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ALC0968⇔女三人で水入らず

「ええと……最初の素材は首都ヴュデルを出て南東におよそ730ULウムラウト……って、港町ザルメルじゃない。え、意外に遠くない?」


 私達三人と二匹は首都の正門を潜り、いざ一つ目の素材を探す旅に出たところである。

 地図とメモを頼りにくまごろうと並んで先頭を歩くレミルはそう口を開き溜息を吐いた。


「よくメモを見なさいよ、レミル。港町まで行くんじゃなくて、港町に向かう途中の街道で一度海岸線まで出られる場所に赤い×印が付いているでしょう? 目的地はそこよ」


「あーホントだ。……でもここから260ULだったら、到着した頃には日が暮れてるわね……」


 地図とメモを見比べて再び溜息を吐くレミル。

 どんだけ歩きたくないのか、この溜息を聞いただけでもひしひしと伝わってくる……。


「目的の場所の近くに漁村があるみたいですから、まずはそこを目指してからしっかりと準備したほうが良いかも知れませんねぇ」


「……そうよね。だって……」


 アーネルに同調するかのように低い声でそう呟いたレミルは、今回の目的の素材のメモにある情報を指で差した。

 皆の視線がその文字に集中する。



----------

◆封神剣ドラグニクル(レプリカ)◇

【武具作成必要素材①】

 光鎧竜の閃光鱗(光鎧竜/super rare)×1

【備考】

 首都ヴュデルの東海岸に稀に姿を現す希少竜。

 公国四大海竜の一つとされ、東海域を縄張りとしている。

 かつて全ての海を支配していた龍神王の加護を消失した今、目撃する者が極端に少なくなったと言われている。

----------



「いきなり希少種の竜の素材とか……。てか全部竜の素材なんじゃないのこれ……」


 今更メモを全て読み返したレミルはすでに三度目の深い溜息を吐いた。

 確かに今回必要とされている素材は全て『竜』にまつわる物ばかりだ。

 しかし、今の私達にはすでに二体の『神』と行動を共にしている。

 相手がその龍神王とやらであれば話は別だが、そうでなければ順調に素材を集められる計算である。


「竜種は全般的に魔法に弱い性質がありますからねぇ。まあ中には属性によっては全く効果の無い相手もいるらしいのですけれど」


「うん。それにこの『光鎧竜の閃光鱗』はドロップ直後に強烈な閃光を発する特徴があるわ。その光が消える前に錬金術で形状劣化を防がないとレア度が一つ低い『光鎧竜の鱗』になってしまうのよ」


「はいはい、そこで私の出番っていうわけですね。分かってます、分かってますよーっと」


 そう言いメモを仕舞ったレミル。

 うーん、どうやらまだ機嫌を直していないらしい……。

 この旅が終わったら本気でルクサスさんに頼み込んで、レミルとデートしてもらえるようにお願いするしか無さそうだ……。


「漁村はこの街道を東に真っすぐ進んだ先の別れ道を北東に進んだ先にあるみたいです。そこまではほぼ一本道ですし、首都近辺はモンスターも出没しませんからちゃちゃっと進んじゃいましょう」


「お。アーネルはやる気満々ね」


「ふふ、今夜は新鮮なお魚が食べられそうですわ」


「……そっちか」


 アーネルの言葉にガックリと肩を落とす私。

 しかしそれとは対照的にメラメラと炎を燃やす女が若干一名、前を歩いています。


「そうよ!! この国ってお魚が美味しくて有名な国じゃない!! 捕りたて新鮮な魚介! 刺身! 串で丸焼きにした物だって状況が相まって更に美味しそうじゃないの!!」


『がうー!!』『ミーミー!!』


 レミルがガッツポーズをすると釣られてくまごろうとミーシャまでもが同じポーズをしている。

 まだ出発したばかりで御飯の時間じゃ無いんだから、この子達を煽るのは止めてくれレミル……。


「よーし! そうと決まればさっさと漁村に向かうわよ! 用意は良い? くまごろう! ミーシャ!」


『がう!』『ミー!』


 レミルの号令を聞き敬礼のポーズをとった二匹はその直後、レミルと共に駆け出して行ってしまった。


「……あー……」


「うふふ、レミルさんたら。食べ物の事になると最近いつもああですからねぇ」


「……いや、元々あんなんじゃなかったっけ………はぁ」


 のほほんと笑っていられるアーネルが羨ましい……。

 でもまあ、理由はどうあれレミルのやる気が出てくれたからそれでいいか……。


「さあ、私達も向かいましょう」


「そうね。早く追い付かないと、あの三人じゃ迷子になっちゃうかも知れないし」



 私とアーネルは同時に首を縦に振り、レミルらを追いかけて行きました。





 公国首都ヴュデルより東およそ260ULの位置にあるビンシャーク漁村に到着した頃にはすでに日が落ちかけていた。

 今夜はここに宿泊し、明日の早朝には海岸線を南下し目的の竜岩洞と呼ばれる洞窟に向かうことになる。

 そこでルクサスより手渡された魔工具の一種である『竜呼笛』という笛を吹くことで光鎧竜を呼び出すことが出来る手筈となっているのだが――。



「あーーー、食った食ったぁ! やっぱ旅の疲れを癒すには爆食いするに限るわねぇ!」


「いや、旅って言っても数時間街道を歩いただけだし……。ていうか食べ過ぎじゃないレミル……。普通に引くわよ、その量は。流石に」


「お魚も新鮮な物ばかりでしたし、首都の祝勝会で出されたお料理よりも美味しく感じてしまいましたわ」


『がふぅ……』『げっふ』


 アーネルの横にははちきれんばかりに腹を一杯にしたくまごろうとミーシャが苦しそうに横になっていた。

 調子に乗って食べ過ぎたなおまえらも……。


「やっぱ捕れた物は捕れた場所ですぐに食べるのが一番美味しいからね。この民宿のすぐ隣にあるお店には燻製ものとかも売っているみたいだし、明日出発する前にお土産で買って行こうかしら」


「お? あの鬼のサナエさんがお土産を買うってことは、やっぱり今回の旅は女三人(+二匹)水入らずの旅行っていう認識で良いって事よね?」


「断じて違う」


 まだ食べたりないのか、キョロキョロとテーブルに残っている物が無いか見回しているレミルにチョップをかます私。

 さすがに首都に置いてきたルーファスが気掛かりだから、せめてお土産くらいは……なんて思っていたなんてレミルには口が裂けても言えないが。


「せっかくですしここで海の景色でも眺めながら明日の作戦でも練りましょうか。日が海に落ちていく様を見ながらお茶なんてとても素敵だと思いますし」


 そうにこやかに言ったアーネルは店員さんを呼び、三人プラス二匹分の飲み物をオーダーしてくれる。


「レミル? ちゃんとお願いしておいた錬金玉や錬金グッズ、持ってきた?」


「当たり前でしょうが。私を誰だと思ってるのよ。『形状劣化防止玉』と『簡易錬金セット』、それに一応『捕獲玉』やら『ヒール玉』、それに攻撃玉各種盛りだくさん! ちゃーんと言われたとおり用意してるんだから」


「合格。じゃあお茶が来るまでに簡単に説明しちゃうわね」


 店員さんがテーブルの食器を片付けてくれたタイミングで私は地図とメモをそこに広げた。

 そして竜呼笛も一緒にその横に並べる。


「明日の朝にここを出発して海岸線を南下すると、すぐにこの竜岩洞が見えてくるわ。結構深い洞窟みたいだけれど、ドドレゴルドさんが言うには洞窟の入り口でこの竜呼笛を吹けばすぐに光鎧竜が出現するらしいの」


 地図に大きく赤い×で記されている場所を指で差し示し説明を続ける私。

 その横ではくまごろうとミーシャが二人で一緒にいびきを掻いて寝てしまっていた。

 寝るの早っ。


「……もしかして、この洞窟って海に面してる?」


「そりゃそうでしょう。地図で見ても海岸線と隣り合わせになっているんだし。『竜岩洞』っていうくらいだし」


「えー、じゃあ濡れるじゃん、確実に……。どうせ戦闘もあるんだろうし、こんなことなら水着持ってくれば良かったわ」


「あるわよ、水着。三人分」


「え!!! マジで!?」


 急に耳元で大きな声を発するレミル。

 どう考えても彼女のこのテンションは女三人水入らずの旅行のアレだろう……。

 まあ水には入るんだけど……。


「さすが、準備が良いですねぇ、サナエさんは。じゃあ明日は水着を着たまま海岸線を南下していく感じでしょうか?」


「いや、別に出発の時点で水着を着なくても良いとは思うんだけど……。……いや、着て行ったほうが良い、のか? この漁村とそんなに場所が離れていないし、どうせ海岸線を下って行くんだし……」


「そうよ! それにいつどこでその光鎧竜が出現して戦闘開始になるか分からないし! もしかしたら女三人で水着で歩いてたら海で遊んでいる男子グループとかにナンパされるかもしれないし!!」


『……がう?』『……ミー……』


 バンとテーブルを叩いてレミルが立ち上がり叫んだせいで、気持ち良く寝ていたくまごろうとミーシャが目を覚ましてしまった。

 ……ていうか海で遊んでいる男子グループなんて、今までに出会ったことあったっけ……。この異世界で……。


「水着はどんな感じなのでしょう?」


「え? あー、まあ普通、かな。色は私が白でレミルが赤、アーネルが水玉模様のやつ。昔あっちのオフラインの世界で水浴びに使ってた物と似たようなのが首都の雑貨店で売ってたからね。必要になると思って買っておいたのよ」


「えー? もっと派手でキワドイやつのほうが良ーいー」


「何しに行くのお前は」


「私はあの柄の水着、結構好きでしたから嬉しいですぅ。ありがとうございます、サナエさん」


 私がジト目でレミルを睨むと笑いながらそう答えたアーネル。

 まあ何だかんだ言ってレミルも嬉しそうな顔をしているから許してあげよう。

 ちょうど店員さんがお茶を用意してくれたので、テーブルの上の地図とメモを下げ、私達は海を見ながらそれを頂くことにする。


 徐々に日が落ち、もうすぐ夜を迎える。

 久しぶりにこんなゆっくりとした日を迎えることが出来たことに感謝しよう。

 生きていくには必要だろう、こういう日も。

 


 レミルとアーネルの楽しそうな掛け合いを見ながら、私はカップに口を付け、そんなことを考えていました。




ストックが無くなったためしばらく休載致します。

連載再開の際はまたよろしくお願い致します。

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