第四十三話:ただ、それだけで【第一章:完】
目を覚ましたリオの視点からです。
リオは後悔と罪悪感の記憶の波に苛まれていた。
『申し訳ありません 先輩方…僕は何も成長していない、本当にダメな人間です』
『お世話になった先輩方の役に立ちたくて、初めてお願いされたことに先輩方の大事な子供さんを危険な目に遭わせて…』
そうして目を覚ましたリオは徐々に意識を回復すると自分が寝ていることに気づいた。
「うゔ…(どうして僕は眠って)」
「先生?」
視線をずらすと寝ぼけ眼でその少年が誰だか分かった。
「…ティル君」
自分の失敗で危険に晒した少年が無事だったことに目頭が熱くなり、いつまでも寝てはいられないリオは無理やり体を起こした。
「先生、急に体を動かさないほうが」
寝ていたばかりの体にティルはリオを気遣うが、今はその心遣いが苦しいだけである。
「申し訳ありません」
その言葉にティルの手が止まる。
「あなたのご両親から預かったのにっ」
「危険な目に遭わせるなんて、教師として失格です」
「私は先生を辞めます」
リオの吐露にティルは思わず口を閉ざしかけたが、
「先生…」
ティルはリオに自分の正直な気持ちを伝えた。
「…確かに何度も危険な目に遭いました」
「ーーっ」
「でも僕はまだ先生を続けていて欲しいです」
「え」
「ほかの先生から話を聞きました。僕を助けるために一人で助けにいこうとしていたって」
『ティルくん、あいつは確かにドジだが悪気はないんだ』
〇〇
それはノアが洞窟の壁を破壊する少し前に遡る。
『僕一人で行きます』
ルイズは無茶をしようとするリオに正気を疑う。
『待て! 正気か? 魔力が低いお前では自殺行為だぞ』
運悪く気を失ったリオの代わりにルイズはティルに説明した。
『それを引き止めたのは私なんだ』
〇〇
「先生がーー」
思わぬルイズの弁護にリオは呆然とする。
「それに僕にとって大切な何かを思い出したような気がするんです。そのきっかけになってくれたのが「あなた」のような先生でよかったです」
ティルの言葉に返す言葉が見つからないリオは涙を流すのを我慢しよとしたが抑えきれなかった。
(なんて情けないんだ……僕は何もかも諦めようとしていた。でもこんな自分でも彼はティルくんは僕でいいて言ってくれた)
(彼の言葉にフィズカルト先生に報いたい)
リオは静かに心の中で誓った。
ティルの言葉を病室の外で聞いていたノアは微笑み、聞かれていたティルは恥ずかしそうにはにかむ。
外を出るとルイズが立っていて目が合うと礼を返された、どうやら二人を待っていたらしい。
洞窟を脱出することができたティルは合格したらしく、ルイズから説明を受けた。
それと洞窟を出たときにティルたちにも一悶着があった。いきなり大穴の前に現れた謎の少女に情報がないルイズ達救助隊は困惑したのだ。
「あなたは一体何者ですか? 彼以外試験を受けたと聞いていませんが」
「そうなの? 私はティルのパートナーのノアよ、パートナーの私がいるとおかしいかしら」
その時、ノアの瞳が怪しく光った。そして何かに操られたようにルイズは肯定した。
「…いえ、そうでしたか、それは失礼しました」
その時のことをルイズが来て自ら謝罪した。
「洞窟での非礼は申し訳ありません」
「いえ、あの時に謝っていただいたので」
ティルはノアが何かしたのだろうと気づきつつも、あえて黙っておいた。
『洞窟の中に女の子が結晶体にいたんです』と言えばきっと病室に連れて行かれるだろうとティルは考えて、それから迷惑をかけたそのお詫びでなんでもとしてくれることを言われたティルはどうしようかと悩んだ。
「そうですね…」
「ティル」
ノアに肘を引っ張られたティルは横を見る。
「どうしました?」
「住むところは決まっているの?」
「それはまだ決まってないですね」
ティルがどうしようか悩んでいるとそれに気づいたルイズは提案した。
「それでは、学園側がお詫びとして家をプレゼントするのはどうでしょうか?」
「えっ」
いきなりの破格の提案にティルは驚いた。故郷では家を買ったことがないのでわからないが、都市部の方が物価が上がることぐらいは知っている。
「お金はあまり持ってきてないのですが…」
金銭面のことで心配になったティルだったが心配に及ばなかった。
「それはご心配ありません、無償で学園側から負担させていただきます。家賃などもタダです」
「そっ、そんなに」
「本来こちら側の重大なミスでティルくん達を命の危険に晒したのですから」
申し訳なさそうに言うルイズにティルは無償でもらえるんだったらと考えて返事をする。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ティルとノアはルイズに家に案内された。
そこは、学園から少し離れたところにより通学するもの便利な距離だった。ティルたちが木立を抜けていくとログハウスが建っていた。その家を見て、懐かしさに胸が熱くなった。
家の中に入り、歩いていくと隣にいたノアが立ち止まっていたことに気づいた。
「ノア? どうしたんですか?」
「…ううん、なんでもない」
首を振りながらティルの横を通り過ぎた。
「行こう」
ルイズに部屋の中を案内されて最後にティルが鍵を受け取った。
「今日は色々とあったのでゆっくりと休んでください」
「明日、フィンナッシュ先生が今後の予定などを説明しますので」
「はい、分かりました」
「これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そして、ルイズは去っていきドアを閉めて去っていった。
「まずはお風呂に入ってスッキリしたいですね」
「そうだね」
暗い洞窟に長い時間いたので埃と煤だらけなのでこの格好で寛ぎたくない。ノアから先に風呂に入り、ティルは後で入った。冷蔵庫の中にはミネラルウォーターが入っていたのでそれをノアに手渡した。
「う〜ん、美味しい」
美味しそうに水を飲むノアの髪がまだ濡れていることに気づいた。
「ノア、まだ濡れていますよ ソファに」
「うん」
ドライヤーで乾かしながら櫛で髪をといた。
「ノアの髪は柔らかいですね」
「そう? 私はティルの髪も好きだよ、さらさらで」
「ふふ、ありがとう」
今のノアの格好はドレスではなくパジャマを着ている。
「ノア、白いドレスとても似合ってましたよ」
「本当?」
そういうと嬉しそうに、ノアは振り向いた。
「ドレスが汚れてなかったから着ていたかったんだけどな」
ぶう〜と子供らしくぶすくれた顔をした。
「また着てください、あれは君に贈ったものだから」
「……え、そうなの?」
驚いた顔をしたノアは、ティルの顔をまじまじと見た。
「…ノアには話したいことがいっぱいあるんです、まずはどこから話そうかな」
ティルは絵本でも読むかのように、ノアを聞かせた。
かつて世界は一つだった。そして一つの大きな都があった
しかしある日を境に世界は9つの世界に分かれてしまった。
そのうちの一つが魔法世界。
それが魔法世界の創成期の始まり。
そのような御業ができるのは「魔王」と畏怖を込めて、そう呼ばれる。
伝説として語り継がれた存在。
それをリオから聞いたときは自分に関係ないことだと思っていた。
(思い出したよ…俺はカストールだったんだ)
(けど今の僕は大したことができない、ただの魔力無しの脆弱な人間となってしまった……後悔はない。けど不安は残る)
モヤモヤした気持ちを切り替えるように背筋を延ばした。
僕の名前はティル、それだけで今は十分だ。ノアを見るといつの間にか眠っていたことに気がつき、彼女の頭を撫でた。
「そろそろ眠ろっか」
「うん!」
ティルはノアの体を優しく抱き上げて、ベットの上に寝かせた。ノアとの安息と平凡な日々を願う少年の願いは叶うのか…かつて魔王と語り継がれた少年の第二の人生の物語は今ここから始まる。
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別作品に『今昔あやかし転生奇譚』という作品があります。妖怪ものが好きな方におすすめです٩( 'ω' )و




