めていく。女が読んだ通りにリントは接近戦の方が戦いやすいのは本当だった。
しかし、戦い方を変えれば別である。
しなる鞭は石の床をえぐるほどの衝撃で、当たれば無事ではすまない。けど止めるには鞭を動かす人物をどうにかするしかない。あるいはーー
リントはじっと観察していると鞭の動きに目が慣れてきた。
(あれ、もしかしたら これ……)
防戦一方のリントに女性は鞭に魔力を注ぎ自分の必殺技で留めにかかる。
「それじゃ、これでおしまいよ 坊や! 風の精霊よ! 敵を噛み切り刻め 蛇の牙」
強烈な一撃がリントに襲いかかり、風属性の帯びたしなる鞭が床に激突し粉塵が広く舞い上がる。女は必殺技が決まりとどめを刺したという感触に喜んだ。そして自分の鞭を元に戻そうとした時だった。
ぐんと引っ張られるような感覚に、首を傾げる。
(何よ、これ?)
女性はどこかに引っ掛かったのか、引っ張り上げようとしてもピクリとも動かない。何故だろうと女性が困惑していた時だった。
「いや〜、なかなか凄かったぜ」
「??!」
軽快な声が鼓膜に響き、女性はその声に驚愕した。
「……なんで? さっき倒したはず?!」
粉塵が収まり、視界がクリアになった時それは判明する。それがどうしてなのか分かり女性は動揺する。
女性の鞭が元の長さに戻らなかったのは、リントが素手で鞭を握っていたからだった。




