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魔法世界の少年ティルの物語 ~魔力ゼロで元魔王な少年は第二の人生を気ままに生きていきます  作者: yume
第一章:かつて魔王と語り継がれた少年の第二の人生の始まり
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第二十四話:洞窟の中で

 ティルは外で大人達が慌てふためいていることも知らずに、洞窟の中を散策していて呑気に昔を懐かしんでいたのである。


「うわあ、すごいな…こんな所見た事がない……結構暗いけど父さんと狩りにいく時より明るくてよかった」


 ティルは義父のエルヴィスとよく狩猟をしに行っていたため、舗装されてない獣道やでこぼこした岩場などには苦もなく歩ける。また夜に散策して出歩くことも多かったため支障はない。


「これなら早く進めそう」


 日没までには帰れるというリオの話に丸っ切り信じているティルはこの時疑いようもなかったのであるのだが。


「何だろう……何かに見られているようなーー」


 ティルは嫌な予感が払拭できなかった。


 このざわつく感じ、以前、エルヴィスが狩りをする時に酷似している。まるで獣に見られているような張り詰めた空気がピリピリとして、つばをうまく飲め込めない状態である。


 洞窟の中は静寂に包まれている。かすかな音でも洞窟内では反響するだろう。


 パラ


 その音にティルは動きを止める。


 落ちてきたものを見ると岩のかけらである。そっと緩慢な動作で岩のかけらが上から落ちてきたのかと上を覗き見る。


『なんだ ……岩のかけらかーーー』


 けれど、何か不自然さを感じたティルはそこをじっとよく窺うとーーー


『あの部分 、何か……』


 その時、二つの光ががぎょろりと動いた。二つの光は目ん玉である。口元からにょろりと青い舌が蛇のように不気味である。その二つの目がティルと目が合った様な気がした。


 そこにはヤモリのような大型がべっとりと岩に張り付いていたのである。岩に擬態していたのもあるだろうが、気配もなく近寄ってこられた恐怖に駆られるティル。生き物なんて微塵もいるとは思っていなかったティルは間抜けな声を出してしまう。


「へ」


 何だ 、この生き物は……殺気も気配も「無かった」


 それに今まで見た事がない生き物にティルは二つの選択肢が頭に浮かぶ。一つは戦うことだが、得体の知れない未知の生き物に無謀もいいところである。しかもティルは魔法を使うことができない。


 こんな生き物に対処する時は、


 『これはーーー逃げよう』


 チラリと後ろを窺うとティルの後を追いかけている魔物の姿を視認する。


「追ってくるよね〜!!? と言うか来ないで〜〜」


 叫び声をあげながら全速力で駆けていくと、


「な……んとか……はあ、はあ、逃…げのびた」


 壁を伝う生き物は思った以上に遅くて助かったのが唯一の救いである。


『どういうことなんだ、魔物がいるなんて聞いてないし』


「ってしまったっ、帰る時はまたあの生き物がいるの何とかしないと、ここはどこだろう」


 道中必死で逃げてきたため目印をつけずに洞窟の奥の奥まできてしまった。


「確か道は一本道しかないって先生は言っていたはずだけど、まさか迷子になるなんて思わなかったな」


 迷子じゃないが、ふと故郷にいる家族や友達のことを思い出した。ひとりでいるこんな時だからこそ寂しく感じてしまう。


『みんな元気にしているかな』


 昔のことを思い出してティルはノスタルジーにかられた。ティルには生まれながら記憶がない。


 あの時リオとマリノアが話していた通り、どうして道の真ん中で倒れていて身体中傷だらけだったのか思い出せない。それは少し日にちが経っても何も思い出す事は無かった。


 迷子の子供を探す専門などに頼んでも該当する者はいなかった。自分の名前さえ思い出せないのだ。手がかりが少なすぎるのも障害となっていた。産みの両親のことさえ分からないのかとティルは心細い気持ちになったものだが……


〇〇


 十年前ーー


「僕…これからどうなるんだろう」


 今よりも成長していないティルはそう思わず吐露するとそれを聞いていたマリノアが話しかけてきた。


「私……頼りないですがティルくんにご飯を食べさせる自信はありますから」


 肩にポンと手を置き、握りこぶしを作るマリノアにティルはいつの間に張り詰めていた緊張や不安がほぐれていた。


「まあ、俺もいるしな」


 クシャとそばにいたエルヴィスはティルの頭を撫でた。


「……はい」


 それからあの街で四人の子供たちと出会い、その時彼らは五歳ぐらいでティルも外見的には五歳前後であった。親もいて、友達もいてティルのことを本当の兄のように慕ってくれる双子に惜しみない愛情を注いだ。だからこそ別れがったのもあるのだが。


 過去のことを思い出していくと、突然何かがよぎった。それはたまに夢やら幻覚で見ていた不確かな物。

 

 それは自分でもよく分からないことの一つだった。あの時、森で見かけた女の子の幻覚はここ学園都市に来て日増しに増えているような気がした。


 つい先日、二人の悪人に誘拐されそうになった女の子を放って置けなかったのもその子と同じ髪の色だったからなのもあるかもしれない。


 ティルの性格からすると例え髪の色が同じじゃなくても、気になって声をかけていたかもしれないが。黒髪を見るとふと思い出してしまう。


 昨日の夢の中ではティルの前に現れたような気がしてならない。自分の知り合いなのかさえも思い出すこともできない。けれど、黒髪の女の子に会えば分かる気がすると不安と恐怖心と戦いながら戻ることができない道を歩いて行った。


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