第3話
誰がどう考えても厄災を引き起こすだろう赤黒い光が一帯に放たれたが、そこに白い光が合わさった結果、何も起きなかった。
槍の男は覚悟を決めた顔だったのがポカンとした表情となり、その後すぐに自分の身体を触ったり辺りを見回している。
そして槍の男は一瞬動きを止めてから俺を憎しみを感じる目で見てきた。
「な゛に゛を゛じや゛がっだ⁉︎」
「どうして僕が何かしたと思ったんです? ここは吾郷学園ですよ? 何かできるとしたら学園長と、まず考えるべきだと思いますが?」
「い゛い゛や゛‼︎ ぜっだい゛に゛ぎざま゛だ‼︎」
この槍の男の発言は合っていて、俺は赤黒い光が放たれた瞬間に葛城ノ剣を出現させ異能力を消し去る光を発した後、すぐに消して何もしてない風を装っていた。
経験上こういう妙な覚悟を決めた奴には余裕を見せる事が大事だと知っているため平然としている。
ただ、槍の男の肌でうごめいていた紋様は相当強力なもので、その紋様から放たれた赤黒い光を打ち消すのに異能力を消す光を一日に放てる限界まで使う必要があったため、今の葛城ノ剣はただの剣にすぎない。
おそらくあの紋様がなくなったのならば、あの赤黒い光を放てないはずと思いつつも、次の別の何かが無いとは限らないからを今すぐに潰すべき結論付けた俺は木刀を槍の男の急所に叩き込もうとした。
しかし、俺の役目は終わったのだと理解する。
なぜなら槍の男は立ったまま自分の影に目以外の全てを拘束されており、他にも辺りの影が激しく波打っているからだ。
『あなた、私の大切なこの吾郷学園に何をするつもりだったのかしら?』
「う゛ーー‼︎ う゛う゛ーー‼︎」
『まあ良いわ。その事は後でたっぷりと聞かせてもらうわね。とりあえず今は……』
周りの影から響いていた黒鳥夜 綺寂の声が静まると、目につく全ての影から様々な種類の打撃武器を持つ影でできた腕が槍の男に向かって伸びてくる。
「う゛ーー‼︎ う゛ーー‼︎」
『ケンカを売った代償を払ってもらうわ』
「う゛う゛ーー‼︎ う゛……」
槍の男のうめき声は打撃音に紛れて聞こえなくなった。
俺の音と色のない世界へ入ってからの攻撃も相手に何もさせない一方的なものではあるが、今の黒鳥夜 綺寂の攻撃は完全に拘束しつつ意識のある状態で叩きのめすという何ともエグイ攻撃だな。
だが、黒鳥夜 綺寂の行動はそれだけでは止まらず、槍の男をぶちのめしながら槍の男ともめていた四人を影で押さえつける。
『あなた達もあの男と同じなのかしら?』
不気味なほど静かな声で問いかけられた四人は、慌てながら自分達と槍の男の蛮行とは無関係だと必死で叫んでいた。
たぶんという前置きは付くものの、四人が叫んでいる事は本当だろう。
もし、この状況で平然と嘘が吐けるなら、そいつは間違いなく神経がまともじゃない。
黒鳥夜 綺寂も俺と似た判断をしたのか、少しの沈黙の後解放された四人はそのまま逃げるように学園の正門から出て行った。
◆◆◆◆◆
数時間が経ち、俺は学園長室に来ていた。
部屋の中には俺、黒鳥夜 綺寂、武鳴 雷門を始めとした聖の主だった奴ら、流々原先生、生徒会、鈴 麗華、システィーゾ、香仙がそろっている。
集まった目的は当然槍の男についてだな。
「さて、みんなそろったみたいね。それじゃあ、わかった情報を共有していくわね。流子」
「わかりました」
そういうと流々原先生は手もとの端末を操作して部屋を暗くし壁に映像を映し始めた。
映像には、あの槍の男の個人情報の一覧が表示されているのだが、俺はある一項目で目が止まりその後流々原先生へ顔を向ける。
「流々原先生、この表示されている情報は正しいんだな?」
「そうよ、鶴見君。ここには学園長の指示のもと聖が中心になって集めた間違いのない情報が表示されているわ」
「あいつが器物級だと……?」
「あの槍使いの男事、塚鳩 丈二は吾郷学園とそれほど関係を持っていない外部組織である赤橿に所属していた器物級よ」
「うん? 所属していた?」
「はい、現在は除籍されているわ」
「今回の事で処分されたのか?」
「除籍になったのは数日前みたいで、理由は赤橿の機密を持ち出そうとしたかららしいわ」
「それだとおかしくないか? 学園長は特に問題がないと判断したから学内に入る許可を出したんだよな?」
俺がそう聞くと黒鳥夜 綺寂を中心に暗闇が波打った。
…………ああ、これは完全にキレかけているな。
「どうやら、おかしいくらいの労力をかけて塚鳩 丈二に何の問題はないと情報の操作がされていたみたいなのよ」
「という事は、塚鳩 丈二は学園長をだませる実力のある別の組織に所属し直したというわけか」
「その通りよ」
「それなら、その組織の誰かが塚鳩 丈二を器物級から魔導級に引き上げたんだな?」
「その事に関してはおそらくとしか言えないわ」
「なぜだ?」
「そこからは私が説明させてちょうだい」
香仙が手を挙げて一歩前に出てきた。
「へえ、お前が素直に協力したんだな」
「それぐらいはするわよ。それで話をしても?」
「ああ、悪かった。続けてくれ」
「コホン。まず塚鳩 丈二を私の匂いで操っていろいろ聞きだしたわけだけど、肝心の黒幕に関する事は全く聞けなかったわ」
「まさか……尋問の最中に始末されたのか?」
「違うわ。単純に黒幕についての記憶が一切なかったのよ」
「はあ?」
「ある日、どこかの誰かから赤橿の機密に盗んでくれば魔導級以上の力をくれてやると言われたみたいね。でも、結果的に失敗したから魔導級止まりにしかなれなかった。それで、もし、今回あなたをどうにか出来たら精霊級の力を手に入れられたかもしれないって悔しがっていたわ」
香仙の説明を聞きながら考えていると気になる事がはっきりしてくる。
「とりあえず思いつく疑問は、器物級を魔導級に引き上げたのはあの紋様なのかどうか、そもそもその怪しすぎる組織がほしがっている赤橿の機密って何だの二点か?」
「たぶん誰かの異能力だと思うけれど、あの紋様については私でもはっきりした事はわからないわね。赤橿の機密についてはあっちの領分ね」
香仙が黒鳥夜 綺寂を指差すのを見て、それは確かにそうだなと納得したため黒鳥夜 綺寂へどうなんだと視線で聞いてみた。
「こういう組織内のゴタゴタは内々で処理される事がほとんどで、さらに自分達の機密をほいほい明かすところもないとくれば通常は何もできません。ええ、通常であれば」
「まあ、どこ世界でもそんなものだな」
「ですが、今回は鶴見君のおかげで何の被害もなかったものの、一歩間違えば大惨事が起きていたと言えるでしょう。絶対になあなあにはさせずに聞き出します」
黒鳥夜 綺寂の力強い宣言に俺達はおおーっと盛り上がる。
やっぱり上に立ち人間はこうでないとダメだな。
俺が前の世界で出会ったムカつく奴らの事を思い出していると、システィーゾが俺を見てきた。
「システィーゾ、どうした?」
「いや、どこのどいつかは知らんが、鶴見を狙った理由は理解できるなと思っていただけだ」
「そうなのか?」
「鶴見が鶴見でいるから起きる周りへの影響を危険視したようだな」
「…………なんだ、それは?」
「連中は器物級で腐っている奴らに力をやると言って仲間に引き入れているようだが、少しでも鶴見と関わった奴ならそんな誘いには乗らないはずだ」
「それはそう。目の前で異能力の等級を覆すところを見ていたら、等級で諦める前に己の鍛える事がどれほど大事か理解できたでしょうね」
「なるほど、だから気合が入っている奴らが多かったんだな」
「…………鶴見君、あなた自分の影響力に気づいてなかったの?」
流々原先生に驚かれながら聞かれたが、俺は秋臣を守りたいというのが目的だから他の奴らの事にそこまで意識を割いてないと正直に答えたら、それならしょうがないかみたいな反応をされた。
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