第四話:リント/ティルの不安
「こんにちは、はじめましてだな」
初対面だが意気揚々と話してくるので、ティルは気が抜けた。
「はあ、こんにちは、あなたは一体…?」
「俺はリント・ファルンって言うんだ。 そんなことより決着がつきそうだぜ」
「…え?」
ティル達が目を離しているすきにエレナの剣術で追い込んだ。次々と止まらない攻撃にオウガは場外の手前まで追い込まれてしまう。
そしてオウガは後ろの退路を断たれ、エレナは見逃さず剣を突きつけた。
「どうしますか?」
「ぐっ、降参だ」
エレナの勝利にナイトクラスの子達は興奮し、彼女を賞賛し近寄る。
負けを宣言したものの浮かれる連中を間近で見たオウガは腹わたが煮えくり帰りそうになるほど激しい嫉妬を抱き我を忘れてしまう。オウガは持っていた斧でエレナに向かって投擲しようと振り上げた瞬間だった。
「マリオット!!」
その絶叫で周囲がパニック状態になり、エレナは対応に遅れた。エレナの剣術は周りに人がいる状態では不利となる。オウガはそこを狙った。案の定身動きができないことにほくそ笑む。
そんな誰もが混乱している中、冷静なものがいた。一人はティル、そしてノア、最後はリオと言いたいところだが、生徒達の波にさらわれてもみくちゃにされていた。
ノアはオウガの暴走を止めようと足を進めようとした時だった。
ティルとノアの間をすり抜けるように何かが通ったのだ。それが何なのかは、オウガのうめき声を上げて分かった。
「ぐわぁ?!」
オウガのそばにはいつの間にか、ーーリントという細身の少年が立っていたのだ。彼はオウガが持っていた斧を手で掴みとっていた。
「てめえ? このやろう?!」
邪魔をされたオウガはリントに激昂する。そんな迫力にも気落ちせず飄々と涼しい表情で答える。
「あのさ、もう決着が着いたんだからもういいだろう? みっともないぜ」
リントはオウガに諭そうとするが、怒り心頭のオウガは聞く耳を持たない状態だった。
けれど、騒ぎを聞きつけた先生達がやって来て事態は収束した。オウガは先生に連れていかれる時、彼はエレナではなく邪魔をしたリントを睨みつける。
「てめえ、覚えておけよ」
「こら、やめなさい」
オウガは先生に注意され渋々連れて行かれて、そして一週間の学生寮で謹慎処分となったのをリオから教えてもらった。
「見学から、トラブルに巻き込んですみません」
「いえ、こうゆうことよくあるんですか?」
「あまり、ないんですけど、あそこまでなるのは…。ナイトクラスとヴィザードクラスの二つの戦闘スタイルから中々剃りが合わなくて、どうしてもさっきのようにいがみあってしまうんです」
「でも、あの女の子はそんな感じじゃありませんでしたね」
ティルは争いを止めた一人の女の子を思い出す。
「エレナ・マリオットさんですね。 彼女はナイトクラスのエースと言っていいほど優秀で他の学生達よりもずば抜けていますね」
「なら、あの銀髪のしっぽ頭もそうかしら」
「尻尾頭? ああ、リント・ファルンくんのことですね 彼はヴィザードクラスなんですけど、あまり授業を真面目に受けていないというか。面倒臭がりというか何度も授業中に遭遇したことがあって注意しても聞き入れてくれないんですよね」
「今日もサボりと思ったのですが、まさかいたとは驚きました」
「そうですね、あんなに気配なく背後に立たれるとは思いませんでした」
「ナイトクラスは物理的攻撃に特化した授業を受けます。彼らが入学して、まだ半年も経っていませんが、オウガ君の父親は剣士の家で小さい頃から教えられていたので剣術の腕があります」
「それにも関わらず、ファルンくんは受け止めることができたのは」
リオは続きの言葉を紡ぎ出そうとして、ノアは口を開く。
「ということはオウガより尻尾頭の方が強いということね」
リントという名前とファルンという名字よりも尻尾頭というあだ名が気に入ったのかノアは今後その名前で呼ばないか心配した。
それから家となったログハウスに帰り、明日は休みなのでどこに行くのかという話になり、ギルドに行って知り合いとなったカルアとミルカに学園に入学したことを伝えたかったティルは、リオは口元が引きつっていたがノアは不思議そうに見送った。
「リオはどうして変な顔をしていたの?」
「多分、カルアさんですね…ちょっとキャラが濃ゆいというか苦手そうでしたが悪い人じゃないので」
「ふ〜ん、そうなんだ」
「ノア、寝る前に話したいことがあるんだ」
「うん、分かった」
今日は動きまわったので風呂に入ってさっぱりし、簡単な夕食を作りノアと一緒に食べた。そして一服する前にティルは話し始めた。
「ノア、ちょっと話していいかな?」
「うん、いいよ」
ティルはソファに座り、ノアはすぐ隣に座った。
「話って何?」
「今日、見学をしたナイトクラスとヴィザードクラスであったこと覚えている」
「うん、色々あったね」
「そうだね、冷や冷やして見学どころじゃなかったね、あのオウガっていう少年が後ろから彼女を襲うとは思わなかった」
「うん、私もあと少しで動いていたわね。 尻尾頭が動くのが速くて少し驚いたけどーー」
ティルはその言葉を聞いて確信した。ノアは自分を顧みずに他人を守ろうとすることの危険性があることに。
「人を守ることは大切だけど、もしノアがあの時手を出したらオウガは君を狙ったかもしれない」
ノアは腕を大きく振りかぶり、自信満々な笑みをティルに向けた。
「そうなったら、洞窟の壁を壊した時みたいにぶっ飛ばしたらいいのよ」
(それは相手が生きているんだろうか……?)
一瞬オウガの命を心配になったが、ティルは首を降って気持ちを切り替えた。
「確かに君が本気を出せば誰も敵うものはいないと思う…けどどんなに強くても守れない時がある」
「……ティル……どうしたの?」
ノアはティルの苦しそうな表情にどうしたのかと彼の頬に手を添えた。
「大丈夫?」
「……うん、ごめん 変な顔見せて」
「別に変じゃないよ、何か私にできることがあったら言って」
「……それじゃあ、ノアは力の制御ができるまで魔法を使うのはしばらく避けた方がいい」
「え、それって魔力を使っちゃダメってこと?」
「さすがに吹き飛ばして相手を大怪我させるのはまずいですし、リオ先生に迷惑をかけるのも申し訳ないからね」
「うっ、それもそうね…分かったわ」
「それじゃあ、話はこれでおしまい そろそろ寝よっか」
「うん、そうね」
「明日の9時に起きればいいよ」
「うん」
「お休み、ノア」
「お休みなさい、ティル」
いそいそと二人は各々の寝室に戻り、ぐっすりと就寝についた。




