第17話
「本当にめでたい。わしの代で立ち会えた事を光栄に思うぞ」
早蕨 一心斎はどこまでも上機嫌になっていて、周りの奴らもさっきまでの不安定な気配と雰囲気がなくなり徐々にお祭りムードになってきている。
とりあえず、はっきりと言っておくべきだな。
「あの、僕は自分で家と流派を潰しているので、そういった事とは無縁なのですが……」
「それは、お前さんがもともと所属しておったところを言っておるんじゃろ?」
「そうです」
「ならば、そのような過去の遺物には何も関係はない。お前さんは自分自身の居場所を作れる権利を得たんじゃよ」
「どうして、そうなるんです?」
「お前さんが大きな武功を立てたからじゃ」
「それは器物達を消滅させた事ですか?」
「それもあるが、それよりもお前さんが使い手となった事が大きいのう」
「あの、これは僕の異能力で生み出したものなので本物ではありませんし、何より弱体化してます。とても使い手に選ばれたとは言えないと思います」
「関係ないのう。どのような形であれ、お前さんは葛城ノ剣を自らの力とできたのじゃ。十二分に使い手と言える」
…………ダメだな。
何をどう言って早蕨 一心斎は引くつもりはないようで、返答に困った俺は流々原先生に視線を向けると厳しい表情だった。
「早蕨校長、勝手に盛り上がられては困ります」
「ふむ、もちろん吾郷学園が主導で構わんよ」
「それならばこちらの、今は鶴見君に家や流派を開く事はさせないという方針を尊重してください」
「…………わからんのう。なぜ、それほどまでに鶴見 秋臣の栄達を妨げるんじゃ?」
「理由は簡単です。彼は学園長直属の実行部隊である聖の隊員ですが、それ以前に学生なんです。過度な責任は負わせるべきではないと思いませんか?」
「鉄は熱い内に打てとも言うじゃろう」
「どんなに言われようとも、我が吾郷学園の方針は変わりません」
「ふうむ……」
流々原先生と早蕨 一心斎の意見の対立によって雰囲気が悪くなっていく。
といか、この大広間に入る前に感じた重い空気は、俺のこれからを話し合ってお互いに賛同できなかったからなんだな。
本来なら秋臣の考えを伝えられたら良いんだが、眠っている秋臣を無理やり起こして聞くほどでもない。
…………当たり障りのない事を言っておくか。
「あの」
「何かしら? 鶴見君」
「今は自分の事に集中したいので、家とか流派については何も考えられません」
「じゃが、多少の障害は禅芭高校の総力によって排除できるのじゃぞ?」
「ありがたい話ですが」
「…………残念じゃのう」
「すみません」
「その気になった時は、いつでも言うんじゃぞ?」
「わかりました」
「…………」
早蕨 一心斎はまだ何か言いたそうにしていたものの、俺が頭を下げたのを見てこの話は終わりになった。
「おい」
早く秋臣の目覚めて将来の話ができるようになりたいものだと考えていたら、突然システィーゾに肩をつかまれたため振り返る。
「システィーゾ、何か用ですか?」
「あ? そんなの続きに決まってるだろ」
「続き?」
「中途半端なまま待たされたんだ。今すぐ始めるぞ」
システィーゾが掌の上に炎を生み出すのを見て、そういえば葛城ノ剣の出現という事故が起きたのはシスティーゾ達との模擬戦の途中だったなと思い出した。
「システィーゾ君、一応言っておくけれど、本当にこの場で始めたら私と荒幡さんで圧殺するわよ?」
「…………チッ、わかっている。おい、鶴見」
「流々原先生?」
「戦うのは良いけど、やり過ぎにならない範囲で。それと鶴見君は少しでも異常を感じたらやめるのよ?」
「わかりました。それじゃあ、行きましょう」
俺達は流々原先生の許可を得て広場に移動しようとしたが、大広間の入り口へ向かおうとした俺達の前には千亀院 燈を始めとした禅芭高校の精鋭がいた。
…………俺を見ているな。
システィーゾ達もその事に気づいたのか、三人はピリつきながら俺の前へ出る。
「失せろ」
「邪魔をしないでもらいたいわ」
「退いてください」
先頭にいた千亀院 燈が何か言おうとする前にシスティーゾ達は交渉の余地なしとバッサリ切り捨てた。
千亀院 燈は一瞬怯んだものの、覚悟を決めた表情になり他の奴らも同じような雰囲気を放ち始めた時、千亀院 燈が口を開く。
「私達は、あなた達に決闘を申し込むわ」
「「「は?」」」
「私達は鶴見君と戦いたい。でも、あなた達はそれが気に入らないんでしょ?」
「…………当たり前だ」
「それなら私達があなた達を倒せば、鶴見君と戦う資格があるって事で良いわよね?」
「「「…………」」」
システィーゾが鈴 麗華と荒幡 桜に順々に見ると二人はシスティーゾへうなずき、二人の反応を確認したシスティーゾもうなずいた。
「良いだろう。お前らの挑戦を受けてやる。言っとくが手加減なんざしねえぞ?」
「当たり前よ。そっちこそ人数不利とか言わないでよ?」
「むしろ、それくらいのハンデがあってちょうど良いわ」
「全力でいけるので、ある意味楽です」
ここまでとんとん拍子に話がまとまると始めからお互いにそのつもりだったのかって疑いたくなるな。
まあ、言い合いで時間を無駄にせずに済んだから、俺に話が回ってくるまでゆっくりシスティーゾ達の戦いを観戦するか。
◆◆◆◆◆
全員で広場へ行き、すぐにシスティーゾ達と千亀院 燈達の戦いが始まった。
広場の端から見ていたらよくわかるが、戦況は開戦直後からシスティーゾ達が優勢だな。
精霊級でも上位に入るだろうシスティーゾと鈴 麗華の制圧力はさすがで炎と氷が荒れ狂っている状況下だと千亀院 燈達はほとんど近づく事もできず、何とか対抗しようとしている遠距離攻撃も炎が燃やし尽くしたり氷が受け止めたりと無力化されている。
また、まれに二人の炎と氷を潜り抜けた奴もいるにはいるが、荒幡 桜が瞬時に異能力で生み出した打撃部分が分裂するムチで痛打を浴びせられ拘束されて振り回され投げ飛ばされていた。
荒幡 桜の絶妙な位置どりと手際に感心しつつ見ていたが、次第に俺も混ざりたいという思いが強くなってくる。
しかし、今俺の目の前で行われている戦いは俺への挑戦権を賭けた戦いであり、俺自身も横槍を入れられるのは嫌いなため参戦はしないが、なんとも落ち着かない時間が過ぎていく。
…………ダメだ。
これは何か気を紛らわせるものが必要だな。
奥底に入って葛城ノ剣と戦うは熱中しすぎる気がするから無しとして、それなら何がある?
周りを確認しようとしたら俺の視界をスッと何かが横切ったため反射的につかむと、それは木の葉だった。
どうやらシスティーゾと鈴 麗華の激しい攻撃が生み出す爆風で吹き飛ばされたものみたいだ。
なんとなく俺の周りや頭上を舞う無数の木の葉を見ていたら前の世界での事を思い出す。
そういえば少ないながらもあった停戦期間中の暇潰しにやっていたな。
俺は木刀を生み出して手に持ち自然体で立ち舞っている木の葉にのみ意識を向ける。
そして、俺の間合いに入ってきた前後左右上問わず全ての木の葉を斬り捨てていった。
◆◆◆◆◆
…………久しぶりにやってみたが、これは良いな。
やっぱり動くものを斬る動きは、動くものを斬る事でしか鍛えられないから不規則に舞い落ちる木の葉という身近なもので実践できるのはいろんな意味で大きい。
難点は木の葉が落ちる状況が季節や樹の生育状態に限られてくるという事だが、ない時はシスティーゾの火の粉とかで代用すれば問題ないか。
そんな風にいろいろ考えつつ木の葉を斬り続けていたら、ある時急に木の葉が舞い散らなくなったのに気づいた。
おそらくシスティーゾ達と千亀院 燈達の勝負が決着したのだろう。
まあ、システィーゾ達が勝っただろうなと思いながら勝敗を確かめるため一つ大きく息を吐き意識を切り替える。
「…………僕を見てどうしたんです? 勝負はどうなりました?」
「「「「…………」」」」
本来なら勝敗がつき、どちらかが悔しさに塗れどちらかが高揚しているはずなのに、全員が俺を見て複雑な表情をしていた。
「鶴見君……」
「鈴先輩、何です?」
「あなた、何していたの?」
「皆さんの戦いの余波で飛んできた木の葉を斬っていただけですが?」
「…………そう」
「勝敗はどうなったんです?」
「私達が勝ったわ」
「おめでとうございます。すぐに僕とも戦いますか?」
「それは……」
「「「…………」」」
システィーゾが当然という感じで攻撃してくると思ったが誰も何もしてこない。
「あの?」
「今日はやめておくわ。システィーゾ君、荒幡さんはどうする?」
「戦う気分じゃなくなった」
「私もです」
「というわけよ。鶴見君、続きはまた今度ね」
「……そうですか。わかりました」
あれだけあった戦意がなくなっているのに疑問を覚えつつも半端な気持ちで戦い始めると碌な事にならないと理解しているため、俺は了承した。
その後は解散したのだが、別れる前に俺を指差して言ってきたシスティーゾの「必ず追いついてやるから首を洗って待ってろ‼︎」という言葉が印象的だ。
今までで一番悔しそうだったのは本当になんで何だ?
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