第137話 東和共和国の早すぎる近代化
「旦那……そんなことを忘れない俺だと思ってるんですか?俺には目的がある。俺はいずれ死ぬ……旦那と違って俺は不死人じゃ無いからな。でも、そんな旦那も含めた不死人の為にこの世界を変えなきゃいけないという強い意志だけは忘れたことが無いんですよ」
北川は急に真面目な顔をして桐野にそう語りかけた。
「不死人か……貴様に何が分かる。死ぬこともできずに永遠に生き続ける。俺はいくらでも罪を重ね続ける。俺の辻斬りと斬った女を犯すのはその贖罪だと思っている」
桐野の表情は冴えなかった。
「この国は建国四百年とされるが、実際のところ……こんなことは俺でも知らなかったが地球人がこの星に到着する百年前から近代化が始まっていたらしい。大学時代の知人に政府の人口統計局に勤めてる奴が居ましてね。そいつの口から出た言葉だ。まず間違いないでしょう」
北川のそんな言葉を聞いて初めて、桐野は興味深げに北川の顔を見た。
「意外でしょ?いや、意外でもなんでもない話だ。俺をはじめとする『干渉空間』を展開できる法術師なら遼州と地球の距離なんて有って無いようなもんだ。だから当時から一方的に東和共和国は地球の文明を吸収し、文明を取り入れることが出来た。だから遼州独立戦争にもこの国は一切参加せず、地球圏の力の無い連中もこの国には手出しができなかった。なんと言っても互角の装備なら法術師が居る東和に分があるに決まってる。そんな負ける勝負を挑むほど地球圏の連中も馬鹿じゃ無かったということですかね」
そう言う北川の言葉には誇りや力への慢心は無かった。むしろ疲れたような表情が浮かんでいた。
「その話は初耳だな。俺は甲武の生まれだが、遼州独立の手柄は甲武にあると教わって育った」
桐野は相変わらずの無表情で冷酒を煽った。
「その方がこの国にとっても都合が良いんですよ。この国の身勝手な一国平和主義を貫くためには目立たないのが一番だ。目立つ奴は地球の軍事力に蹂躙される。だからこの国は目立たないように遼帝国の前身のゲリラたちに最新鋭の武器を渡し、地球圏と戦わせ自分達の安全を計った……生まれた国を悪く言うのは何ですが、この国はそんな狡い国なんですよ」
北川の自虐的な笑みを見て桐野は口元にうすら寒い微笑を浮かべた。




