閃光と逃亡
シャルルは思わずレベッカをかばった。
小さく華奢な身体は混乱でこわばりながらも、シャルルの腕の中にいる。
飛び降りる前で良かった。
賊の威嚇か。それとも誰かを狙った発砲か。
このまま、流れ弾に当たる未来があるとしても、絶対にレベッカだけは助ける。
そのとき、ジャンの大声がシャルルの鼓膜に飛び込んできた。
「シャルル様! エレーヌの手の者です! 火薬集団たちの発砲です!」
(これは味方だ)
シャルルは理解した。
敵の賊たちの発砲ではなく、これが味方の支援であることを。
(なぜ、こんなところに火薬集団たちがいるのかは疑問だが……)
しかし、勝機には違いない。
「レベッカ! 駆けるぞ!」
シャルルは思い切り馬の手綱を引いた。
馬がいななき、全速力で走り始める。
火花を怖れもせず、屋敷へ向かっての一本道をすごい勢いで駆ける馬。
突然の襲撃にひるんだ賊たちは、止めることはできなかった。
それどころか、シャルルとレベッカがいなくなったことに、ほとんどが気付きもしていなかった。
「なんだ?」
「火薬だって聞こえたぞ!?」
「おい、よけろ、また来る!」
賊があわてふためいている間に、小さな爆発が地面のあちこちで起こった。
ジャンは叫んだ。
「公爵夫妻は去った。味方はもういない! 思い切り『打ち上げてくれ』!」
早馬家業で有名な実家の若き貴族、ジャンには実力があった。
疾風のように馬を駆けさせると、木立の後ろへ消えていった主人を追いかけていく。
「逃げたぞ、追えっ」
「ま、待て、何か光った」
屋敷の側へ行けばいくほど、少しずつ傾斜のついている土地であることも、賊たちにはあだとなった。
先ほどとは違った発砲音が響く。
腹の底に響き渡るような、重低音だ。
暗闇でも周囲をはっきりと見ることのできる者がいれば、それは小さな大砲の弾のようだったと証言しただろう。
実際、それは大砲の弾と遜色なかった。
だがしかし、それはそこらの大砲の弾よりも、威力が強かった。
エレーヌの実家の火薬集団がお嬢様のたっての頼みとあって、腕によりをかけた『特別製』だった。
そう――、エレーヌは頼んでいた。
『夜空のどこに咲いたとしても、月の果てまで届くような火薬』を。
地面に向けて打ち放たれた爆薬は色鮮やかに散る。
大爆発が起こり、鮮やかな閃光が一帯に広がった。




