第五話:リオのコンプレックス
翌日になり、ティルは8時に起きて朝食をつくり、9時に目覚ましをかけても起きずにいるノアを起こしに行った。朝食を食べ始め15分ぐらいで食べ終わり、外出用の身支度を整えた。
「ノア、準備はいい?」
「うん! ばっちりよ」
そして、時計の針が9時50分になり、外出用のベルが鳴り、リオが来たことを教え、ティルは施錠して家を出た。
まだ一回しか歩いてない町並みなのでティルにはまだ物珍しく驚きの声を上げる。
「はあ〜、すごいですね やっぱりこんなに人がいると」
「はは、何回も見ると慣れて来るものですよ」
「そういうものですかね…ノア、人がいっぱいるから逸れないようにね……って、もういない?!」
隣にいたはずのノアの姿が見当たらずティルは一瞬焦ったがすぐに見つかった。
ノアは牛と豚のミンチを羊の腸でつめたウインナーが炭火で焼かれた香ばしい匂いに釣られていた。
「ティル! これ食べたい」
彼女が指を指したのは鉄板で焼かれたぐるぐると巻かれたウインナー巻きで、食べやすいように串を刺しており、それに目を輝かせている。
「さっき、ご飯を食べたばかりでしょ」
ノアは手を合わせて懇願する。
「今、食べたい お昼少なめにするから!」
その表情を見てティルは故郷にいる姉弟の双子を思い出した。屋台が出る週の初めに行くと双子は目を輝かせて、走り出しかねないのでそばについていた。
それでおいしいものを見つけると美味しそうにじっと見てそこから動かなくなるので渋々とティルの財布の紐は緩くなる。
そのことを思い出しティルはつい笑ってしまう。いきなり笑ったティルにノアは不思議そうに聞いてきた。
「どうしたの?」
「いや、故郷の双子のことを思い出して」
「ティルに兄弟がいるの?」
「うん…女の子と男の子の双子の姉弟で、女の子がメアリで、男の子がセシルっていうんだ」
そのことにリオは言及する。
「あ、そういえば町に一緒に行った時に買いましたね」
「はい、その節はありがとうございました」
「へ〜、リオも言っているんだ」
その呼び方にティルは注意した。
「ノア、先生とつけてーー」
「あ〜、いいんですよ 今は謹慎状態なので先生って呼ばれるのもなんか申し訳ないですし…」
(それもどうなんだ…)
ティルは突っ込みたくなった。ティル達が中央通りの道を歩いていると走り寄ってきた一人の女の子から声をかけられた。
「もしかしてあの時のお兄ちゃん?」
ティルは見覚えのある姿に思い出した。
「……! 君は確かあの時の、アメリアちゃんだったかな?」
黒髪の女の子、アメリアは自分の名前を覚えてくれたこと嬉しくて背中にある尻尾がブンブンと動いた。
「うん! そうだよ」
「アメリア、勝手に動いちゃダメよ」
いきなり走り出した娘を母親らしい女性が叱りつける。
「ごめんなさい、お母さん」
「あら? あなたは一体?……」
「えとね! このお兄ちゃんに悪い人たちから私を助けてくれたの」
「そうなんですかっあなたが…! その節は大変お世話になりました! 変な連中につけられているからお店に娘を匿って店を出てから行方がわからないので、先ほど、ギルドに届を出して来たところなんです。そしたら、ギルドの一団がいたのでその人たちに頼んだところでした」
ティルは驚いて口を開いた。
「え、そうなんですか」
「はい、まさか偶然出会えるなんて… あっ、今は手持ちのものしかないのですが」
「い、いいえ お金とか大丈夫ですよ?!」
今すぐにでも手提げからお金を出しそうな彼女の母親を見てティルは慌てて断った。
「ですが…」
「お気持ちだけで充分です」
ティルの必死の説得に母親は頭を下げて、
「本当にありがとうございました、あ 今からギルドに申請を取り下げないと…」
「それじゃあ僕が言っておきますので」
リオはフォローしようとしたのだが、女性はリオの容姿を見て勘違いする。
「え、でもあなた、子供は申請するのは無理なのよ。 大人の人を連れて行かないと」
一瞬、沈黙した。
(……)
「私、これでも成人しているので…」
リオはか細い声で返事をした。余程の精神的ダメージを喰らったのか伺える。
「え?! そうなんですか 失礼しました!?」
母親はペコペコと謝罪をして、リオはなんだか居た堪れない気持ちだった。深くお辞儀をして、娘のアメリアは手を大きく振って別れを告げた。
「僕ってそんなに幼く見えますかね……」
そういうリオに茶髪の羽っ毛に大きな瞳は大人という感じがしない。誰がどう見ても子供しか見えないのだ。
(そういえば、僕も最初は両親の後輩って聞いてびっくりしたぐらいだかな)
リオが自分が童顔だということを気にしているようなので、どういえば傷つかないか考えているとノアが一歩、彼に歩み寄った。何か気の利いたことを言うのかとティルは見守ったのだが、
「リオは幼い、はっきり言って」
がびんとリオは隠しきれないティルは開いた口が塞がらなかった。
(ノア? 一体何を〜?!)
ノアはリオに肩にポンとのせ、ある方向に指を刺した。そこはリンゴ飴という暖簾があり、お店の店先には色鮮やかな紅色の飴玉が串に置かれていた。
「あそこを見て!」
「うん?」
ノアが指したところに看板をよく見た、そこにはー
【子供なら、1本無料】
「……」
ティルはまさかと思い、ノアを見る。
「これは大人にはできないことよ」
ふんとノアは自信満々にいう姿に頭に手を当てたティルは天を仰いだ。
「そうですね…でも嘘はダメですよ」
「ゔ……そ、それはもちろんよ さあ、ギルドに向かいましょ!」
りんご飴を名残惜しそうに見ながら、なんだか気が削がれたリオはおかしく笑った。
「それじゃあ、行きましょうか、ティル君」
「はい」
(ふ……変わらないな〜)
ノアは話を逸らしたくなるとすぐに視線を逸らす癖があったことを思い出し、口元に笑みを浮かべリオの後を追った。




