第23話
武鳴 雷門の胸を叩く音と放電の音が響く中、俺の興味はこいつがどんな攻撃をしてくるかにひかれていた。
いくつかパッと思いつくものもあるけれど、一番は雷精だな。
わざわざ生み出したものを、どんな風に使うんだ?
「今から見せてやろう」
「うん? ああ、頼む」
どうやら俺が雷精を意識している事を気づかれたらしい。
ドン、ドン、ドン、ドン、ドン。
戦いの最中は、ずっと胸を叩き続けるのかという疑問は雷精の輝きと放電も強くなっていく事で解消した。
感心しつつ待っていたら、その輝きと放電がある一定を超えた時に、それは起きる。
俺を囲む全ての雷精から光線が俺に向かって放たれたのだ。
なんとも単純な攻撃だと思ったが、おそらくあいさつ代わりなのだろうと考え直し向かってくる数十本の光線を一本残らず斬り捨てた。
「なっ⁉︎」
「…………どうして驚く? お前は俺の戦い方を見てたんじゃないのか?」
「全て避けられるだろうと考えていたが、まさか完璧に迎撃されるとは……。こちらの想定を簡単に超えた驚きに予想外が起きた喜びで複雑な気分だ」
いくらでも武鳴 雷門が驚いた隙をついて攻撃できたものの、まだまだ興味が勝っているためさらに静観する。
「そうか、それでどうする? 俺との戦いを続ける気はあるか?」
「当たり前だ」
「それなら次の手を見せてみろ」
「良いだろう。ふんふんふんっ‼︎」
武鳴 雷門の胸の叩き方が変わった?
さっきまでのを一打一打をはっきり分けて強く打っていたのに対して、今の叩き方はひたすらに速さを重視したものだ。
お、武鳴 雷門の叩き方に反応している雷精も輝きは収まる代わりに放電がどんどん強くなっているから、確実な変化と言えるだろう。
「ここまで俺の異能力の事前準備ができるのも稀だからな。全力でいかせてもらうぞ‼︎」
武鳴 雷門の叫びとともに放電している雷精が武鳴 雷門に集まっていき、まるで雷が目の前に落ちたかのような轟音と光が炸裂したため、数歩下がりながら顔を腕でかばう。
確実に一般人なら感電死して炭化する強さの電気量なんだろうが、轟音の後でもバチバチという放電音が続くから武鳴 雷門は問題ないらしい。
光が収まり土煙を払って出てきたのは武鳴 雷門なのは当然として、見た目が大きく変化していた。
「これが俺の全力、雷精化だ‼︎」
「なるほど、自分の身体を自分の異能力そのものに変えたのか」
武鳴 雷門の身体は、服装も含めて全身がさっきまで俺を囲んでいた雷精のように透明な結晶となっており、放電量は全ての雷精を合わせたより多いかもな。
香仙の花びら化はあくまで防御や回避のためのものだったが、この武鳴 雷門の雷精化はどう見ても攻撃特化としか思えない。
「いくぞ‼︎」
武鳴 雷門が叫んでいる途中で俺の背中にゾワッと嫌な予感がして俺は反射的に横へ跳びながら転がる。
すると言い終わった瞬間、武鳴 雷門の身体がパンッという音といっしょに弾けた。
ドカンッ‼︎
次の瞬間、また雷が落ちた音が聞こえたため体勢を整えた後に音のしたところを確認したら、右拳を突き出した武鳴 雷門がいた。
あの武鳴 雷門の拳の位置は、俺の顔があったところだな。
「雷速の攻撃……か」
「その通り。この状態の俺の初撃を避けられたのは褒めてやる」
「確かに全力にふさわしい攻撃だな」
「今度は俺が聞く番だな。どうする? 俺との戦いを続ける気はあるか?」
「……それならこう答えるだけだ。当たり前だろ。次は俺の斬撃を見せてやるよ」
「楽しみだ」
不敵に笑っている武鳴 雷門を目にしつつ、俺は脱力からの跳び込みで間合いを潰し武鳴 雷門の懐に入る。
「おお‼︎」
武鳴 雷門はかなりの速さで移動した俺を見失っておらず、俺の動作の全てを認識して嬉しそうに笑ったままだ。
ふむ、それならこれにはどう反応する?
俺が武鳴 雷門の身体から出ている放電を全て斬り捨てると、武鳴 雷門は驚いて唖然としていた。
こいつの余裕は、俺が近づけば自分の放電にやられると思っていたためで、それとさっきの雷精の光線を斬ったのは距離があったからとも考えていそうだ。
さすがに至近距離での放電が斬られる事は予想外だったらしく、絶好の攻撃機会であるこの硬直は逃さず斬撃を放ち腹部で真っ二つにして上下に別れさせた。
普通ならこれで俺の勝ちなんだが、俺は二つになった武鳴 雷門の身体が点滅を始めたため斬りかかる前の位置まで戻る。
そして数瞬後には大量の放電とともに武鳴 雷門の身体が弾けて消えた。
まあ、電気の塊が制御を失えばこうなるのは必然だな。
それでも周りの帯電が解けないという事は、まだ武鳴 雷門は近くにいるわけだ。
「…………うん?」
俺が武鳴 雷門の位置を見極めようと気配を探っていて俺を囲んでいる別の存在に気づくと、そいつらはすぐに姿を現した。
「また放電している雷精が出てきたという事は武鳴 雷門も無事な証拠か」
俺のつぶやきに答えるように雷精達が繰り出してきた攻撃に少し驚いた。
なぜなら半分がもはや見慣れた光線を放ってくるのはどうでも良いとして、残りの半分が俺へ突進してきたからだ。
一度体験した一斉狙撃よりも、前衛が放電を伴う突進で俺の体勢を崩しつつ後衛の狙撃により致命傷を狙うという連携を取られた方が厄介なのは当然で、さらに雷精自体も斬られたら弾ける事が予想できるため、きちんと倒し方を考える必要がある。
つまり斬撃後の雷精の破裂も斬り捨てると決めてその場から動かずに全てを迎撃するか、絶えず動きながら各個撃破を狙うか、葛城ノ剣の光で周りの帯電ごと消し飛ばすかだな。
結局俺は動きながらの各個撃破を選んだわけだが、三割ほどを斬り捨てた頃にもう一つ考えなければいけない事に気づく。
武鳴 雷門は本当に雷精が出ている時に本体を出せないのか?
そんな考えが浮かんだ時、俺の頭上でバチンという今までとは違う放電音が聞こえた。
俺は高速で動きつつ撃破し続けている中でさらに考え事をしたせいで反応が遅れたため回避を選ばず、とっさに葛城ノ剣に光をまとわせて頭上へ振り上げる。
ズガンッ‼︎
ほとんど勘で振り上げただけだったが、何かとぶつかり俺の頭上で雷が落ちた音と衝撃が起きる。
「く、そ、があっ‼︎」
体勢が悪いため完全に押され始めたので対抗せず、倒れながら身体を回転させ葛城ノ剣とぶつかった何かの落ちる方向を無理やり変えた。
なんとか直撃は防いだものの、俺のすぐ近くの地面で再び起きた衝撃で吹き飛ばされたので、数回地面を跳ねた後、木刀と葛城ノ剣を地面に刺して勢いを殺す。
俺が止まった場所でちらりと後ろを見たら、俺のすぐ後ろは強く帯電しているところだった。
ふー……、ギリギリで感電は免れたか。
「この攻撃すらも防がれるとはな……」
武鳴 雷門が地面に拳を打ちつけた状態で、俺の方を向き驚きや関心に多少のイラつきが混ざった声で話しかけてくる。
「防げたわけがあるか。不利な体勢から強引に動かしたせいで腕がしびれている」
「俺の一撃を受け止めて、その程度ならば防がれたと同じだ」
「そうかよ」
やっぱり、さっき葛城ノ剣とぶつかったのは、雷精化したままのこいつだったか。
「一度やられたふりをして隠れ、さらに物量で攻めて俺の意識がそれたところで死角になりやすい上からドカン。ずいぶんと奇襲に力を注いでいるんだな」
「お前に勝つには、これくらい必要だと判断したのだが、まだ過小評価だったらしい。こうなれば、あとは全力の総力戦で挑むしかないようだ」
立ち上がった武鳴 雷門の周りに全ての雷精が集まり輝きと放電が強まっていき、それと同時に今度は雷精化した武鳴 雷門自身も輝きながら放電しているから総力戦というのは嘘じゃないらしい。
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