第16話
秋臣を守るという一点でのみ繋がった俺と葛城ノ剣の共闘関係を確認した俺は、奥底から出て現実世界に戻った。
「…………」
『はっはっは、貴様の仲間は実におもしろいな』
「黙ってろ」
『この部屋を埋め尽くす氷に、どのような意図があるかをぜひ聞いてみたいものだ』
「だいたい予想はつくが、どうせ嫌でも話してくるだろ。そうだよな? 鈴 麗華」
俺は部屋を埋め尽くして壁のようになっている氷へ問いかける。
おそらく俺の様子を観察していたのか、すぐに返事があり氷が震えて鈴 麗華の声を発し始めた。
『この氷の目的は鶴見君の動きの制限。とにかく氷の成長速度を上げてるから、システィーゾ君の炎みたいに氷を一度に殲滅するくらいしないと抜け出せない……はずよ』
「そこは言い切るところだと思うぞ」
『いろんな意味で規格外な存在に対応しないといけない私の身にもなってほしいわ。というか、実際のところ鶴見君ならこの状況でも抜け出せるわよね?』
「抜け出すも何も正面から突破するが?」
『…………やれるものならやってみせて』
「わかった」
鈴 麗華への返事をした後、すぐに音と色のない世界に入り木刀を出現させて構え、部屋を埋め尽くす氷を何百、何千と斬り刻んでいった。
◆◆◆◆◆
部屋の入り口から出ると、そこには鈴 麗華とシスティーゾと荒幡 桜がいた。
「こういう感じだ」
「全快という事ね。よくわかったわ」
「チッ……」
「システィーゾ、どうした?」
「鶴見君の周りを氷で埋め尽くす前に、一度システィーゾ君にも確かめてもらってたのよ」
「ああ、システィーゾもあの氷を破ったのか。俺と比べてどうだったんだ?」
「嫌味か、この野郎。お前よりも時間がかかったに決まってるだろが‼︎」
「そうか。それだけ気合を入れて作られた氷だったんだな。悪いな」
「気にしてないわ。そろそろ行きましょう」
俺は、気にしてないと言いつつも明らかに凹んでいる鈴 麗華と、イラついて歯をギリギリ食いしばっているシスティーゾと、未だに一言も喋らず俺を警戒し続けている荒幡 桜のあとをついて行った。
「一応、聞いておきたいんだが、俺が部屋に戻った後の禅芭高校の連中はどうだった?」
「あの時の鶴見君の様子が、あの場にいた生徒達から学校全体へと伝わり不安定な状況になっています。はっきり言って、いつ騒ぎが起こってもおかしくありませんね」
「そうか。それで荒幡 桜、お前はどう思っているんだ?」
荒幡 桜は、俺に聞かれた瞬間足を止め俺の方へ振り向きジッと見てきた。
お、システィーゾと鈴 麗華も荒幡 桜と同じくらい真剣に俺を見てくる。
「…………鶴見君、あなたの引き起こす事は不確定すぎて対処が難しいです」
「今回に関しては俺のせいじゃないぞ?」
「私の個人的な意見ですが、あらゆる厄介事があなたの意思に関係なくあなたへ引き寄せられている気がします」
「荒幡 桜、お前のその態度……、もしかして今この瞬間に俺の周りで何か起きるかもしれないって思ってるのか?」
「否定はしません」
「斬って解決できるものなら俺が請け負うから、それ以外はお前で何とかしてくれ」
「そこまで自信満々にされると、いっそ清々しいわね。でも、わかったわ。できる限りの事をするって言っておくわ」
「鶴見が何かする前に俺が焼き尽くしてやるよ」
「わかりました。全力を尽くします」
三人のやる気に満ちた決意を聞いた後、俺達は再び歩き出した。
◆◆◆◆◆
三人に案内され禅芭高校の大広間に到着すると、中から重々しい気配が複数いるのを感じる。
扉を開けて中を見たら大広間の真ん中に流々原先生と早蕨 一心斎が向かい合って座り、その他の禅芭高校の有力者は二人の周りを囲んでいた。
どうやら何かの話し合いをしているようだが、早蕨 一心斎の顔の険しさからもまだまだ結論には至っていないらしい。
システィーゾ達ですら入るのをためらう雰囲気を前に俺はどうするべきか考えようとしたら唐突に大広間の中にいた全員が俺達を見てきた。
…………まあ、俺達の存在が認識されたなら入り口付近で留まってはいられないな。
俺はシスティーゾ達にチラッと視線を向けると三人もうなずいてきたので、逃げた方が面倒くさくないのではという思いに蓋をして大広間の中に入る。
「流々原先生、すみません。いろいろと手間取りました」
「構いません。…………それで鶴見君」
「何でしょう?」
「もう大丈夫なのかしら?」
明らかに俺の体調以外の事も含んだ流々原先生の言い方に少し苦笑した後、俺は答えるように葛城ノ剣を出現させた。
「安定したようね」
「この剣の能力を含めて癖が強いので慣れるまで多少時間はかかりますが、これからの僕の戦力になってくれるようです」
「本当に良かったわ……」
俺と流々原先生が話していたら、大広間内の気配や雰囲気が興奮しているような混乱しているような喜んでいるような悔しがっているような不安定なものに変わっていく。
そして、その中でも早蕨 一心斎の様子が一番変で、今にも泣きそうな感じだ。
早蕨 一心斎の感情がよくわからず、これは近くで見せた方が良いのかと悩んでいると流々原先生の対面に座っていた早蕨 一心斎が立ち上がってから歩き出し、俺の目の前までやってきた。
「その葛城ノ剣を触らせてもらえんかのう……」
「どうぞ」
葛城ノ剣を横にして渡すと早蕨 一心斎は両手で恭しく受け取る。
「厄介なものでありながら貴重なものというのは大変だったんですね」
「そうじゃのう。歴代の禅芭高校の校長達は、葛城ノ剣を始めとした意思と身体を持つ器物達の新たな使い手になれるよう生徒を鍛えておったが、結局ほとんどの場合は犠牲しか出せんかった」
「だとしたら禅芭高校の関係者があいつらを倒すべきでした。僕のした怒りのままにあいつらを消滅させるという行為は余計な横槍としか言えませんね」
「もちろん複雑な気持ちになっておるのは否定はせん。しかし、お前さんは大事なものを奪われたんじゃろ? それならお前さんには、あやつらを消滅させる権利があるはずじゃ。ここにおるもの達もその点は文句を言えん」
「そう言ってもらえると助かります」
「その代わりと言っては何じゃが、わしの質問に答えてくれんか?」
「わかりました」
俺が了承するとシスティーゾ達と流々原先生から心配そうな視線を感じた。
まあ、俺という存在、俺と秋臣の関係、実際にあのクソ野郎との間であったやりとりなど、言えない事が多いのでわからないとごまかすのが基本だな。
「あ、一応、僕にもわかっていない事が多いのを先に言っておきます」
「うむ、お前さんの答えられる範囲で構わん」
「ありがとうございます。それでは質問をどうぞ」
「それならば、まず器物級のお前さんが、葛城ノ剣を能力込みで再現できた理由はわかっておるか?」
正直に答えられない質問がきたな……。
「…………よくわかりません。ただ実際に戦った葛城ノ剣よりも弱体化しているように感じるので、長い間存在し強い力を持つ葛城ノ剣と死力を尽くして戦った結果、何かしらの影響を受けたのではないかと思います」
「なるほどのう。まだまだ異能力には未知の部分もあり、さらにきっかけとなったのが葛城ノ剣なら無いとは言えんか。それではお前さんは異常があってから宿舎に戻ったと聞いたが何をしておったんじゃ?」
「あの異常の起こった時に、もともと僕の生み出した木刀が無理やり他のものに変えられていく感覚を覚えたので、周りに誰もいない状況で精神統一をしたかったんです」
「つまり突然異能力が暴走しかけたわけじゃな。その状況なら一人になろうとする考えも理解できる。しかし、せめて我らにも一声かけてほしかったのう」
「えっと、その、本当に緊急だったのと、禅芭高校の方々がどういう異能力を持っているのかわからなかったので……」
「それもそうじゃな。終わり良ければとも言うし、お前さんが無事だったからこれ以上は言わんよ」
「ありがとうございます」
その後も早蕨 一心斎は俺の生み出した葛城ノ剣を触りながら、いくつかの質問をしてきた。
本音としては、この頭を使いながら話さないといけない時間が早く終われと思いながら答えていたわけだが、そんな俺からするとある意味拷問に近い時間は早蕨 一心斎の脱力によって終わる。
「ふう……」
「あの早蕨校長?」
「シッ‼︎」
早蕨 一心斎は俺の生み出した葛城ノ剣をダラリと下げた状態から斬り上げてきた。
当然、俺の首を狙った斬撃は見えているから慌てる事なく上半身をそらして避けたものの、早蕨 一心斎の斬り上げは俺の頭上で一瞬停止した後。斬り下ろしに変化して今度は胴体を狙ってくる。
急に俺を攻撃してくる理由がわからないまま、とりあえず右足を軸に左半身を後ろへ動かす事で避けた。
「早蕨校長、何をしてるんですか⁉︎」
「今すぐ止めてください‼︎」
「じじい、それ以上鶴見に手を出したら燃やすぞ‼︎」
「拘束処置に入ります」
「喝っ‼︎‼︎‼︎」
「「「「⁉︎⁉︎⁉︎」」」」
システィーゾ達と流々原先生は早蕨 一心斎を止めようとしたが、その前に早蕨 一心斎の大声が響くと同時に動きかけという中途半端な状態で身体が硬直した。
「邪魔はさせんよ。何しろ、これは必要な事じゃからな。鶴見 秋臣よ、抗ってみせい‼︎」
早蕨 一心斎の斬撃が加速して、あらゆる方向から俺の身体の各部を狙ってくる。
並の異能力者なら異能力を発動させる前に斬られて終わる斬撃を見て、俺は全てを避けながら感心していた。
なぜなら前の世界での経験を合わせても他人のきちんとした剣技を見るのが初めてだからだ。
俺の速さと鋭さを極めた剣とは違う変化とつながりの剣……、見るだけで避け続けるだけで良い鍛錬になるな。
「こういう、剣技も、あるん、ですね」
「く……、喝っ‼︎」
「はっ‼︎」
バシンッ‼︎
早蕨 一心斎の身体を縛る声と俺の殺気を込めた声がぶつかり弾けた。
「何じゃと⁉︎」
「攻守交代です」
「うぬ……」
今度は俺が木刀で早蕨 一心斎の斬撃を再現する形で攻撃していく事で早蕨 一心斎の防御を観察できる。
勢いで葛城ノ剣と木刀の二本を同時に出現させられた事にも驚いたが、それはほんの一瞬の事で俺の意識は早蕨 一心斎にのみ向けられた。
カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ、カン。
何度も打ち込んだ後、とうとう俺の一撃が早蕨 一心斎の持っていた葛城ノ剣を打ち飛ばす。
「僕の勝ちですね」
「はあ、はあ、ふう……、そうじゃのう。お前さんの勝ちじゃな」
早蕨 一心斎が嬉しそうに笑っていた。
◆◆◆◆◆
俺と身体の硬直を解かれたシスティーゾ達は座り早蕨 一心斎と向かい合う。
明らかにシスティーゾ達不機嫌になっているが、ひとまず無視をしておく。
「それで、どうしてあのような事を?」
「ははは、すまんのう。最後の披露に必要だったんじゃ」
「披露とは?」
「この場にいる禅芭高校の関係者に鶴見秋臣が器物達を倒した確かな実力の持ち主だという披露じゃな」
「それに何の意味が?」
「今の披露を終えた事で、鶴見 秋臣、お前さんは自分の家を、自分の流派を設立する事が認められたんじゃ」
「「「「「は……?」」」」」
早蕨 一心斎の言葉にシスティーゾ達も唖然としていた。
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