第二話:クラスの選択
「あ、ティルくん おはようございます」
「おはようございます、リオ先生」
ティルは玄関にいるリオ・フィンナッシュをリビングに案内した。
「昨日はぐっすりと眠れましたか?」
「はい、おかげ様で」
「体調のほうはどうですか?」
「どこも大丈夫ですよ」
心配そうに聞くリオにまだ責任を感じているのかとティルは苦笑する。
「何かあったらすぐに言ってくださいね」
「はい、分かりました」
ティルはうなづくと、キッチンからノアが出てきて紅茶とお菓子を持って来た。
「どうぞ、召し上がれ」
リオは慌ててお辞儀をした。
「あ、ありがとうございます」
早速、手に取り琥珀色に澄んだ紅茶を一口飲んだ。
「美味しいですね」
リオは玄関に近い上座に座り、ティルとノアは向かい同士にあるソファに座った。紅茶で一息ついてリオは話を切り出した。
「それでは、今後のことをどうするか説明します」
「まずは二人が入るクラスを選択してもらいます」
「クラス?」
「はい」
「この学園には大きく分けて五つのクラスがあります。まず最初は普通科があり、一番ベターなクラスで魔法よりは一般的な知識や教養を身につける感じです。別名ノーマルクラスと言われています。」
「二つ目は治癒科、魔法で傷を治したり病気の薬を作ったり勉強するところで、あなたのお母さんであるマリノアさんもここに入ってましたよ」
「そこに母さんが…」
ティルは聞いたこともなかったので昔の母の姿を知れて感慨深く自分のことのように嬉しくなる。ノアは不思議そうに聞いてきた。
「ティルのお母さんもここにいたの?」
ティルはそのことで思い出す。
「うん、そうだよ……それと、ノアのお母さんも人の傷を治すこともできたんだ」
ノアは驚いた。
「え、そうだったの?」
「うん、魔法は使えないんだけど、まるで魔法のように傷を治すのが上手で、皆から愛されていた」
「そうだったんですね…」
しみじみとノアはうつむいているとすすり泣く声が聞こえ耳を澄ませると、
「いいお母さんなんですね」
リオは小父に育てられ、生まれてから両親の顔を見たことがないので感傷的になるのも無理はない。泣いていた彼にティルはティッシュを渡した。
「は〜、すみません、親のことを聞くと泣いちゃう癖があって」
「いえ、泣きたい時には泣いた方がいいんですよ」
ティルの重みのある言葉にリオは可笑しそうに呟く。
「なんでかティルくんの方が年上に思う時があります」
「え、あ…そうですか?」
(本当はあなたの何倍も生きています)
なんていったらリオだったら本当に信じかねないのでティルはあえていわないことにした。ティルは話題を逸らすために話を戻した。
「あと三つはどんなクラスがあるんですか?」
「あ、はい あと三つは魔法科、騎士科、冒険科です。冒険科はギルドからランクの低い依頼を受けたり、研修で各国に行ったりもします」
「そしてクラスの中で特に人気があるのが騎士科と魔法科の二クラスです」
「分かりやすくいうと、騎士科は近中距離戦闘の技術向上を魔法は遠距離戦闘の魔法を学ぶために特化したクラスです」
「色々とあるんですね」
「今日はその見学も兼ねて学園の中を案内します」
「はい、よろしくお願いします」
ティルとノアはリオに先導され、学園に向かった。
〇〇
マルドォーク魔法学園、正確にはマルドォーク魔法学園都市。
創立者のマルドォーク一族はこの土地に学園を建てたのはおよそ200年前。学園の教育方針はもちろん学問など勉強するところだが、魔獣など理性がないもの、外敵から人を守るための訓練養成所となる。
外敵から守るためには一族の知識では限界があると、初代の学園長が敢行しその意向で種族は異なるが特別な許可証があれば入れる仕組みになっている。
そして魔法世界でもトップクラスの学び舎で数多くの優秀な生徒たちを輩出している。本来競争が激しく衝突もたびたび起こっていた。
クラスによって合同練習が行われるのだが、人気がある二つのクラスである騎士科と魔法科は異なる戦闘スタイルからなのか噛み合わず、何かと衝突が多かった。それはティルとノアが見学に連れてこられた時もだった。
今は自習時間のためか、先生が見当たらないので場外のベンチにティル達は座った。騎士科はナイトクラスと呼ばれ、魔法科はヴィザードクラスとも呼ばれる。
ナイトクラスの男の子はヴィザードクラスに攻撃を仕掛けようとするが、女の子は魔法を遠距離攻撃をするため近づけなかった。
「おいお前、そんなにバンバン魔力使うんじゃねえよ、これじゃ訓練にならねえだろが?!」
男の子が苛立つ様子に女の子は鼻で笑った。
「ふん、先手必勝よ」
余裕を見せていた彼女だが、それは長く続かなかった。魔法を杖で撃ち続けるも充填に時間が必要なためどうしてもズレが生じてしまう。魔力を補給する魔法薬があっても、ナイトクラスには通用しなかった。
その隙を狙い少年は剣に魔力を込めて風圧を彼女にぶつけた。女の子は杖をかざして防御魔法で踏ん張ろうとするが耐えきれず場外に飛ばされてしまった。
「きゃあ?!」
「あぶな?!」
その女の子を見たティル達はヒヤリとしたが、クラスメイトが風を操り優しく受け止めた。
倒れた女の子を心配そうに集まる友達が窺っている。女の子は足元がふらついているがなんとか立っている様子にティル達はほっとした。けれど、女の子の友達は男の子が加減をしなかったことに言及した。
「ちょっと、今の攻撃、倒れたら危なかったでしょ?」
「はあ… 俺のせいじゃねえよ それにこれは訓練だぜ、生半可な訓練してやってたら練習にもなんないぜ」
「だからと言って、吹き飛ばすことはないでしょ」
「ち、うるせえな」
舌打ちする男の子の物言いに女の子達は激昂する。
「なんですって」
女の子達に反論するように対戦をしていたヴィザードクラスのもの達も集まってきた。
「おい、何があったんだ」
「ちょっと聞いて、こいつ私の友達を吹き飛ばしたのよ」
「はあ、やりすぎだろ、それ? おい!打ち所が悪かったら洒落になんねえぞ」
多数に無勢に男の子はタジタジとなっていたが、少年がいるナイトクラスの子達も黙っていない。
「ちょっと、そっちの意見ばかり通さないでくれる!私たちは遊び半分で訓練しているわけじゃないのよ。生半可でやっていたら技も上達しないでしょ」
「そうだ、そうだ」
「言いがかりはやめてよね」
その言葉にヴィザードクラスは反感を抱く。二つの言い合いにヒットアップする雰囲気にティルは嫌な予感を募らせた。
「これはちょっとやばそうですね」
「はい、僕もちょっと止めて来ます ここで待っていてください」
「え、先生?」
ティルが止める暇もなく、リオは飛び出した。
「お!」
リオが飛び出したのをノアは面白そうに見送ったがティルは心配した。
「ここで待ってろと言われたけど、嫌な予感が…」
苦笑いするティルにノアはニヤリと笑う。
「そうね…それじゃ、どうする」
「ノアはここに、僕は一緒に行きます」
「一人だけここにいたらつまらないでしょ、私も行くわ」
「え、ノア…?!」
ノアは先に歩き出し、ティルの心配性にぶすくれた。どうして機嫌が悪くなったのかティルは分からなかった。そんな彼女に慌ててついて行き、今にも衝突しそうな二つの間の渦中に向かった。




