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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第三十四章 転換点となる事象

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第154話 殺伐とした埋立地

「これは……港湾部の遼南難民租界と大差無いな。とても人が住むような場所じゃ無い」 


 巨大なトレーラーをやり過ごしてそのまま埋立地の道に車を走らせながらカウラはつぶやいていた。冬の東都城東区。埋立地に向かうトレーラーには基礎工事に使うのだろう巨大な鉄骨がむき出しのまま積み重ねられているのが見えた。走る車は工事用の車両ばかり。去年から本格的に始まった城東沖の埋め立て工事がいかに大規模なものかと言うことを誠達に知らせるには十分すぎる車両の列が続いていた。


「どこを見てもメーカーの物流拠点の倉庫と建設途中の工事現場しかねえじゃねえか。アパートなんかあるのかよ」 


 かなめは砂埃にコートの襟を守りながらそう言った。


「地下鉄の駅が近いからその周辺にはあるんじゃないの?この工事現場だってマンションとか立てる予定なんでしょ?ここだったら都心とのアクセスも良いでしょうから良い値段で売れそうじゃない」 


 かなめの言葉に助手席のアメリアが紺色の長い髪の枝毛を気にしながらぶっきらぼうに答えた。誠も臨海部と言うと危険地帯の難民租界近辺ばかりを思い出していたが、目の前の次第に海へと拡張していく街の端っこと言う光景を見ると別世界のように思えた。


「人が住むには向かないところは租界と一緒か……だけどあっちの方がとりあえずとはいえ人が住んでるだけましかな」 


 つぶやいたかなめに誠も自然にうなずいていた。大型車の絶え間ない通行に瀕死の道路のアスファルトの割れ目から地下水が絶え間なく湧き出す様が目に飛び込んできた。


「これは……帰ったら洗車しないとな。砂埃がボディーに張り付く」 


 カウラはそうつぶやくとようやくビルの基礎工事をしているらしい一角にトレーラーが入っていくのを避けながら車を加速させた。


「でもまあ……数年立ったらここら辺のビルもマンションだかオフィスだかができるんでしょ?そうなればにぎやかになるかもしれないじゃない」 


 アメリアは楽天的にそう言うと周りの工事現場を見渡した。


「アメリア……おめでてえな。一発不況が来ればゴーストタウンの出来上がりだ。どうなるかわかったもんじゃねえよ」 


 一方のかなめは悲観的に物事を見ていた。


「ずいぶん慎重なのね、かなめちゃん……何か悪いものでも食べたの?」 


 かなめの皮肉が通用しないアメリアはそう返した。


「今朝はオメエと同じものを食った……そうか、オメエも悪いものを食ったから変なのか」 


 いつものように一触即発の二人を誠は眺めていた。まっすぐ続く道の片隅にようやくコンビニエンスストアーと完成しているビルらしきものを見つけてほっとして運転中のカウラに目をやった。


「あそこのコンビニの近くだな」 


 カウラはそう言うと走る車の無くなった道で車を加速させる。小さな点のように見えたコンビニエンスストアーの建物が三階建ての比較的新しいビルでその二階より上がアパートになっていることに誠も気づいた。


「コンビニの近くって言うか……コンビニの上じゃん。水島とかいう奴はコンビニの店長だったのか?」 


 かなめの言葉に誠は曖昧な笑顔を浮かべて再び目の前のコンビニに目をやった。


 意外にもコンビニには客が多く見られた。


「結構にぎわってるな……まあこれだけ工事現場だらけで他に競争相手も無いんだ。独占企業の利益とかいう奴かね」 


 助手席から降りると周りを見て回っているアメリアが降りるのにあわせて体を乗り出したかなめの言葉が響いた。誠は苦笑いでそれにこたえた。


「あそこ……駅?なんでまたこんなところに」 


 アメリアが遠くの建物を指差した。そこにはいくつもの地下鉄の出口が見てとれた。周りは造成中で枯れた草だけが北風になびいていた。予定された未来のために作られた駅。現在はただ郊外から都心に向かう通勤客に停車時間の分だけ苛立ちを供給する要素以外の効果は無いだろう駅を見て誠もこの荒れ地に住むことの異常性に気がつきつつあった。



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