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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第三十章 待機が続く苦痛

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第131話 大人しくできない人

 待つ。これが苦手な人が多い。


 誠は目の前の頭を掻き毟って暴れだしそうな女性を見ながらその事実を再確認していた。


「なんだよ神前。その目……なんか文句あんのか?」 


 大人しくできない大人であるかなめは不機嫌そうに誠に向って因縁をつけた。


「なんでもないですよ」


 ちらりとその様子を伺っただけだというのに誠に向けてかなめは因縁を付けてくる。 


「その面がなんでもない面か?どうせおとなしくしてろとか言いてえんだろ?言いたきゃ言えよ。その方がアタシもすっきりする」 


 明らかにかなめは誠に因縁をつけることで退屈に打ち勝とうとしていた。


「止めなさいよ!かなめちゃん!」 


 アメリアの声に立ち上がりかけたかなめが息を整えるように深呼吸をして誠の目の前の席に腰を下ろす。誠はそれを見てようやく安心して目の前の端末に記されているアストラルゲージのグラフに目を向けた。


「西園寺。気持ちはわかる。動きたいのに動けないのは辛いものだ。例えば待ち合わせ時間に台がフィーバーを始めてしまった時。私もよく同じ気持ちになる」


 カウラの例えは大概はパチンコ絡みだった。誠はため息をついてこんなところにまでパチンコを持ち出さなくても良いのにと思った。 


「わかって貰いたかねえよ!それにオメエのパチンコ依存症と一緒にすんじゃねえ!それにその例え、全然今のアタシの心境を言い当ててねえ!」 


 気を使ったカウラの言葉にもかなめは不機嫌に対応した。誠も思わず苦笑いを浮かべるがすぐに察してにらみつけてくるかなめの視線を避けるように身を伏せた。


 すでに警邏隊の巡回が始まって二日。いや、まだ二日と言うべきだと誠は思っていた。直接の接触を避けながらのパトロールでのアストラルゲージチェック。そう簡単に犯人への道が開けるとは誠も思っていなかった。苛立ちの絶頂の中にいるかなめも理性ではそのことは分かっているだろう。しかし彼女の『待つ』と言う言葉に耐える限界はすぐそこまで来ているのは間違いなかった。


 原因は昨日からこの捜査方法を提案したラーナが東都の同盟司法局本局に呼び出されていることだとは誠にも分かっていた。本来は彼女は同盟司法局法術犯罪特捜本部の捜査官であり、その部長嵯峨茜警部の補佐が任務のはずであり、茜が追っている連続斬殺犯に関する情報があればいつでもそちらに出張することが誠達の豊川署への出向の条件でもあった。連続斬殺犯などという派手で腕っ節が強そうな相手を聞いて黙っているかなめではない。こちらの容疑者の十五人。男性9人、女性6人の構成だがどれもひ弱そうな面構え。法術が無ければかなめに取ってはどれも相手に不足がある存在なのだろう。


 かなめが急に伸びをした。重量のある軍用義体に耐えかねて椅子が悲痛なきしみ声を上げる。


「うわー疲れるな!」 


 またかなめは退屈に負けてそう叫んだ。


「何もしていない人は黙っていてよ!大人なんだから少しは大人しくできないの?」 


 かなめの独り言を聞き飽きたアメリアがたまりかねてそう叫んだ。


「なんだ?アメリア。アタシとやろうってのか?いいぜ、勝負は何にする?殴り合いか?飲み比べか?まあどっちもアタシの勝ちは目に見えてるんだが」 


 今度はかなめの退屈の持って行き場はアメリアだった。


「ホントにかなめちゃんは脳筋ね……付き合ってらんないわ。そんなに暴れたければこの庁舎の周りを走ってればいいし、飲みたいんなら今からでも月島屋に行けばいいじゃないの。あの店、昼飲みも始めたらしいわよ。行ってくれば?別にかなめちゃんが居なくても仕事は進むから」 


 アメリアは人をおもちゃにするのは好きだが、自分がおもちゃにされるのは好きではない。


「なんだ!その言い草は!テメエは本当に人を思いやるって気持ちがねえんだな!」 


 その態度を見てかなめはアメリアに喧嘩を売る。さすがにモノクロの画面でグラフの針の動きばかりを追っていて疲れたのはかなめばかりではなかった。アメリアもいつもなら聞き流すかなめの啖呵につい乗ってしまった自分を恥じるように静かに席に着いた。ラーナのような捜査の専門家がここにいれば説得力のある説教で二人を何とかなだめることはできるのかもしれなかった。



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