第二十六話:それはかつてあった都の話・エピソード1
穴に落ちていったティルは…
そのまま下へ下へと落下するティルは不思議な残像を見た。その瞬間意識が遠のいていった。
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【それはかつてあった都の話】
ある所に大きな都がありました。
都は栄えており、いろんな種族が住んでいました。
そしてその都の中心には大きな城が立っていました。
お城には王様とお妃様、そして二人の王子様がいました。
兄の方をカストール、弟の方をポリュデウケスと名付けられました。二人は双子で生まれながら強大な魔力を持っていたのです。
顔立ちは似ていたものの性格は正反対でした。
弟は明朗快活な性格でしたが誰からも好かれていました。
双子の王子様はもっぱら夜会で持ちきりになり、どちらが次の王様になるのかと囁かれる。
『やはり、弟君の方ではないか』
『兄君も強大な魔力を持っているらしいが、政治には向いてそうにない』
弟は幼くして分かっていたため、カストールのことは最初は眼中になかった。けれどポリュデウケスはあることがきっかけで兄に興味を持つようになる。
ポリュデウケスは幼い頃から勉強を励んだ。
自分の父である王を皆が敬う姿を見て息子である自分は感動した。それから父がしている政治や執務などに興味が湧いた。
体を鍛えるため稽古をつけてもらったりメキメキと成長していった。その傍ら、弟が注目される分、兄は眼中にされることはなかった。
当の本人はもともと政治には興味がなく、興味という関心がなかった。性格的に弟が動、兄が静と名が表すように大人しく物静かな性格だった。
そんなある日のことだった。兄弟が10歳ぐらいになった時だった。
「最近都の外れの森で魔獣が暴れているらしい」
それを聞いたポリュデウケスは討伐に志願した。
「王よ、私は村に人々の不安と恐怖から救いたいのです」
「うむ…そうだが、まだお前には早いと思うが」
王は逡巡の末、ポリュデウケスを魔獣討伐に行かせることにした。
「精一杯務めます」
その会話を兄のカストールは静かに見つめていた。
とうとう討伐の日が来て出立の時が訪れる。城でも優秀なエリートの軍勢が編成し、都の人々に見送られながら旅たって言った。
「あの方が弟君のポリュデウケス様が…まだお若いのに凛々しい顔立ちだ」
「あの王子が次期後継者なのかな」
「王子様はもう一人いるだろう」
「弟君には兄君がいる」
「兄君は今回出られないのだろうか?」
「何ぶん弟君とは違い、大人しい性格らしい」
人々があ〜でもない、こ〜でもないと面白おかしく話していた。
観客は弟王子達に夢中で並走する一人の人影に誰一人気づくことはなかった。
ポリュデウケス達が異変があった村に行くと、人々が出迎えてくれて村長が挨拶をする。
「殿下、この村に来ていただいてありがとうございまうす」
「礼には及ばない、民の平和のために来ただけだ」
民が恐怖で怯えている現状を見て、勇み足で魔獣のいる森に赴くが、この時まだ直に戦闘経験を受けたことがないポリュデウケスはは思い知ることになる。
理性のない魔獣は翼をはためかせ、大きなかぎつめを持ち。硬い牙を持っているらしい。
森深い道を進んでいくとポリュデウケスは立ち止まる。
『何だ、この嫌な気配はーー』
従者が心配し、声をかけてきた。
「どうされました、殿下?」
「何かーー…」
そう言いかけた瞬間に事態が急変する。遠方からものすごい勢いのある衝撃が彼らを襲った。
ポリュデウケス達はすんでのところで退避しなければあと一歩遅ければ直撃は免れなかっただろう。
ポリュデウケスは初めて死の恐怖を感じた。衝撃のあった所に魔獣は翼を広げ降り立つと、ポリュデウケスたちを見下ろす。
魔獣は自分の領域に入った者達に襲い掛かる。
「…っ」
魔獣の目には一人だけ動かないものが入った。弱肉強食、弱いものが食われ、強いものに食べられる。動かない弱者を捉えた魔獣は並外れた運動神経で行動に出る。
『足が動かない…』
ポリュデウケスは恐怖で身がすくみ、体が固まってしまった。遠くに退避した従者は気づいたがもうすでに魔獣のかぎつめは彼の細い体を引き裂こうとした瞬間だった。
「殿下!!」
誰もがポリュデウケスが無残に切り裂かれると思っていた。
「大丈夫か…」
「うっ、え…」
自分が死ぬ手前、泣きべそをかいていたポリュデウケスは幻覚を見ているかと思ったが目を擦っても痛みで現実だと分かった。そこには自分の双子の兄が悠然と立っていた。
「どうして、兄上がここにいるのですか?」
「……え〜と、心配でついてきた…まだ立てるか」
「は、はい」
「俺が動きを封じるから、その間に頼んだ」
「分かりました!」
ポリュデウケスは魔法を詠唱して魔獣が防御するいとまを与えさせずに二人の攻撃が一身に追撃する。
「ギャアアア」
魔獣は絶叫と共にパタリと地面に伏せた。
「やったのか…」
「ああ…やったな」
「僕の力だけじゃ倒せませんでした」
その様子を近くで見ていた騎士たちは駆け寄ってきた。
「殿下、カストール様どうしてここに?」
一部始終を見ていた従者も驚いた顔をして近く。
「え〜と……ちょっと散歩していて」
カストールは目を泳がせながら答えるので周囲の者たちも嘘だとバレバレである。
『いくらなんでも嘘が下手すぎる』
ポリュデウケスは思わず脱力感が襲い、笑いを堪えることができなかった。それに釣られて少しびっくりした顔をしたがその後にカストールの口角が少し上がった。
「…へ?」
ポリュデウケスはその時初めて兄の笑った顔を生まれて初めて見て固まった。
話が別のになっている?!と驚かれる方がいると思いますが、この話はティルが記憶を失う前の話です٩( 'ω' )وこの話でティルのキャラにまた新たな面白さが出てきます!
章のタイトルを出すとネタバレになっちゃうので第一章の投稿が終わった時に出すつもりです(´∀`)




