第十四話:美貌の商人クリストファー・ポーロ
クリストファーが持ってきた籠の中にはきれいに宝石や銀のアクセサリーなどが並べられていた。
「鑑定の方をお呼びしますね、少々お待ちください」
二回は全個室となっており、受付に案内されないと上がることができない。盗聴されないように魔法が作動してあるほど重厚に造られてている。
シルヴェは頬を緩ませながら、クリストファーを案内しようとするとガシリと肩を掴まれた。掴んできたのは同じ仕事場で働く同僚や後輩たちだった。
「先輩、後生ですから代わっていただけませんか?」
後輩であるゾーイから涙目でお願いされるが、首を振る。
「代わりません、仕事は最後までしないとお客様に失礼ですよ」
「……は〜い」
お店の中で優先されるのは利用者であるお客様に対して失礼の内容に接客する事は大切である。やむ得ない事情があるならともかく、私情を持つ混むなど言語同断であった。
最もなことを言われたゾーイは口を窄めて、クリストファーを案内するシルヴェを見送った。それを側から見ていたもう一人の受付のグレースはゾーイに話しかけた。
「残念だったわね、上玉が逃げて」
「グレース先輩、そうですよ〜 この前は私が担当だったのに超残念です」
しょんぼりとするゾーイにグレースは同意したようにうなづくことに彼女は不思議がる。
「あれ? グレース先輩ってイケメン大好きでしたっけ」
「うん? ああ、イケメンは好きだけど、彼がどれだけこれを持っているか大いに興味がある」
グレースは親指と人差し指で輪を作るポーズに、ゾーイはすぐに察した。
「ああ、お金ですね 確かにこの前残高を見ましたけど信じられないですよね」
「商会ギルドお抱えの鑑定士に見て貰えば箔が付くし、その分値段がグッと上がるでしょうね」
そのことに羨ましそうにゾーイはつぶやく。
「今日はシルヴェ先輩に奢ってもらいましょう」
「私もそう思ったわ 格安で飲み放題で飲めるところ探しておくわ」
そんな話をされているとは知らずにシルヴェはまるで雲の上を歩いているようなふわふわとした夢心地になりながら後ろの麗わしの商人を案内をする。
「こちらで少々おまちください」
シルヴェは退室し、仕事場に戻るとグレースとゾーイの二人から笑顔を向けられて不思議そうに首を傾げた。
「先輩、今日はよかったですね」
「ええ、そうね また話せるし」
案内をした受付が対応することになっているので今か今かと楽しみにしていた。
換金は物を売って現金を換えることをいう。それを鑑定に見てもらって値打ちしてもらう仕組みである。
彼がいる部屋をノックして中に入ったのは60代の男性である。
「お〜、これは、これは クリストファー様 お待たせしました」
「今日もよろしくお願いします」
クリストファーはお辞儀をして、籠に入っていた棚から取り出して、丁寧にテーブルの上に広げた。
そこには宝石やら銀の装飾品などが入っていた。純度の高いものほど高く売れる。混ざりもののレプリカは安い。鑑定士は早速クリストファーの所持品を査定した。
「ふむふむ、これはまた見事な細工と純度の高さですね」
鑑定士が持ってきた仕事道具の接眼レンズをかざし、クリストファーの持ってきた装飾品を賞賛する。
その言葉に彼は嬉しそうに喜んだ。
「ありがとうございます、どのくらい値打ちをつけてもらえるでしょうか」
「これなら一つ数十万円するでしょう 純度が高ければ、魔道具の代用となりますし」
鑑定士は一つ一つ丁寧に査定し、鑑定士に計算してもらいクリストファーは確認してそれにうなづいた。
「それにしてもこんなに道具を作る腕のものがいるとは、よほどの腕をお持ちの職人を抱えているのですね」
鑑定士は言外にその道具を作る技術者とお近づきになりたいと遠回しに申し出た。クリストファーは振り返りざまに口に指を当て、呟いた。
「秘密です」
鑑定士はガックリと落胆した。その様子にクリストファーはほくそ笑みながら受付に戻り、先ほど対応したシルヴェがクリストファーに気づいた。
「鑑識は終わりましたか?」
「はい、無事に終わりました これが鑑定書です」
「かしこまりました、少々お待ちください」
シルヴェはテキパキと事務処理をこなし、クリストファーに商会券を渡した。この商会券があれば限度額まで商品を買うことができて、セキュリティもバッチリである。
「ありがとうございました、またのご利用をお待ちしています」
(ええ〜、もう帰っちゃうの、今すぐ帰ってきてくれないかしら)
シルヴェは満面の笑顔で挨拶しながらクリストファーの姿が見えなくなるまで見送った。彼がいなくなると潮が引いたように日常に戻りため息をついた。そんな同輩の肩を優しく叩いた。
「シルヴェ、今日はとことん飲もう」
「グレース、ええそうね」
まさかおごられるとは知らずにまんまと口車に載せられたシルヴェで、普段の鬱憤や愚痴などを聞いて、今度は彼女たちにも対応させようと思ったのだった。




