第六話:騎士の鉄拳
正式名称はギルド労働組合連合会、通称はギルド連合でありシモン共和国にある超巨大組織団体である。
人員は数万人にも及び、種族はフリーで制限は特に無い。
設立された理由は二つの大国アウレリアヌス帝国とラシーヤ連邦の対抗抑止力・防衛のため、また凶悪な犯罪者を捕縛・処理をすること。
治安維持もかねていて、他の種族の手では手に負えない事件などの依頼・仲立ちなどを引き受ける
ギルドの受付係は任務にいかないため簡単な仕事と思われがちだが、どんな仕事も楽な仕事はない。仕事内容はギルドに登録するものを受け付けて依頼してくるものもいる。
それを説明するのに分かりやすく事細かく書類などの作業をしないといけないので大変な仕事である。
受付は男性もいれば女性もいる。疲労や体調を崩さないようにシフトで決まっているのだが、ほぼ毎日勤務している兄妹がいた。
兄の方はカルア・オースティン。かつては白皙の美少年と言われていたが、ある人に惚れて様変わり、己を磨きに研鑽を積み、儚げさはどこへやら力を求めた彼は筋骨隆々な肉体と乙女の心を手に入れてから男性から煙たい目で見られるようになったが、女性からは話を聞いてくれると好評である。
妹のミルカ・オースティンはかつてのカルアとは違ったタイプの美少女で、キリッとした目つきと髪はきっちりと揃えている。
話すのは苦手だが、仕事の内容はきっちりと答えるので問題はなく、優秀に受付の仕事をこなしている。今日も受付として受付の仕事をしているとギルドの一団が遠征から帰って来た。
ミルカは労いの言葉をかけた。
「お帰りなさいませ、クランの「騎士の鉄拳」様」
クランとは、同じ志を持った仲間や集団のことを指す。
「ただいま、帰りました 任務は無事に終わりました」
丁寧な口調で挨拶したのは「騎士の鉄拳」の副団長のメル・クラリッサである。
温厚で聡明な彼なのだが唯一の悩みの種がある。
「おお〜、ミルカちゃん、今、帰ったぜ」
「おかえりなさいませ、騎士の鉄拳・団長のヴィストリカ・マッケン殿」
「名前だけでいいって」
がははと豪快に笑う大柄な男は、性格も豪快磊落である。そんな彼に副団長のメルは冷たい視線を向けて口を開く。
「商人を護衛する任務は終わりましたが、このバカ…団長が盗賊を倒した時に荷物ごと吹き飛ばしたので、報酬でそこから弁償します」
「分かりました」
「ちょっと吹き飛ばしたぐらいいいじゃないか」
副団長のきつい物言いに団長はすねた言い方をする。無責任な言い草にメルの癇に障る。
「ちょっとで荷物はバラバラになりません。少しは加減を覚えてください この筋肉バカ」
段々と口調が強くなるのを誰も止めるものがいないのは、口で勝てるものがいないからだ。遠目から観察するのは自分に飛び火がかからないためでもある。
「お〜、また二人の喧嘩が始まったぞ」
「喧嘩というか一方的に副団長が言っているだけじゃないか?」
副団長の一方的な説教はクランのメンバーはもう日常茶飯事なので、腹を満たすためにギルド内にある食堂に向かった。
けれどそんな中、食堂ではなく真っ直ぐにミルカに近寄った少年がいた。
「ミルカさん、僕と一緒にお茶しませんか?」
近づいてきた少年にミルカは機械のように答えた。
「今は仕事中です」
「それじゃあ、仕事が終わってから…」
彼の名はジョン・エバンス。ギルドの団員であり、戦闘スタイルは拳闘士である。
「あいつ、相変わらずめげないな」
「あんなにすげなくされているのに」
ミルカは事務的に答えていると、ギルドの入り口に一人の少女と女性が入って来た。親子だろうかと推察する。少し緊張しながら口を開いた。
「あの、すみません 依頼の受付はこちらで大丈夫でしょうか」
「はい、こちらで受付ます」
ミルカは優しく声をかけた。ジョンもミルカの仕事の邪魔をしないように後ろに下がった。
「依頼の受付はなんでしょう」
「人を探しているのですが、この子が人攫いからさらわれそうになった時に、ある少年から助けてもらったみたいで」
「娘を匿ってくれたお店の人から聞いたのですが、なかなか見つけることができなくて、何かに巻き込まれてないといいのですが」
女性が持って来た人相書きにミルカは見てハッとする。丸眼鏡に髪を一つに結んでいた見覚えのありすぎる顔に硬直する。
(この少年は、まさか)
「あの、どうかされましたか?」
あまりの既視感に仕事を忘れそうになるが、なんとか冷静になり留まる。
「…いえ、分かりました 依頼を受付を、早急にギルドの派遣をーー」
しようとしたが、近くにいるジョンが元気よく挙手をする。
「はい! 俺なら今すぐでも引き受けますよ」
「…あなたは依頼から帰って来たばかりですし」
「俺なら大丈夫です! お嬢ちゃん、その少年俺が見つけてあげるから」
「本当に?」
女の子は嬉しそうに綻ぶ。女性は依頼料を払い帰っていった。
思い悩むミルカはすぐにでも探しに行きたがったが仕事中のため、私情で早退するわけにもいかない。少しでも早く見つけることを願いミルカは判断した。
「分かりました、この依頼 お願いします」
お願いをされたジョンは恍惚とした表情をしてがぜんやる気になる。
「それじゃあ、ミルカさん 早く見つけてくるからね!」
ジョンは嬉しそうに依頼書と人相書きを受け取り、風のように去っていった。ミルカはその少年の安否を祈りながら仕事に集中し、まだ30分しか経っていない時だった。
その少年がギルドに忽然と現れたのは。
〇〇
ティル達はギルドの玄関前までやって来た。
「ここがギルドっていう所なの?」
ノアは初めてなので目の前の建物の大きさに圧倒される。玄関を通ると数日前よりも、人数がいたことに驚いた。
「この前は丁度遠征とかで出払っていたからだと思います」
「普段はこんな感じなんですね」
ティルは相槌を打つと、受付に見覚えある人物がいて声をかけた。
「あ、ミルカさん こんにちは」




