第21話
透明なガラスでできた獅子と虎がグオオッと敵意のこもった声を出しながら俺に迫ってくる。
前に学園長室で叩き落とした禅芭高校の生徒が生み出し放ってきた強化ガラス製の弾丸もよくできていたが、このガラスの獣もなかなか興味深い。
特にガラスでできているのに声を出せる理由が気になるものの、今注意するべきなのはそこじゃない。
注意しなければならないのは、その見た目だ。
体長が本物よりもデカく素早いため、普通であれば噛みつかれるか爪で引き裂かれるか巨体に潰されるかのどれかしかない。
また表面に再現されている体毛もガラス製なので、ほんの少しでも身体をかすめれば皮膚がズタズタになるだろう。
本来なら接近戦を挑む相手ではないのだが、俺は迷いなくこちらから近づく。
そして木刀で二体の足を叩っ斬り地面に倒してから首を落とした。
「な……」
このガラスの獣を生み出した俺の対戦相手の生徒は、自信を持っていた攻め札が俺にあっさりと撃破された事で動揺して動きを止める。
俺は隙を逃さず異能力者の懐へ跳び込み右横腹へ木刀を打ち込むと、痛みと苦しさで倒れた異能力者の顔の前に木刀を突きつけた。
「それまでっ‼︎ 勝者は鶴見だ」
「それじゃあ、次の人を……」
俺達の戦いに立ち会っていた先生が決着を宣言したため、次の相手を指名しようとしたが俺の目にうつるのは俺に木刀を打ち込まれて負けいまだに痛みが抜けずにうずくまっているもの達しかいない。
「って、この人が最後でしたね」
「ああ……、この実技の授業に参加している精霊級と魔導級の生徒は全員君に負けたよ」
「そうですか……」
「吾郷学園の精鋭に勝ったというのに嬉しくないのか?」
「正直に言って物足りないので。あ、そうだ。次は先生が相手をしてくれませんか?」
「い、いや、それは……」
「冗談です。授業の終わりまで隅で鍛錬してますね」
俺は教師の返事を待たずに歩き出したが、俺の中に吾郷学園の精鋭とやらに勝った達成感はない。
俺の中にあるのは苛立ちと焦りだ。
あの香仙を倒した日から、俺は秋臣を二度も守れなかった自分を恥じて前の世界の戦場にいた時の自分に戻ると決めたのだが、とにかく困難であった。
なぜなら、この世界には俺を命を賭ける場所がほとんどないからだ。
戦場にいた時の俺ならほんの少しも油断なんてしていないから、どんな不意打ちをされようと秋臣を守れたはずなのに……。
「フッ、フッ、フッ、フッ、フッ」
俺は前の世界の自分を少しでも取り戻すために、秋臣を守るための一本の剣になるために、一振りごとに余計なものを削ぎ落とせるよう集中しながら素振りを繰り返す。
◆◆◆◆◆
素振りに没頭していたら何かに身体が反応して斬り捨てる。
何を斬ったのか気になり集中を解くと俺の視界には消えていく途中の炎がうつった。
どうやら俺が斬ったのは、この炎で間違いないようだな。
斬ったものが何かわかったため俺は再び素振りに戻ろうとしたが、ふとこの炎に見覚えがある事に気づき、周りを見ると俺の考えが正しいとわかった。
「システィーゾ」
「よう、鶴見」
システィーゾが鈴 麗華、荒幡 桜、流々原先生、千亀院 燈、幼女状態の香仙とともに俺の方へ歩いてきている。
香仙についてだが、あの黒鳥夜 綺寂に連れ去られた後、なぜか吾郷学園の初等部の精霊級として所属する事になっていた。
いったい黒鳥夜 綺寂と香仙の間に何があったのか気になるところではある。
しかし今の俺には最優先に考えないといけない事が他にあるため、この疑問については後回しで良い。
というか、システィーゾが俺の方へ歩きながら再び炎を放ってきたから、いつものように木刀で炎を斬り捨てる。
「システィーゾ、僕に何か用ですか?」
「鶴見君、言葉使いは普段通りで良いわよ」
「は?」
「学園長や流々原先生から、あなたに関する説明を受けたわ。ふへへ……」
「一つの身体に二つの魂なんて、本当にどこまでも私の興味を刺激してくれる存在ね」
千亀院 燈と香仙の様子から、どうやら二人が俺の事を知っているのは確からしいな。
「…………流々原先生、俺の事を教えた理由は何だ? 事と次第によっては秋臣を危険にさらす敵と認識するぞ?」
俺がシスティーゾ達へ殺気を放つと、遠くで俺達の成り行きを見ていた実技担当の先生と精鋭連中が戦闘体勢になったが関係ない。
「理由は単純で、鶴見君、あなたの事をできるだけ理解してあなた相手に戦う時の戦力になってもらうためよ。鶴見君をほんの少しでも侮る事がないようにね」
「俺の相手だと?」
「ええ、最近の鶴見君は真剣に戦いたいみたいだから」
流々原先生が言うと、システィーゾ達は全員異能力を発現させて構えた。
…………疑問しかないな。
「いろいろと聞きたい事はある。だが、まず言わせてもらう。真剣に俺と戦うのか? お前らだけで?」
「確かに私達だけなら本気の鶴見君を相手にするのは役不足よ。私達だけならね?」
次の瞬間、俺の周りに無数の小さい竜巻と金属塊が出現した。
なるほど風と金属なら間違いなくあいつらもいるわけか。
俺は納得しながら迫ってくる竜巻と金属塊を全て叩っ斬っていく。
そして最後の一つまで片付けて周りを見ると、俺を聖の連中が囲んでいた。
ふむ、生徒会の連中はシスティーゾ達といっしょか。
「もう一度、言うぞ? 真剣に俺と戦うのか? お前らだけで?」
「まるで私達だと相手にならないと言いたげね?」
「そう言っている」
「へえ……」
聖の副隊長である入羽 風夏が俺の発言にピクッとこめかみを痙攣させる。
こいつ本当に俺の事が気に入らないんだな。
俺は小さくため息を吐いた後、音と色のない世界へ入り入羽 風夏以外の聖の連中を叩きのめしもとの位置に戻った。
入羽 風夏が俺に倒された周りの連中に気づいたのは、俺がもとの位置に戻った一秒後。
「な……」
「前に言った通り、俺はお前らより圧倒的に速く動ける。どんな異能力を持っていようが、その異能力を使う前に気絶したら一般人と同じなんだよ。まあ、異能力を使われたら使われたで全て斬り捨てるだけの事。ところで、まだやるか?」
「貴様……」
「言っておくが、お前にできるのは降参する事だけだ。それ以外をしようとしたら木刀を叩き込む」
「く……」
俺の発言に入羽 風夏は動けなくなっていた。
ふむ、確かに俺は降参する以外をしようとしたら倒すと言ったから、何もしなければ時間を稼げるな。
この時間で何か仕掛けてくるか?
うん? 呼吸がしづらくなった?
「かふ、こは……」
「油断をしたな‼︎ 貴様を中心に酸素濃度を低下させた‼︎ 異能力者は何もできなければ一般人と同じならば、貴様とて酸素を必要とする生物である事には変わりない‼︎ そのまま落ちてゆけ‼︎」
なるほど、酸欠か。
魚から水を奪うように実に合理的で効率的な風を操る異能力者ならではの攻め方だな。
…………ああ、それにしても懐かしい。
「ひ、き、貴様、この状況でなぜ笑える⁉︎」
まともに声を出せない空気の薄さから起きる意識の遠のき、感覚の減衰、寒気、それら全てが、敗走する味方を逃すためにたった一人で殿をした時の事を思い起こさせる。
身体中がズタボロになり死にかけてなお、あの時の俺は動き続けた。
そういえば、あの時の俺を見ていた敵の表情は、今の入羽 風夏の表情に似ていたな。
その考えを最後に俺は全ての思考を放棄し、身体が動くままに任せた。
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