第一話:穏やかなブランチ
洞窟を脱出したその後のティルは…
マルドォーク学園都市。学園があり城塞の外には都市に住む住民達の貴族や平民まで住んでいる。都市部も外敵から攻撃を守るために、城壁で周囲を囲み堅固に防御された造りである。
学園内は広々としていて、他国から入学する人たちのために学生寮も設備されている。都市部で部屋を賃貸するものもいれば、都市部の住宅から通学する生徒もいて様々である。
ある人物は特例で学園内の一軒家であるログハウスを無償でもらえた生徒がいた。それは誰しもがもらえるものではなく学園側の落ち度があるのだが。
育ての親が通っていた母校に通うために両親の後輩であり学園の先生見習いであるリオに連れられてティルは学園にやってきた。そして入学するために簡単な試験を受けて合格するはずだったが、その中には色んな魔物が蠢いていた。
「はあ、はあ」
ティルは洞窟の中で何かに追われていた。全速力で走るが、魔力を持たない彼はすぐに追いつかれそうになった。
後ろを振り返るとそこには巨躯な体を持つドラゴンが逃げるティルを猛追していた。大きな口には鋭い強靭な牙がずらりと並んでいる。
ティルがもっと足を踏み出そうとした瞬間を見計らうように大きな口を開けて、そしてーー
〇〇
「うわあ?!」
ゴンとおぞましい悪夢から目が覚めたティルはベットから転げ落ちてしまい頭をしたたかにぶつけた。
「夢……か」
強く打ったところに鈍い痛みが走るよりも、さっきの現象が正夢ではなくて良かったと心から安堵した。
ほっと夢を撫で下ろしたティルは段々と意識が覚醒した。
「もう朝か」
転げ落ちたベットのそばにある窓のカーテンの隙間から朝日が射し込んでいる。
ベットを支えに起きよかったティルは部屋中を眺め見てもクローゼットや調度品しかない。
「何もないな…」
厚着をしなくてもいいぐらい、最初の寝心地はよかったが、悪夢を見た事で寝心地の良さは半減した。
時計を見ると朝の10時くらいを指していた。学園に来る前は森に薪を取りに行くなどして早起きすることが習慣だったティルだが、昨日は 色んなことがありすぎて体力的にも疲労困憊だったのだろうと今考えても生きているのが不思議なくらいである。
「…そういえば」
自分のかつての記憶を思い出したティルは洞窟の中で再会した女の子のことを考えた。昨日は寝かしつけて、彼女は違う別の部屋で寝ているはずである。
時間的に遅い朝ごはんか早い昼ごはんになるとティルはキッチンがあったので何か軽食を作ろうと、下の階に降りた。
キッチンの保冷庫が設備されていて、一通りの食材が入っていることは知っていたので簡単なブランチを作ることにした。
焼いたベーコンの上に卵をのせて焼いたベーコンエッグとミニトマトが入った野菜サラダはキュウリとちぎったレタスの上に酢、油、塩こしょうで作った手作りドレッシングをかければ完成である。
それとヨーグルトには苺ジャムをひとサジ入れた時、トースターがチンと音が鳴った。開くと香ばしい匂いがしてきて食欲がそそる。
「よし、こんなものかな」
ティルはエプロンに壁をかけて、今もまだ眠るノアの寝室に向かった。
「ノア、朝ごはんだよ」
コンコンとノックをするが応答がない。そのまま寝かせたい気持ちもあるのだが、昼からリオが色々と説明に来る予定なのでティルはおもむろにドアを開けた。
薄暗い部屋の中にポツリとベットがあり、ティルと同じくらいの調度品しかないので寒々しく感じる。
ティルはカーテンを開けると光が部屋の中に射しこみノアの目元が眩しそうに身じろく。
「う〜ん」
ノアの近くによりティルは優しく声をかけた。
「む〜」
呼びかけるが、寝言が返ってくるだけでノアは器用に頭ごとすっぽりと被っている。
いかにも子供らしい仕草にティルは静かに笑った。この小さな女の子が自分の何倍も大きいドラゴンをどこかに飛ばし、洞窟を脱出する時は岩壁にを吹き飛ばしたなど誰も信じないだろう。
こうゆう時に大体起きる魔法の言葉がある。
「ノア、朝ごはんだよ」
朝ごはんという魔法の言葉なのは、寝ている時も体力を消耗しているからである。そして寝すぎると疲れるのもそのためであると適度な睡眠が大切なのだとティルの義母であるマリノアからの受け売りである。
「うう〜、ご、はん?」
「あ、おきた 朝ご飯作ったから一緒に食べよ」
「…うん」
「顔をぬるま湯で洗うとさっぱりするよ」
ノアは寝ぼけ眼でベットから起き上がり洗面所に向かい、ティルのいう通りにお湯を微調整して顔を洗った、水よりもぬるま湯の方が人肌に優しいからだ。
リビングに向かうといい匂いにつられるように向かった。
「おはよう、ノア それじゃあ食べようか」
四人がけの大きなテーブルには美味しそうなワンプレートの軽食ができていた。
「これはティルが作ったの?」
「うん 簡単なものしか作れなかったけど あ、何か食べれないものはあった」
「う〜ん、多分ないと思う いただきます」
早く食べたくて手を合わせたノアはフォークを取り、最初はドレッシングかかかったサラダを食べた。
シャキッとした新鮮な音が鳴り、もぐもぐとノアが無言で食べているのを見たティルは少し心配した。
(もしかして不味かったかな…)
だがその心配もすぐに杞憂に終わる。ノアは目を輝かせて声をあげた。
「ティル! このサラダにかかっているのすごく美味しいんだけど」
「あ〜、それは僕が作ったドレッシングだよ」
「これもティルが作ったの?」
「うん」
黙々と食べていたのはどうやら美味しかったようでほっとし、サラダをあっという間に平げ、自分が作った料理を喜んで食べてくれるのは作った甲斐がある。
「美味しかった、ごちそうさま」
「お粗末様でした」
ノアは立ち上がると、皿を集めてキッチンに向かった。
「ノア、僕が皿を洗うから流し台に入れるだけでいいよ」
「ううん、ティルは料理を作ってくれたから皿洗いぐらいさせて」
「え、うん、じゃあお願いします」
その時、頭の中に過去の映像が浮かんだ。
『私が今日皿洗いするの』
ノアの母シエラがまだ在命だった頃、病床にいる母の負担を少しでも減らそうとしていたことをティルは思い出す。
でもその時は今の彼女よりも体が小さくておぼつかない足取りで水場に持っていたが、
がしゃんという甲高い音が重なった。
「っ…ノア、大丈夫」
「ごめんなさい、ツルツルして掴みにくい」
洗剤で手が滑って皿を落としただけのようでティルはほっとした。その時は床に皿を落としてしまい割ってしまいノアは泣いた。その時は割った皿を掃除してノアには皿ふきだけを進めたのだ。
思い出に浸りながらティルはお茶を用意した。紅茶を飲みながら、ゆっくりしているとチャイムの音が来客を知らせた。
「あ、来たようだね」
ティルは返事をしながら玄関に向かいドアを開けると予想どうりの小柄な人物が立っていた。




