ALC0968⇔素材集めのメンバー
「ちょっとサナエ! これは一体どういうことなのよ……!!」
宮殿の客室に戻ってきた私とほぼ同時にレミルが部屋の扉を開く。
何だろう……あの剣幕は……?
「お二人ともお帰りなさいませ~。ちょうどお茶を淹れようとしたところですから、三人分用意しますねぇ」
私とレミルを交互に見つめて笑みを浮かべたアーネルはソファから立ち上がり台所へと向かう。
『がうー』『ミー』
「ただいまー、くまごうろう、ミーシャ。良い子にしてた?」
嫌な予感がする私はとりあえずレミルをスルーし、ソファから身を起こした愛する我が子達を愛撫するため、そのままソファに雪崩れ込む。
「いやいやいや無視かっ!! 見てたわよサナエ!! 今さっき東殿でアルルハイム伯爵と楽しそうに喋っていたでしょうが!!!」
「……あー」
「『……あー』、じゃない!! どうしてデートに誘われた私は予定を延期させられて! ルーファス様とイチャラブ勝ち組のサナエはアルルハイム伯爵と楽しそうにお喋りしているのよ!! それもあんな近くまで顔を寄せちゃったりしちゃったりなんかして!!! キーーー!!!」
ついに発狂したレミルはそのままズカズカと部屋に入り、ドスンと椅子に座った。
……うん。ていうかルクサスに誘われたっていうデートは延期になったんだ……。
あの色男、レミルを怒らせたらどうなるか知らないんだろうな……。
いやそれよりも、一体どこで覗いていたんだろう彼女は……。
「ルクサスさんは、レミルさんに興味が無いだけじゃないでしょうかぁ?」
「んなっ!!!」
「アーネル……。今地雷踏んだ……。とてつもなく巨大な」
ドン、とテーブルを叩き再び立ち上がるレミル。
そしてお盆に三人分のお茶と菓子を持ったままのアーネルに詰め寄るかと思いきや――。
「…………うぅ…………うえええぇぇぇぇん…………!!!」
「あ。泣いちゃった」
その場で両手で顔を覆い、しゃがみ込んで泣き出したレミル。
子供か。いや思春期の女子なのかまだ。
「あらあら、泣かせてしまいましたねぇ。とにかくお茶が入りましたから、一息つきましょうか」
「…………うん。グスッ」
「あ。泣き止んだ」
すくっと立ち上がったレミルは涙でグシャグシャの顔のままお茶を啜り菓子を頬張り始めた。
唖然としたまま開いた口が塞がらなかった私だが、思い直して隣の席に座る。
うん。これがレミルだ。稀代の失恋女王と言い換えても良い。立ち直りが早い。
しばらく三人でお茶を楽しんだ後、アーネルが再び口を開く。
「それで、ドドレゴルドさんのほうはお話が進んだのでしょうか?」
「うん。かなり作成するのは難しいみたいなんだけど、ルクサスさんと二人で協力すれば何とかなるって」
お茶のおかわりを三人分入れ替えながら、私はそう答える。
すでにアーネルには大体の内容を伝えていたから話が早い。
ちょうどレミルも帰ってきたし、ついでにここで次の目標を共有しておこう。
「え? そういう話? アルルハイム伯爵に会いに行ったわけじゃなくて、ドドレゴルドさんに会う流れでついでに彼と話すことになっただけ?」
先ほどまで泣きはらした顔で私を睨みながら菓子を頬張っていたレミルは、コロッと態度を変えて笑みを漏らす。
それを横目で見ていたアーネルは耐えきれずに笑ってしまっている。
「なーんだぁ、早く言ってよぅ。私はてっきりサナエが彼と東殿で落ち合う約束をしていて、そこで良い感じになっちゃって顔を寄せ合って――っていう流れなのかと思っちゃったじゃない」
「いやいや。無いから。私、あの人苦手だし」
大袈裟に手を振った私はそのまま懐からドドレゴルドから預かったメモ用紙をテーブルに置く。
「これが今回集める必要素材よ。数はそんなに多くないけど、レアリティの高い物ばかりだから結構大変だとは思う」
「げ、全部SR素材じゃないこれ……。唯一助かるのは全部首都からそこまで離れていない場所で手に入るってことくらいなんじゃないの?」
「そうですわね……。あまり聞いたことの無い素材ばかりですけれど、入手場所が分かっているのは助かりますよね。ここまで調べが済んでいるのですから、やはりドドレゴルドさんは凄い方なのでしょうねぇ」
関心したようにそう言ったアーネルはメモに書かれた素材の一つ一つに指を置き、そこでふと手を止めた。
「? これらの素材は全てモンスターを討伐した時にドロップする物で合っておりますよね?」
「うん。かなりレアなモンスター達なんだけど、奴らを呼び寄せることができる魔工具をルクサスさんから預かっているから集めるだけならそんなに難しくないと思う」
「まあ、いずれにしても私らは生産職と後衛職だし? レア素材を落とすモンスターっていうくらいだからかなり強いんだろうし? この国にはいくらでも強い人達がいるし、ルーファス様やあのブランキーさん? っていうおじさんも相当強いみたいだし? ここは大人しく首都で留守番するしかないわよね?」
「そうですねぇ。私もまだまだ読みたい本が沢山残っていますし。この国の宮廷図書館は本当に暇つぶしにはもってこいの場所ですから」
そう言い談笑するレミルとアーネル。
私も彼女らに混ざり笑みを浮かべつつ、それぞれの手で二人の肩をポンっと叩く。
「おめでとう。今回の素材集めはこの三人で行くことに決定したわ」
「……え」「……はい?」
硬直する二人に笑みを振り撒く私。
「今回のモンスター達は魔法に弱い傾向があるわ。それと素材をドロップすると形状劣化する特殊な素材もあるの。そういう素材はその場ですぐに錬金加工して劣化を抑えないといけないのよ」
「魔法……」「形状劣化」
「それにドロップ率は討伐者の『LUC』のステータスに影響するわ。魔法、錬金、LUC。……つまり?」
「私と、レミルさんと、サナエさんが必要……」
「もちろんくまごろうとミーシャも連れて行くわ。この子達が居れば、私達三人でもモンスターと戦えるでしょう?」
『がうー!』『ミーミー!』
「……いや、やる気出さないで……くまごろう、ミーシャ……」
そう呟いたレミルは頭を抱えてしまった。
だが、恐らくこれが今揃えられるベストメンバーであることは確かだろう。
公国が今大変な状況にある中で、迅速に動けるのは私達くらいなのだから。
「さあ、アーネルの用意してくれたお菓子を食べ終えたら、さっそく出発するわよ」
「え、もう……? そんな急に?」
「……レミルさん、諦めましょう。こうなったサナエさんはもう、何を言っても聞いてくれませんし……」
ため息交じりにそう言ったアーネルは立ち上がり、食器を片付け始めた。
うんうん、よく分かってる彼女は。大好き、アーネル。
「レミルもここ最近ずっと運動不足でしょう? そんなんじゃブクブク太ってルクサスさんに愛想尽かされちゃうよ?」
「うっ……。それを言うか……」
図星を言われガクッと肩が落ちるレミル。
そして意を決した彼女は立ち上がり、こう叫んだのだった。
「うがーーーー!! やってやらああーーーーーーー!!! 待ってろよ!! 公国のモンスター共ぉぉーーー!!!」
彼女の悲痛な叫び声が宮殿内に響き渡ったのは言うまでもなく――。




