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第十五話:その正体は

続いてクリストファー視点です。

 商会ギルドを出たクリストファーはお金を日用品を蓄えに南街に寄った。


 そこで大人買いをして東街にクリストファー所有の倉庫に翌日配送するようにした。


 大きい物などを送りたいときは、移動したいときは魔法陣を配置していると便利である。受付の人から荷物の配送が完了したと告げられれると料金を出して、南街を出て東街に向かった。


 東街を歩いている道中、彼はするりと裏路地に入った。中央通りは人が多いが、一歩奥まった路地に入ると人がまばらになり、もっと入り組んだとこに行くと人の気配はほぼない。


 建物の影に隠れるように闇に紛れた彼は偽りの姿を取り去った。黒髪から銀髪に、瞳は緑色から鮮やかな黄色に染まる。そして、色白な肌は褐色の肌になった。人と接するよ時の敬語からガラリと口調を変える。


「いつも変装するの大変だな〜 まあ、しょうがないよな」




 クリストファーの変装を解きーー本来の姿になったリントはやっと気が抜けると背伸びをした。




 商会ギルドはセキュリティのため、姿を偽って入ると警報が鳴るように仕組みがあるのだが、なんなら自分で化粧をして入る分には問題ないのか確かめた時はいちかばちかの博打でありそれが功を奏した。バレないのならとこの変装も気に入っている。


「さてと、チビ達の荷物を運ばねえとな」


 そう言いながら、リントは倉庫にある荷物を手押し車に運んで押しながらある場所に向かった。


 そこは東街の小さな医院だった。そして親がいない子供のために孤児院も兼ねている。


 リントが手押し車で運んでいるのを丁度、外で遊んでいた子供達がいて彼の存在に気づいた女の子がいた。


「あ、リント!」


「え、リント兄ちゃん」


 みんな女の子の掛け声でゾロゾロと気づき近寄ってきた。リントは止まり、子供達に挨拶した。


「よ〜、元気だったか お前ら」


「うん、元気だよ」


 一番最初にリントが気づいた女の子ミアは活発でハキハキとした性格である。次に話しかけてきたのは恥ずかしそうに喋る女の子だ。


「リント兄ちゃんは元気だった?」


「おお、元気だったぜ」


 そういうとエミリーは嬉しそうに笑顔になる。


「悪いが、誰か院長を連れてきてくれないか?」


「分かりました」


「悪いな、レイシー」


 コクリとうなづいた落ち着いた女の子レイシーは建物の中に消えた。リントは手押し車を再度押そうとしたときだった。


「リント!」


 彼の名前を叫び後方から飛びついてきた男の子がいた。そんなことをするのは一人しかいないので、後ろを振り返らなくてもわかった。


「おわ?! アラン お前、大きくなったな」


「へへ」


 アランは嬉しそうにリントに抱きついた。それを羨ましそうに男の子のエイジは自分もとせがんだ。


「いきなり飛びついたら危ないよ」


 心配性な男の子ジョシュアはアランに注意したが、本人は全く聞いていない様子にため息をつく。


 一人はしゃいでいるアランにミアは怒る。リントが来たときにおんぶをしてもらう約束をしていたのだが、自分よりも先に横取りされたアランに腹を立てた。


「ちょっと、今日は私の番でしょ?!」


「え〜、そうだったか」


 いかにも馬鹿にした態度にミアは怒り心頭で、引きずりおろそうと手を動かそうとしたときだった。


「こらこら、喧嘩はよくありません」


「院長先生」


 鶴の一声によって険悪な空気は霧散した。院長と呼ばれた女性の隣にはレイシーが立っていた。ぼそりと喋るのは彼女のくせである。


「喧嘩はよくない」


「でも、アランが」


「…アラン、ミアに譲って」


 アランはレイシーの視線から後ろめたく逸らし、無言の抵抗に負けとうとう折れた。アランは渋々とリントの背中からおりミアに譲った。


「ふふ、両手に花どころじゃないわね」


 頬杖をついて困る息子の様子に院長であり、リントの産みの母であるはイザベラ笑った。


「母さん、笑い事じゃないだけど」


「今日もお疲れ様、いつも荷物を運んでくれてありがとうね」


 母の労いにリントは朗らかに笑った。


「これくらいの量、一人でも平気だよ 体だけは丈夫だからな」


 ミアを背負っていても大人買いをした手押し車を50メートル引いても汗一つ掻いていない。身体強化の魔法をかけているわけではなく、生まれつきの身体能力だった。


 それに嬉しそうにイザベラは綻ばせた。


「ふふ、お父さんの子供ね」


 リントは自分の父を知らない。父親が人間ではなく獣人族だということを教えてもらったので自分がハーフという事はわかっている。


 体を硬質化したり、身軽になったりできるのは便利だと思っている。リントの母のイザベラが勤めている医院長に挨拶しようと部屋に向かった。


 母が孤児院の院長をしており、この医院の医院長あるいは先生と呼ばれている。


 そこには医院長のマクベス・アンダーソンがいた。彼はこのアンダーソン医院の院長であり、孤児院を経営しているすごい人なのだが、一つある難点があった。


「あ、リントくん いらっしゃい……っ」


 マクベスの書類の作業をしていた。ヨレヨレの白衣にしわがあるシャツにズボンを履いている男性のマクベスが、リントの来訪に気づき立ち上がろうとして駆け寄ろうとしたときだった。


 何もないのにマクベスは、つまづき転びそうになった。地面に顔面を強打する前にリントは並外れた運動神経で彼を受け止めた。


「大丈夫ですか?」


「おっと……っ ごめんね リントくん! 折角来てくれたからお茶でも飲んでおくといいよ」


 マクベスは笑いながら、キッチンのある方に行こうとしたのをリントは止めた。


「分かった 俺が入れるからあんたはそこでじっとしていてくれ」


「え、でも」


 リントは釘を押すように話した。


「いいな」


「…はい」


 何も知らない人が見たら、どっちが年上なのか分からなくなるだろう。大人しくマクベスに座り、手際良くポットにティーパックを入れてお茶を差し出した。


「ありがとう、リントくん」


 マクベスは申し訳なさそうに頭を掻いた。職業は立派なことをしているのだが、天才的なドジをする欠点があった。けれどそれでもリントはマクベスに大きな恩を感じていた。


「気をつけてくれよ、マクベスさん」


 リントの母、イザベラは元々この学園都市の生まれではなかった。


 旦那を亡くし、リントがまだお腹の中にいたときに学園都市に移り住んだことを聞いた。そして子供が大きくなる前に仕事をしようと面接をするが、身重な彼女を雇ってくれるところはなかなか難しかった。


 看護師の資格を持っているイザベラだったが、推薦状や紹介状がないと面接を受けても受かる可能性は低かった。


 路頭に迷っていたいたところ、最後の頼みに綱として訪れたのがこの医院だった。


 マクベスは快く受け入れて、イザベラは数ヶ月後に男の子を産んだ。それがリントである。


 リントはマクベスの世話を焼くのも喜んで受け入れた。ーー少しでも恩返しをしたかったから


 それからリントはマクベスとイザベラと子供達に別れを告げて今の居場所である学園に帰っていった。


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