第三話:鋼鉄の乙女
リオは飛び出し、二つのクラスに向かい声をあげた。
「ちょっと、喧嘩はやめてください」
いきなり入って来た小柄な闖入者にナイトクラスとヴィザードクラスはポカンとした。
「何、この子供?」
「こんなところにいたら危ないわよ」
仮にも先生見習いであり大人であるリオは慣れていても生徒達の反応にショックを隠しきれない。
「うぐ……僕じゃなくて、私は(一応)先生ですよ」
「先生? あなたが」
「失礼ですが、どのクラスを担当しているんですか?」
「私は…冒険科の担当です」
リオの発した言葉を聞いた生徒達の反応はあまり良いものではなかった。
「冒険科ってあのクラスの?」
「私も戦ったことあるけどめっちゃ弱かったし」
ティルはどうしてみんなに見下されているのかよく分からなかったので話を聞いた。
「それはどういう意味ですか?」
「あら、あなたは?」
リオは生徒達にティル達の紹介をした。
「あ、彼らは今日見学に来たもの達です」
「そうなんですか、それはご入学おめでとうございます…どのクラスに入るか個人の自由ですが、先生の前で失礼と承知の上で言います。はっきり言って冒険科は観光科と言われています」
その言葉にリオは明らかに渋い表情をしたのが気がかりだったが話を進めた。
「観光科?」
「冒険科の授業内容はギルドのランクに見合った依頼を受けたり、各国に行けることもできます」
「けれど、それはギルドに入ればすむことでもあります。学校と同じく年齢制限も特にないので」
そうなのかとティルはリオに確認をとる。
「はい、その通りです」
どんどん縮こまるリオにティルはどうしたものかと困窮する。
「昔は多かったみたいですが、今はそんなにいませんし、どうして冒険科というのができたのか分かりませんが、まあさして問題はありません」
ナイトクラスの女の子の辛辣な物言いにヴィザードクラスの女の子は話しかける。
「ちょっとその言い方ないんじゃない」
「あら? 他にどの言い方があるのかしら 遠回しに言ってもしょうがないでしょ」
「へえ、ナイトクラスって血も涙もないんだ」
売り言葉に買い言葉、一度はリオの介入で気がそがれていたが言葉の交わすだけで噛み合わない。落ち込んでいたリオはなんとか止めようとするが、
「やめてください、今は自習時間ですよ、私闘での戦闘行為は……っ」
「他クラスの先生は黙っていてください」
「ふへ?!」
一人ならともかく多勢に無勢、二クラスの威圧にリオは口を竦ませる。そしてとうとう始まってしまった。リオの必死の説得も虚しくただ傍観するしかないかとーーその時だった。
どこからか物凄い風が二つの抗争を襲った。
突然のことに驚いた生徒達は固まり、一体何があったのだと周囲を窺うと一人の金髪の女の子が近づいて来た。
「あなた達、一体何をしているんですか?」
ロングストレートの金の髪に輝くような蒼い瞳をもつ少女エレナ・マリオットは片手に剣を携えて悠然と歩みよって来た。ただ歩いているだけで厳かな雰囲気を持つ少女に気づいた同じナイトクラスは歓声をあげた。
「エレナ様!」
「エレナお姉様」
彼女が現れたことでナイトクラスの士気が上がった。彼女が加勢すれば勝ちは同然と、相当な強者だとティルは推測する。
しかしエレナはナイトクラスに咎めるような視線を送った。
「これはどういうことですか?」
同じナイトクラスのもの達はエレナに説明した。
「聞いてください、エレナお姉様、ヴィザードクラスが変な言いがかりをつけて来たんです」
ナイトクラスの話にヴィザードクラスは反論する。
「変な言いがかりって私たちは注意しただけよ」
エレナは二人から一部始終の話を聞いて咀嚼した。
ナイトクラスの男の子とヴィザードクラスが決闘し、女の子が危うく頭をぶつけるところだったと知り、エレナは女の子の体調を伺った。
「あ、みんなが助けてくれたので大丈夫です」
エレナは女の子の答えにほっとしたが、
「へん、訓練が足りないんじゃないか」
後ろから聞こえた無神経な声がなければーー先ほどの対戦した男子ではなく他の学生よりも大柄な青年、オウガが前に出た。
「つまんねえな〜」
「…ならば、私と本気の遊びをしますか?」
「お前とか? 願ってもないぜ!」
血の気の多いオウガは俄然とやる気も見せて、自分の武器である斧を取り出し、まだ審判も決めていないのにエレナに襲い掛かった。
オウガはエレナより身長がある。170センチぐらいで体格もいいがスピードもあった。
ナイトクラスは身体強化に特化したクラスのため、生徒は自ずと身につけている。けれどエレナもそれは一緒で襲いかかる気迫を物ともせず剣で斧を受け止めた。体重のあるオウガの方が力はあるはずなのにである。
そのことにオウガは歯噛みして渋面を作る。
(この野郎、どんだけ剣に魔力を込めているんだ)
「マリオット、やはり強いな」
彼女はその剣の強さから「鋼鉄の乙女」と呼ばれているほどで、エレナの強さにオウガは素直に賞賛する。それを聞いた女子達は崇拝されている彼女と睨み合う二人の姿に金切り声をあげる。
「ちょっと、エレナお姉様に慣れなれしいのよ」
「そうよ、そうよ」
同じクラスの女子達の姦しいこえに苛立ったオウガは吠える。
「うるせえぞ、女ども!」
ティルとノアはリオの近くで見ながら観戦していた。
「中々面白い対戦だね」
「そうですね…あの細い体で斧を受け止めるなんて思いませんでした」
「そうだろ〜、そうだろ 何せあいつはナイトクラス一期生のエースだからな」
「へ〜、すごいですね ーーって今のはノア?」
流れで答えたが、ノアとは違う軽快な声にティルは不思議がる。
「違う……後ろにいる人じゃない?」
首を振り否と答える。後ろを指したノアの笑みを見ながらティルは振り返るとそこには朗らかに笑う褐色の肌を持つ銀髪の少年が立っていたことに驚く。
「えっと、どちら様でしょうか?」




