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イカ釣り編 クラーケン釣り

 作戦説明といっても実際には三人娘やブルーノがやることはなく、筋肉痛で震える腕で食器抱えて待っているだけでクラーケン料理が齎される。とはいえ何しろ巨大イカである。釣り上げたとき周辺に人がいればパニックになるし、塩田の村人全員で美味しくいただくためには、大きなまな板とか大きな包丁とか、塩辛をつけるための樽とか準備が必要なのである。


「釣り上げるための準備より、その後皆で食べるための準備のほうが多いような気がする」


 ジキのツッコミは正しく、作業の合間のお祭り騒ぎとして、カイアから説明を受けた村人達が嬉々として準備をしている。クラーケンを釣り上げる事自体に関しては村人に特に疑問の声は上がらない、8年前に来たときに鯨の魔物を釣り上げているので特に疑問はないようだ。手の空いた村人達が釣りの準備をする俺を遠巻きに見ている。そんな視線の中で、三人娘とブルーノ達をそばに控えさせつつ、竿を組み立てて準備していく。


 今回イカを釣り上げるための餌は餌木と呼ばれるルアーの一種である。2メートルほどの大型の魚を模した、形や色合いの木に金属の芯棒を入れてあり、尻尾の部分には釣り針が束になって円状に針を広げている。


「これも館で作ってましたね。見覚えがあります」


 ブルーノの言葉は正解である。イカ釣りに行こうと言っていた頃に、作っていた代物である。俺は筋力強化魔法と自重増加魔法で肉体強化を終えると、10メートルの竿にサルカンと餌木を仕掛けると、周囲の三人娘とブルーノに声を掛けた。


「お前ら避難したほうがいいぞ?」


「釣り上げるまで近くで見ていたいのですが、駄目ですか?」


「命が惜しくないんだったら、好きにしていいけどな」


 ブルーノに返したその言葉に、全員が村人達と同じ位置まで下がっていった。今回は投げ釣りをするため全力で竿を振る。何しろ目標地点が5キロほど先にあるので、餌木を届かせるだけでも一苦労である。そうして俺が竿を背中側に倒したオーバースロウで、振りかぶり、投げると。


ヴォン


 という大きな音と共に俺の周囲の砂が、俺が背中を向けるほうに、一斉に風に流され砂煙を上げる。竿の先端が音速を超え、衝撃波を発生させたのである。身体強化魔法と、長さ10メートルという竿が生み出す遠心力で、餌木が目標地点まで飛んでいく。その間にリールからは、相変わらず紐サイズの釣り糸が延々と伸び続ける。そうして、ドボンという音が聞こえそうなほどの水しぶきを上げて、餌木が見事目標地点に着水した。


 そうするとまずはリールを巻き上げ、釣り糸の弛みをなくす。餌木が浅い海底に着地するように沈めていき、着地すると竿を引いて、今度は餌木が海面に出るようにリールを巻き上げる。海面近くになるとまた沈める。奇妙なVの字を描くように餌木を動かすのだ。引き上げるときに餌木は、魚が泳ぐ様な動作で海面に向かう、そのように餌木が水流を切るのも、餌木の削り方にコツが居る。そうして何度か着地を繰り返すと反応があった。



「フィーッシュ!」



 掛け声と共にギュンと一気に竿がしなる。海中で大きな何かが餌木を引っ張っているのだ。クラーケンは餌木の尻尾から食いつくと、逃さないように一気に銜え込む。そこを逃さず一気にアワセると、竿は更にしなりUの字を横にしたかの様になる。その引きの強さは、体ごと引きずりこまれるかのようであり、実際砂浜に足がめり込んでいく。釣りの基本は、獲物を疲れさせて糸を切られないように釣り上げる事、元気がいい今のうちは、こちらが引き摺られるかのように、海に足を突っ込むのもやむなしである。ということで、俺は徐々に徐々に引きずられて、海に引きずりこまれていく。


「イペンサ様!」


「大丈夫だ心配するな」


 徐々に海に引きずりこまれる俺に、心配になったらしいヌイが声を掛ける。カイアまで青い顔して心配そうに眺めているが、これくらいは序の口である。膝まで海に浸かった時点で、こちらも反撃に出る。少しずつ足を引いて陸地へと引きずり出す。完全に綱引きの要領である。一流の釣り師は、釣り糸にどれだけの力が掛かったときに切れるか、その強度を把握している。糸が切られるほどの力が掛かったときはこちらが力を緩め、逆に余裕があるときは引き上げる。これを繰り返して獲物の疲弊を誘う。


 釣り師の基礎能力として、獲物との力比べで負けないということが必須であり。俺は汗水たらして獲物との力比べを楽しむ、緩めすぎてクラーケンが岩場の穴に体を固定してしまうと、もう釣り上げる事は出来ない。岩場に近づけさせず糸も切らせない、そうして力比べをしているうちに海が黒く染まり始めた。クラーケンが墨を吐いたのである。巨体を隠すためには、大量の墨が必要だ。入り江の海岸全体が真っ黒く染まった。


 そうしてお互いに引きずり上げ、引きずられての膠着こうちゃく状態を1時間ほど続けると、ようやく抵抗も緩んできた。釣りの獲物が目に見えない地味さに、見物していた村人達も作業に戻っていた。変わらず俺の様子を見ているのは、三人娘にブルーノとカイアである。カイアは息子を抱えて祈るように俺の様子を見ている。なんだかんだ言って、こういう時には心配性を発症するのだから、まったく持って姉御肌である。


 1時間も全力で強化魔法を使いながら、釣りの技術もフル投入すると、流石の俺でも疲れてくる。あまり長引くと竿も耐久限界を超えて折れてしまう。これ以上の力比べは俺に不利と判断し、一気に勝負を掛けることにした。リールを巻き上げつつも、陸地に向かって一歩ずつ背を向けて後退する。


「引き上げるぞ! 避難しろ! かなりの大物だ!」


 そう見物客達に声を掛けつつリールを巻くために、今度は海に近づいていく、海に近づきながらリールを巻くことで、海に近づいた分の糸の緩みをリールで巻き取るのだ。あいも変わらず綱引き状態だが、リールを少しずつでも巻き上げているのが、先ほどまでとの違いである。そうしてリールを巻き上げること30分、ようやくクラーケンの姿が黒い海の隙間に見える赤茶色の何か、として見えてきた。


「でか~! こんなの陸に上げても仕留め切れないじゃ~ん!」


 ルサはまだ全貌の見えないクラーケンの大きさが分かったらしい。驚きの声を上げている。それを気にせず俺は引き上げ続ける。そうして分かった大きさは、頭の部分だけで10メートル、ゲソの部分を入れると20メートルを越す、大物クラーケンであった。ここまでの大物クラーケンは俺も初めてである。獲物が疲れているといっても、俺自身も疲れている。絞めるのに苦労しそうである。


「ファイナルフィーッシュ!」


 砂浜に引き摺り出されたクラーケンは、その巨体の半分ほどを黒い海にさらしながら、未だに海に帰ろうと全力を振り絞る。なんとしても陸には上がらないつもりらしいが、こちらとしては完全に陸に上げて、呼吸困難で弱ってから絞めに掛かりたい。波とタイミングを合わせて、波が打ち寄せる時には引き、引き返す時には引いた分のリールを巻き上げる。そうして砂浜に打ち上げられるようにずりずりと引っ張り出す。クラーケンのゲソにつかまらないように、糸の長さを調整して、クラーケンと俺の距離を20メートル程にしている。


 不意に墨が俺に向かって吐き出された。クラーケンの墨は肌に付着すると生物を一時的に盲目にする。だが心配は無用、胴付長靴と防水ジャンパーの組み合わせは最強である。大半の墨をよけると、若干の飛沫は胴付長靴に防がれてしまった。


 ちなみに胴付長靴とは、通常のゴム製の長靴からズボンと胸元までが一体になった、靴とズボンだと思えばよい。よく魚屋や漁業関係者に愛用される一品である。俺の装備の場合は冒険者用の物で、かなり丈夫な部類だ。ジャンパーをブルゾンとせず、ズボンをパンツと呼ばないのは、漁業関係者には一般的な名称のほうが通りやすいため、この名称で固定されてしまったのである。格好付けたがりの冒険者などは湿地装備などと呼ぶが、俺は釣り師なので呼び方も漁業関係者よりなのである。


 そうして若干の抵抗にあいつつも、とうとうクラーケンは浜に引きずり上げられたのだった。冒険者ならここで勇壮に止めを刺しに行くのだろうが、俺がそんなことするわけがない、呼吸困難と乾きで死ぬように、じりじりと波の掛からない場所まで引きずっていくまでである。


「なんというか、伝説の海魔の最後にふさわしい感じ、ではないですね」


「だったら命懸けで戦ってみるか? 活きの良いゲソが取れるぞ?」


「ほんの数分の活きのよさのために、命掛ける趣味はないです」


 ブルーノがなんだか残念そうに、クラーケンの最後を見つめるが、その口からは早くもよだれが垂れているので、余り気にしていないのだろう。そうして俺は釣り糸を引いてクラーケンの抵抗を確認すると、砂浜に刺し立てていたトライデントを引き抜く。トライデントとは三叉みつまたほこや、三叉銛もりと呼ばれる武器であり三叉の槍状の武器を指す。俺のトライデントは刃が全面についており、又の部分まで刃が付いている。突くよりも切断するための武器である。


 そんなものを何に使うかというと、弱ったクラーケンの目と目の間に急所があり、そこを狙って一気に突くのだ。竿を竿立てに掛けるとじりじりと近づいていき、一気に急所に突き立てる。何の盛り上がりもなく、クラーケンは討ち取られたのだった。


「伝説の魔物が、あっけない最後になって」


「俺は冒険者じゃなくて釣り師だ。安全確実に獲物を仕留めるに決まってるだろ?」


 猟師だって仕留めた鹿の最後の抵抗で、角に刺されて死ぬことがある。伝説の魔物相手に余裕をかまして、格好つけて死んだら笑いものにしかならない。カイアの前でそんな死に方したら、一生恨まれる事だろう。


 そうして急所を一突きした俺は、接近しないと無理な頭とゲソの間の部分の急所も、次々とトライデントで刺していった。俺のトライデントはそういった大きな獲物の、大きな動脈などを刃で切るための武器であり、絞める為の道具である。クラーケンの抵抗がないことを確認すると、それでも用心して、トライデントで足を切断して、抵抗されても大きな脅威がないように解体を始める。そうして頭とゲソを分離すると、いよいよ安全が確認されたので、村人達がこぞって解体を始める。これで俺の出番も終わりだ。


「パパー!」


 そうしてクラーケンから離れた俺に、駆け寄ってきたのはカイアの息子だ。ブルーノが目を丸くして驚いている。


「イペンサさん、子供いたんですか?!」


「血は繋がってないよ、カイアの息子は父親が居ないからな、俺が父親代わりだ」


 そう言ってカイアの息子を抱き上げると、クラーケンがよく見える位置まで肩車をして移動する。そうしている間にカイアも俺の隣に来て文句を言う、ツンデレという奴である。


「本当にあんたは心配掛けないでよ、海に引き込まれたらどうしようかと、気が気じゃなかったわよ」


 そう言って俺に後ろから抱きつくのである。きっと目に涙をためているから、顔見られたくないんだろう、俺は俺で肩車をしているので、振り向くことも出来ない。本当に面倒見の良い、いい女である。昨晩は一緒に過ごせなかったが、今日は盛り上がるとしよう。皆もクラーケンを肴に酒盛りだろうから、カイアと俺が消えても問題ない。村人達は大きすぎる獲物に悪戦苦闘しながら、嬉々としてクラーケンの皮を剥いだり、筋を取ったりしている。


「墨に触れるなよ~、一時的に盲目になるからなー」


 そう注意するとクラーケンが初めての、漁に出ない若者連中が驚いて飛び退っている。ちなみにその特性は、クラーケンの死後1日ほどすると抜けて、イカ墨スパゲッティなどに使えるようになる。これまた美味いのだが、墨を取っておくのに苦労するので、たまに網に引っかかる幼生体の墨などは捨てられることもある。


 だがこの村でも幼生体が網に掛かることがあるため、クラーケンが美味いのは知られており。そのために村人達は嬉々として、墨の回収までして、解体作業をしているのだ。幼生体より大きいほうが美味いとされており、漁では取れないこのサイズは、村人達にとっては宝の山のように見えるだろう。


 俺の必要分は絞めるときに確保してあるので、村人達が解体するのを眺めているわけだが、それを待ちきれない人物が一人存在した。


「それで、いつになったら、食べられるのでしょうか?」


「分かったよ、今出してやるから待て」


 ブルーノの食欲に負けて、俺の分け前のクラーケンを刺身にする。そうしてクラーケンのイカそうめんを用意すると、魚醤を用意してやる。三人娘、ブルーノ、ゴーディ、カイアとその息子が、山のように盛られたイカそうめんを箸でつつく。貴族は簡単に食べられるフォークを使うが、漁民は作るのが簡単な箸を使う。2本の比較的真っ直ぐな棒があれば何でも箸になるので、貧乏人の食器として使われているが、魚を食べるのに便利なため最近では魚介類に貴族も箸を使う。


 使うのに技術が居るので、扱える貴族は海に面した領地を持つ貴族くらいだが、サカーワ領は港を持っており。特に魚好きのブルーノに使えないわけがない。そうしてクラーケンを食べたブルーノは、驚きの声を上げていた。


「美味い! 確かにイカですけど、本当に甘みが強いですね。生食なのに生臭くもなくて食べやすいし、上品な味わいです。これは他にどこで手に入るんですか?」


「1メートル級の幼生体なら、偶に漁の網に掛かることもあるだろうな。外道とされるしすぐに駄目になるから、とっとと料理しないといけない。だから調理済みなら漁民に話をつければ手に入るんじゃないか? 大きいほど美味いといわれているから、幼生体がこれと同じ味とは行かないだろうがな。実際幼生体は味が薄いしな」


「な! イペンサさんしか獲る人がいないということですか? すみません、もっとください味を覚えて反芻はんすうします」


 そう言ってブルーノは山のようなイカそうめんを、次々と食べていく。それに負けずにルサも食べ始める。大きさが大きさだったので、ブルーノが腹いっぱいになるまで食べても十分余るが、無理して腹を壊されても困る。


「好きなだけ食べてもいいけどな、調理法は色々あるし塩辛にすれば一ヶ月は持つ、そんなにあわてて食うことないぞ」


「でも箸が止まらないわよ、これは。幼生体も十分美味いと思っていたけど、成体がこんなに美味いなんて!」


 カイアお前もか。幸せそうに魚醤にイカそうめんをつけて食べている。その息子も同様だ。


「あれ? カイアには食わせたことなかったっけ?」


「村で幼生体が上がったときに、調理法は教えてもらったけど、それ以外じゃ食べたことないわね」


「はあ、じゃ、俺が一人のときに釣り上げたんだな。あの時はどうやって処分したんだっけな?」


「なに! あんた一人でこんな美味しいもの食べてたの? 村のこんな近くで取れるんだったら分けなさいよ!」


「ああ、すまんな。一人旅の間に釣り上げたんだと思う、ロタに食わせたかも」


 犬に食わせたの一言に、ブルーノどころか三人娘からゴーディに至るまで、睨むかのように俺に視線が集中した。


「アホー! こんなに美味いもの犬に食わせるんじゃないわよ! 私の順番は犬より下か!」


 代表してカイアが俺に文句を付けた。ロタよりカイアの順番が下では立場が無いだろうが、俺が気にすることは無い。


「そう言われても、一人旅の間にこんな大きな獲物を捕まえたら、処分に困るだろう? 殆ど塩辛にしたと思うが、容器がないとそれも作れないからな」


「うちの村で釣り上げればいいのに、何で旅してるんだかね! いつまでたっても定住しないんだから! 私が他の男を作ったらどうするつもりなの?」


 拗ねたカイアが話を妙な方向へと持って行く。


「考えてないがショックを受けつつも、定住しないから仕方ないと諦めるだろうな」


「簡単に諦めるんじゃないわよ!」


 これは宥めないと益々拗ねてしまいそうだ。


「まあまあ、これで気分でも落ち着けて」


 そうして痴話げんかしつつも、今度はクラーケンのキモ合え刺身を差し出す。クラーケンの内臓に塩を混ぜて、それを皮を剥いた身に合えたものである。これが発酵すると塩辛になる。


「うま~、これも美味しいわね。まったく、料理だけで私を繋ぎとめられる、なんて思ってないでしょうね?」


 などと言いつつカイアはクラーケン料理を食べ続ける。その間に手の空いた村人に酒を持ってこさせたり、村に送るために塩辛を樽詰めにする指示も出しているのだから、凄いものである。流石に20メートル級とあって、村人全員に一皿くらいは回るだろう。


「イペンサさん、クラーケンを釣れる釣り師は、どうすれば育てられますか?」


「無理だと思うぞ、まず身体強化魔法が使えないと話にならない。筋力強化と自重増加魔法を同時に掛けられる魔法のスキルが必要だ。まあ自重増加は錘でカバーできるが、その二つの魔法の同時使用が出来れば、普通は冒険者か騎士を目指す。その上で釣りの腕がいいのはもちろん、釣り道具をそろえるだけで一苦労だ。あの釣り糸はな、水竜のひげを特殊加工した一品だ。竿も鯨の魔物の骨を削りだしたものだし、サルカンとか釣り針はオリハルコンだし。釣具を売れば城が築けるな、使える人がいないから観賞用になるだろうが」


 と、ここまで話した時点で皆の目が点になっていた。


「イペンサさん、どんだけ財力があるんですか? 流石に釣り師を育てるのは諦めましたよ。それだけ金がかかるとなると、それを持っているイペンサさんを雇うことすら出来ない。財も才能も贅沢に使っているんですね」


 この場合の贅沢ってのは無駄って事かな? ん? ブルーノは味方だと思っていたんだがな。


「あのな、別に俺は金で買ったんじゃなくて、一つ一つ魔物を釣り上げて何年もかけて手に入れたんだよ。オリハルコンは流石に手に入らないから、貴重な魔物の素材と交換したが、それ以外は自前で自作だぞ」


「つまりイペンサさんに弟子を採ってもらうのが最短だと?」


「そうなるかもしれないが、俺は弟子を取らないぞ、俺はまだ若いしこの年で後継者育てるつもりはない」


「あんたはまたそんな事言って! いつまでも若くないんだよ、いい加減身を落ち着けな!」


 ここで酒の入ったカイアが絡んでくるが、イカ飯を差し出して説教を回避する。残念ながら頭の部分に米を詰めるのは無理なので、米を身で包んで皮で縛った一品を炊き上げたものである。ガシ国は地方で主食が変わる国である。西部は芋が一般的だが内陸部では米も食されている。


「うま~、イカって本当に食べ方色々だね~」


 いいぞルサ、もっとやれ。食いしん坊のルサが、そうやって新しい料理にいち早くありついて、感想を付けると、皆も「どれどれ」と会話を忘れて群がるのである。こうして世話好きのカイアの説教発動前に、次々と美味い料理を差し出して、説教を回避しているうちに、カイアはいい具合に出来上がっていた。


 釣り上げたのが昼過ぎで、解体が終わる頃には日が沈みかけており、皆が俺の料理を真似て宴会を開いている。燃料に使う薪をかがり火に、塩田は殆ど祭のような様になっていた。移民しなければならない村人達の悲しみの払拭と、逃げ出す際に余ってしまう物資の消費をかねての祭りである。酒もふんだんに振舞われ、伝説の海魔が肴のため酒が進む。


 そんな中俺はカイアを支えて、カイアの寝床まで運び込むのである。カイアは親方ということもあり、塩田の管理の為に1年中この塩田に住み込んでいる。そのために家も用意されており、普段は息子と二人暮しである。息子のほうは既に寝てしまったのでヌイに預けて、カイアを運び込んだは良いが、今晩俺の股間の竿でフィーッシュするという俺のもくろみは、完全に崩れ去っていた。泥酔状態の女相手では全然嬉しくない。


「あんたはね~、普段私がどれだけ心配していると思ってるの? 一年のうち数日しか合えないのは、貿易商の夫を持つのと同じと考えて、我慢しているのよ?」


 結局酒が入ると説教が出るカイアの前に、俺は説教を受ける羽目になった。酔っ払いの絡み酒である。なんだか余計に性質が悪くなってしまった。


「私はあんたが定住しなくてもいいわよ、でも無事に毎回帰ってくるか分からないのが嫌なの。他に女がいたって構わないわよ、でもお願いだから心配かけないでよ。あんな危険な魔物釣り上げたりしなくていいの、村の皆のために必要だってわかってる。でもね、私は心配なんだから、少しは安心させてよ」


 本当にカイアはいい女だ。完全に姉さん女房だが、心配する様がかわいらしくて、ついついカイアの前では格好を付けてしまうのだ。


「分かっているよ、だから毎年同じような時期に来ているだろ? 今年だって遅れる旨は伝えたじゃないか」


「それくらいで安心できると思ってるの? あんたは美味い物のためなら、どんな無茶だって苦労だってしちゃうんだから、常に心配なのよ」


「はいはい、俺が悪いよ。お前はゆっくり休んで寝てしまえ」


 そう言って布団をかけてやると、カイアが俺の袖を掴んで離さない。


「嫌、今日は一緒に寝るの」


 そう言って甘えるカイアは、ベッドに俺を引きずり込もうとする。まあ仕方ない、ここ最近はずっと心配ばかりしているんだろう。まだ祭りは続いているが一緒に寝ることにした。カイアの布団は当然カイアの匂いがする。包み込むような優しい匂いと、傍らのカイアの暖かさに俺はまどろんでいくのだった。

 既に書き上がっていたのですが、エピローグに納得いかずに加筆中です。

 エンディングに近づくに連れ、締めくくりがこれで良いのか、考えることが多くなってきたので、場合によっては2日以上間が開くかもしれません。ご了承ください。

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